イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

Han electo a un nuevo presidente.

前回「Se me ha rompido.」では、rompidoponido などのような規則形分詞は幼い子どものものだと思っていたら、実は中近世の時代まではその形が普通に使われていたという事実を知りました。これらの動詞の分詞は規則形が衰退し、不規則形のみが生き残ったわけですが、規則形と不規則形の二つの分詞形を持っている動詞と聞いてぼくが思い浮かぶのは freír と imprimir の二つ。みなさんは他の動詞も思い付きますか?

 

【考察】

Nueva gramática の次の項で、二種類の分詞を持つ動詞について述べられていました。

その普及と使用に関しては著しい差はあるものの、規則形分詞と不規則形分詞を同時に有する動詞も存在する: elegir, reelegir, freír (sofreír, refreír), imprimir, prender, proveer
一般的に、名詞に修飾する場合または叙述用法の場合は、不規則形分詞 (electo, frito, impreso, preso, provisto) は規則形分詞 (elegido, freído, imprimido, prendido, proveído) よりも頻繁に使用される: un libro impreso en papel barato; El libro está impreso en papel barato
この場合、形容詞と分詞は同じ形を取る
規則活用形は、特にメキシコやラプラタ川流域などのラテンアメリカの一部において、動詞として使用される場合に用いられる
他方、その他の地域では両方の使用が見られる(§4.12k)

freír (freído/frito) と imprimir (imprimido/impreso) の他にも elegir (elegido/electo), prender (prendido/preso), proveer (proveído/provisto) も二つの分詞形を持つ動詞だったんですね。
この次の項 §4.12l では「使用傾向には著しい地理的な差異が存在する」として上に出てきた動詞についての説明がなされています。まずは freír「揚げる」から一つずつ確認していきます。

多くの国では han freídohan frito の両方が使用されている(ラテンアメリカのいくつかの国では分詞の frito から派生した fritar という動詞も使用されている)(§4.12l)

通常はまず先に動詞があり、それを活用して分詞を作るはずですが、なんと freír から生まれた分詞の frito から新たな動詞 fritar が生み出されたようです。ちなみに DRAE によると使用地域はボリビア・コロンビア・ウルグアイで、分詞は規則形で fritado 。こんな風に新しい動詞が生まれることがあるんですね。
さらに Dpd からも引用します。

規則形 freído も不規則形 frito もともに完了時制 (he freído/he frito) と迂言的受け身文 (es freído/es frito) で区別なく用いることが可能であるが、今日では不規則形 frito の使用の方が断然一般的である
しかし、形容詞としての使用に関しては frito のみが用いられおり、名詞にもなり得る(freír. 2.)



続いて imprimir「印刷する」。

ラテンアメリカスペイン語では、ヨーロッパのスペイン語と比べると、han imprimido よりも han impreso の方が好まれている(§4.12l)

また Dpd には

スペインよりも特にラテンアメリカにおいて、不規則形 impreso の使用が好まれている明確な傾向が存在するものの、両方の形とも完了時制と受け身文にて区別なく用いることが可能である
形容詞として用いる際は、全スペイン語圏において不規則形 impreso が好まれている(imprimir.)

とあり、動詞として使用する場合も形容詞として使用する場合も impreso の方が選ばれているようです。
RAE の DUDAS RÁPIDAS というページで "¿Es «he imprimido» o «he impreso»?" という質問に対する答えが載っていました。

両形とも有効である。動詞 imprimir は二つの分詞を有しており、両方とも正しい。impreso は13世紀から、imprimido は15世紀から使用が確認されている。ともに教養的言葉遣いで使用されているため有効であると見なされている。

規則形の imprimido よりも先に不規則形の impreso の方が使われ始めていたんですね!元は規則形の rompido が一般的で、後に不規則形の roto が生まれた romper とは逆の流れです。


そして、ここからはぼくは今回初めて知る内容。
elegir「選ぶ」の分詞は規則形の elegido のみだと思っていましたが、どうやら electo も分詞のようで、、、

han electo も使用されているものの、スペイン語圏のほとんど全土で han elegido の方が一般的である: Distinto es el caso del Congreso de la República y varias alcaldías, donde los votantes han electo y reelecto diputados y alcaldes (Hora 5/9/2008)
ラテンアメリカでは不規則形分詞は受け身文では一般的であるが完了時制での使用頻度はかなり低い: Días después, el general Tomás Martínez fue electo presidente de Nicaragua (Prensa [Nic.] 31/12/2001)(§4.12l)

"han electo" なんて形が可能なんですね!?完了時制では頻繁ではないとありますが、メキシコ人の友人に「新しい大統領が選ばれた」という文 "Han elegido/electo a un nuevo presidente" でどちらの形を使うかと聞いたところ「メキシコではどっちも使われてる」んだそう。
さらに、調べてみると EXPANSIÓN のアメリカ新大統領に関するニュース記事 (2020/11/20付)の中で

De confirmarse que en dicho país se ha electo a Joe Biden [...]

とあり、elegido ではなく、動詞の過去分詞として electo が使われている実例も見つけました。


お次は「捕らえる」という意味の prender 。どうやらこの動詞にも不規則形の分詞があるようで、、、

ラテンアメリカでは不規則形分詞は受け身文では一般的である: Los canallas fueron llevados al hospital, y el jefe no fue preso, por el momento, porque tenía influencias (Siglo 10/1/2001)
(昔の分詞形である)preso の形容詞としての使用も一般的である
しかし、preso を完了時制 (Lo han preso) で使用することは推奨されず、その場合は規則形分詞の prendido の方が好ましい(§4.12l)

preso って動詞 prender から来てたんですね!初めて知りました。しかし、この「捕らえる」という意味の動詞に由来するということを聞くと、名詞の preso が「囚人」を意味し、presa になると「餌食」、さらに水が留められる場所ということで「ダム」という意味を表すことに合点がいきます。

これも同じくメキシコ人に友だちに「その容疑者は捕らえられた」という例文 "Han prendido/preso al sospechoso" でどちらの形を使うか聞いてみると、そもそもメキシコでは prender を「捕らえる」という意味では使わないんだそう。メキシコでは主に「(電気や火を)つける」という意味でのみ用いられているそうです。

ぼくは prender は「捕らえる」と「火をつける」という意味とスペインで覚えました。「火をつける」は「(電気やエンジンなどの)スイッチをつける」という意味とともに encender でも表せますよね。しかしメキシコに来てこの encender という動詞がほとんど使われてなくて、「スイッチをつける」の場合も prender が使われていることに気付きました。スペインとメキシコの語彙の違いですが、まさか(ぼくの中では prender の第一の意味だと思っていた)「捕らえる」という意味ではメキシコでは使用されていないという衝撃。ということは、もしかしたらメキシコ人も presoprender から来ていることは知らないのかもしれませんね。
しかし、preso には「囚人」という意味があるので、形容詞として "el sospechoso preso" のように用いるのはメキシコでも一般的なんだそう。


最後は proveer「供給する」。こちらは Dpd からのみの引用です。

規則形 proveído も不規則形 provisto も完了時制 (he proveído/he provisto) と迂言的受け身文 (es proveído/es provisto) で区別なく用いることが可能であり、形容詞的使用の場合も同様である (la información proveída/la información provista)
しかし、今日では不規則形 provisto の使用の方が断然一般的である(proveer(se). 1.)

すべての使用法において不規則形の provisto の使用の方が優勢のようです。似ている形をしている動詞 preverprevisto という分詞形しか持っていませんが、この proveer の方は規則的に活用する proveído という形も認められているんですね。


二種類の分詞形を持つこれら五つの動詞について、スペインとメキシコでの国別の使用優劣を比較しようと思い、規則形と不規則形のどちらの形が優勢なのかをスペイン人とメキシコ人それぞれ三人ずつに聞いてみました。おもしろい結果が出るぞ~と思っていましたが、ナント同じ国の人でも「使う・使わない」の意見が全然違うという衝撃。

例えば、freír は "he frito" という形しか使わないと言うメキシコ人もいれば、"he freído" も一般的に使うと言うメキシコ人もいるし、imprimir も "he impreso" こそが正しいというスペイン人もいれば、自分は "he imprimido" を使うというスペイン人もいました。これだけ答えがばらつくということは、国の中でも地域によって使用状況が全く異なるようです。

そんな中、RAE の ESPAÑOL AL DÍA というページから "Dobles participios: «imprimido»/«impreso», «freído»/«frito», «proveído»/«provisto»" という記事を見つけたので引用させてもらいます。

現代スペイン語において規則形と不規則形の二つの分詞を有している動詞は imprimir (imprimido/impreso), freír (freído/frito), proveer (proveído/provisto) の3つのみであり、二つの分詞形は完了時制と迂言的受け身文にて区別なく用いることが可能であるが、使用傾向はそれぞれ異なる。

アレっ?上で elegirprender にも electo, preso という分詞形が存在するということを知ったばかりですが、この二つの動詞は「二つの分詞を有している動詞」からは除外されているようです。

ちなみに上に書いた通り、メキシコ人の一人は "he electo" という形も使うと言っていましたが、他二人のメキシコ人と三人のスペイン人は「"he elegido" しか使わない」と教えてくれました。さらに「捕らえる」という意味で prender を用いるスペインでは "he preso" という形を使うと答えた人もいませんでした。
この二つの不規則形が動詞の分詞として認められていないのは次の理由からのようです ↓

これらの動詞の不規則分詞と多数に存在するラテン語の分詞に由来する形容詞を混合してはいけない。
abstracto (ラテン語abstrahere の分詞 abstractus に由来)
atento (< attentus < attendere)
confuso (< confusus < confundere)
correcto (< correctus < corrigere)
contracto (< contractus < contrahere)
tinto (< tinctus < tingere) 等
これらの中には過去の時代に動詞の分詞として機能していたものもあるが、今日では形容詞としてのみ機能しており、完了時制や受け身文では使用されない: *Han contracto matrimonio (正しくは Han contraído matrimonio); *Son correctos por el profesor (正しくは Son corregidos por el profesor)
そのため、これらの動詞を«verbos con doble participio(二重分詞を有する動詞)»と見なすことは文法的正当性に欠ける

動詞の分詞としてはすでに使われていない preso は置いておいて、一方の electo はまさにここで紹介されている「ラテン語の分詞に由来し、現在は形容詞としてのみ使用されている語」に移り変わりの最中と言えるのではないでしょうか?electo も過去の時代には一般的に elegir の過去分詞として用いられており、現在でも "he electo" を使う人も一部いるものの、「使わない」とする人が明らかに多数派である状況から、今この瞬間が electo が動詞の分詞として使用が確認されている最後の時期なのかもしれません。

上で確認した Nueva gramática では規則形と不規則形の二種類の分詞を有する動詞として5つの動詞(派生動詞は除く)が登場しましたが、今回ぼくが行った超小規模調査で "he preso" は6人中6人が使わない、"he electo" は6人中5人が使わないという結果が出たように、規則形も不規則形も両方ある程度の使用が確認された freír, imprimir, proveer とは異なり、prenderelegir の場合は不規則形はほとんど使用されていないということが判明しました。この使用状況からこれら二つの動詞は「二つの分詞を有している動詞」とは認められていないのだと考えます。

 

【今回の結論】

● 現代スペイン語で規則形と不規則形の二種類の分詞を有する動詞は freír, imprimir, proveer 3つのみとされている。elegir の分詞に electo を用いる人もいるようだが、割合としては少数であると思われるため、規則形と不規則形がともに一定数使用されている上記の3つの動詞に加えるのは難しく、将来的には形容詞としてのみの機能を持つようになると考えられる。


imprimir に関して、調査を受けてもらったメキシコ人の友だちからおもしろい話を聞きました。彼女によると「メキシコで一般的なのは "he impreso"」なんだそうですが、多くの人が "he imprimido" という形も正しいということを知らず、間違いであるとさえ認識しているため、この形を使うと「『その形は間違ってるぞ』とからかわれることがある」んだそうです。
このように同じ国の中でも認識の違いが存在しているのが事実。可能であれば、もっと地域を絞って、さらに年齢なども考慮した上で使用傾向を調べるのが理想ですね。
あと、おそらく分詞としての使用が「衰退」から「廃止」への過渡期にあると思われる electo についても今後の使用状況を見守っていきましょう。

 

【追記 2021/04/16】

いつものように"Dpd サーフィン"をしていると、動詞 pagar のページにて次のような記述を見つけました ↓

現在の一般的なスペイン語では pagar の分詞は pagado である: «Fui la actriz mejor pagada de la radio» (Posse Pasión [Arg. 1995])
しかし、ラテンアメリカの大部分では口語的使用として古い不規則分詞形の pago が現存しており、通常は形容詞として機能している: «Es uno de los jugadores mejor pagos de la Liga» (Clarín [Arg.] 19.1.97)(pagar(se). 4.)

引用内の二つの例文はそれぞれ「私はラジオ界で最も高給取りの女優だった」「彼はリーグの中で最も高給取りの選手の一人だ」という意味ですが、ラテンアメリカの方では pago という形が pagado の代わりに使われることがあるようです。この pago は形容詞としての使用だそうですが、元々は pagar の分詞形のようで、上で学んだ atento < atender, confuso < confundir といった現在では形容詞としてしか用いられない昔の分詞形たちと同じですね。
electo (<elegir) は今はまだ動詞の過去分詞として使われることも若干あるようですが、そう遠くない将来、この pago (<pagar) のような状態になるのではないでしょうか?つまり、動詞の過去分詞としての使用が廃れて、同じように元「分詞」現「形容詞」のグループに仲間入りしそうな気がします。今回のタイトルのような "Han electo..." という文がいつまで生き残るか見ものですね。