「オオ地震」?「ダイ地震」?
「大地震」
みなさんはこれを何と読みますか?
「オオジシン」?「ダイジシン」?
どっちも正しいと思いますが、繰り返しつぶやいていると一周回ってどっちでもないような気が。。。
調べてみると、NHKのホームページに辿り着きました。
「大」は原則として、漢語(音読み)に先行する場合は「ダイ」、和語(訓読み)の場合は「オオ」と発音するとのことで、漢語の「地震(ジシン)」が後続するため本来は「ダイジシン」のはずですが、例外として慣用的に「オオジシン」という読みも存在する、とのことです。
「地震」の他にも「火事」や「騒動」など音読みでも、昔から存在している言葉は和語っぽく扱われることがあるそうで、そのため例外的に「オオ」という訓読み用の読み方になるそうです。
ちなみに、広辞苑によると、、、
一応、読みで使い分けられるそうです。まあ、地震学者くらいしか使い分けないと思いますが。。。
結局のところ、どっちで読んでも間違えではないということですね。
【きっかけ】
先日、会社の先輩が「メキシコシティは沈んでいる」と言ってました。
ドユコト!?
衝撃的すぎて、なんでこの話の流れになったかは記憶が飛びましたが、なんでも、メキシコの首都であるメキシコシティは湖上に作られた都市だそう。そして、そこでの飲み水を都市の下にある湖(=地下水)で賄っており、そこから水が使われてなくなった分だけ地盤が下がっているそうです。
「埋め立て都市」というだけでも地盤の脆弱さが叫ばれているのに、その埋め立た下の水を抜いてしまったら、もはや都市が崩れていない方が不思議ですよね。。。
そんな街で地震なんて起きたら、、、と思いますが、実はメキシコは世界的に見ても「地震大国」なんです。(メキシコに来るまで全然知りませんでした)
今年の頭にもメキシコシティでそこまで大きくはないですが地震が起き、うちの会社のメキシコシティオフィスもビルに入っているため結構揺れたとか。
地盤沈下に加えて、頻繁な地震もあるこの国の首都の未来が心配でならないです。
EXCELSIOR で "La CDMX se hunde 40 cms. al año y estas son las consecuencias" (2017/11/05付) という記事を見つけたのですが、この記事の最後にオソロシイことが書いています。
なんでも、こういう危険性を持っている都市はメキシコシティだけではなく、我らがトーキョーも含まれているそうです(ちなみに、スペインの Murcia も)。コワイですね。。。
前置きがいつも以上に長くなりましたが、今回は我らが祖国ニッポンとぼくが今いるこのメキシコ、両国にとって切っても切り離せない「地震」に関するスペイン語を見ていこうと思います。
【語源】
まずは、その「地震」という単語から。
いつも通り、De Chile.net の DEEL からの引用です。
「大地の動き (movimiento de la tierra)」を意味したラテン語の terraemotus が由来
terra (tierra) + motus (movimiento)(motus は動詞 movere の過去分詞)(TERREMOTO)
これは言わずもがなでしたね。
ただ、今回の本題はここから。「地震」を表す別の単語がありますよね。
みなさんはどっち派ですか?¿seísmo o sismo?
ぼく個人的には前者で覚えました。
が、つい先日、仕事の関係である会社の工場にお邪魔したとき、災害時の対応についての表が壁に貼られていたのですが、そこには地震が SISMO と書かれていました。
とりあえず、まずは語源を見てみます。
ギリシャ語の σεισμός (seismos = terremoto, agitación, sacudimiento de la tierra) が由来
動詞 σείειν (seien = sacudir, balancear) + 動詞を名詞化させる接尾辞 -μός (-mos)
近代に学問として sismología(地震学)が誕生し、1880年代前半に sismo という単語が国際的な学術用語として現れた
スペイン語では1918年編纂の el diccionario de Rodríguez y Carrasco に "sacudimiento terreste, terremoto, trepidación" と定義され記載されている
ギリシャ語の σεισμός という単語は非常に古く、紀元前5世紀には sacudida, sismo という意味で使用されており、Platón (427 - 347 a.C.) は agitación, conmoción, choque, sacudida という意味で用いた(SISMO)
ラテン語の terremoto に対して、こちらはギリシャ語でした。
日常的には terremoto の方が聞くと思いますが、ニュースでは seísmo / sismo も負けじと使用されているようにぼくは思います。
引用文に「学術用語として現れた」とあるので、やはり terremoto に比べると少し硬く聞こえるようですね。
念のため、Diccionario panhispánico de dudas でも引いてみると、
sismo はラテンアメリカで使われている一方で、スペインではその語源により近い seísmo という形の方が好まれて使用されている(sismo.)
一つ上で引用した中にありますが、sismo はギリシャ語の σεισμός (seismos)に由来するということで、ギリシャにより近いスペインでは元の形の近い seísmo の使用の方が優勢なんでしょうか。
また、terremoto と seísmo / sismo の関係性についてですが、以前「月」に関する記事を書いた時に、luna はラテン語起源で、selen- (ej. selenología, selenita) はギリシャ語起源ということを学びましたが、「地震」の場合もラテン語起源の terremoto に対して、ギリシャ語起源の sismo から sismología という言葉になったんですよね?
ということは、「〇〇学」や学術用語とかはギリシャ語起源ということが多いんでしょうか?
なんだか、日本語で言うところの和語に対する漢語のような関係性に似ているのかなと思ったり。。。機会があればこのテーマに関しても調べてみます!!
さて、次は地震に伴って起きる「津波」について。
スペイン留学中、スペイン人の友だち複数に「tsunami って日本語だって知ってた?」という話をしたら、半分の人は知っていて、もう半分の人は「響きからスペイン語でもロマンス諸語系統でもないと思ってたけど、日本語とは知らなかった」という感じでした。
あと、2011年の東北の大地震のニュースをきっかけに日本語だったことを知ったという人もいました。
そして、その時に「tsunami に当たるスペイン語には maremoto という単語があるよ」、と教えてもらいました。
ラテン語の mare (mar) + motus (movimiento) が由来
mare から "marea, marina, marisco" などの単語が派生した(MAREMOTO)
なるほど、「大地(tierra) が揺れる(moto)」 terremoto に対して、maremoto は「海(mar) が揺れる(moto)」ということですよね!
スペイン語の「単語の形成」について感心したのを今でもはっきり覚えています。
ただ、他のスペイン人の友だちに「実は厳密には maremoto = tsunami じゃないよ」ということも教えてもらいました。
彼女曰く、「多くの人がこの二つの単語を同等に使っているから一般的にはイコールでいいと思うけどね」とのこと。
実際に maremoto という単語を西日辞書で引いてみると、
白水社現代スペイン語辞典改訂版には「[一般用語として]津波」とありますが、小学館西和中辞典[第2版]には「海底地震」としか記載されていません。
確かに少し冷静になってみると、陸が揺れる terremoto は地震に対して、海が揺れる maremoto は津波より海の地震、すなわち海底地震の方が合っていますよね?
一応、Diccionario de la lengua española の定義を確認してみると、、、
Del jap. tsunami.
1. m. Ola gigantesca producida por un maremoto o una erupción volcánica en el fondo del mar.(tsunami)
なによりもまず、Del jap. の部分が誇らしいですよね、いちジャップとして(笑)
DRAE の定義では「海底の火山噴火もしくは maremoto によって生じる巨大な波」とあるので、やっぱり maremoto と tsunami は別物ですね。
しかし、おもしろいことに、今回改めてぼくの周りのメキシコ人に聞いてみるとほとんどの人が「maremoto = tsunami」と認識していました!
「大地震」を「オオジシン」と「ダイジシン」で使い分ける(であろう)人は地震学者だけだろうと思いましたが、それとおなじで maremoto と tsunami の使い分けも一般人には浸透しておらず、やはり地震学者しか使い分けないのでしょうか?
誰か地震学者の知り合いがいたら、尋ねてみてください!そして教えてください!!
最後に、地震に関係する自然現象としてもう一つだけ。
「火山」の語源を見てみます。
火と鍛冶の神と見なされていたローマ神話の神 Vulcano(ギリシャ神話の Hefesto に相当)が由来(VOLCÁN)
Vulcano は日本語では「ウゥルカーヌス」と呼ばれるローマ神話に登場する神で、Hefesto は日本語では「ヘーパイストス」と呼ばれるギリシャ神話に登場する神だそうです。
なんか、語源に迫っていくと結構な割合で神話に行き着きます。
火山(の噴火)のような自然の力に対して古代の人々が畏敬の念を覚えたため、神の名を与えたんですかね。
【まとめ】
● 地震学 (sismología) の誕生に伴い、1880年代前半にギリシャ語の σεισμός (seismos) に由来した sismo という学術用語が登場。
● ラテンアメリカでは sismo、スペインでは seísmo が優勢。
● maremoto は厳密には「海底地震」のことだが、一般的には tsunami と同義として理解されている。
● volcán は火と鍛冶のローマ神 Vulcano に由来する。
メキシコで火山といえば、やはりポポカテペトル山 (Popocatépetl) ですよね。
UFOが多数目撃されるということで有名な山なのでぼくも注目している山です!
メキシコにいる間にこの目で拝めれば最高です(できれば ovnis も!)
メキシコ第二の標高5426mを誇るこのポポカテペトル山ですが、かなり頻繁に噴火しており、つい先月も噴火していました。
今回見た単語、メキシコでも日本でも耳にすることがないことを願っています。
【追記 2020/04/19】
この記事内で、
また、terremoto と seísmo / sismo の関係性についてですが、以前「月」に関する記事を書いた時に、luna はラテン語起源で、selen- (ej. selenología, selenita) はギリシャ語起源ということを学びましたが、「地震」の場合もラテン語起源の terremoto に対して、ギリシャ語起源の sismo から sismología という言葉になったんですよね?
ということは、「〇〇学」や学術用語とかはギリシャ語起源ということが多いんでしょうか?
なんだか、日本語で言うところの和語に対する漢語のような関係性に似ているのかなと思ったり。。。機会があればこのテーマに関しても調べてみます!!
と述べましたが、これに関連する記事を書いたので以下に貼っておきます ↓
主にスペイン語語彙の起源・歴史に関することに調べました。
軽く書いておくと、スペイン語の単語には「教養語 (cultismo)」と「民衆語 (vulgarismo)」という種類があります。(他にもありますが、ここでは割愛します。)
「教養語」は書き言葉や文語体で、語源となるラテン語やギリシャ語などでの語彙とほとんど変わらない形を持っているのが特徴であり、
「民衆語」は話しことばや口語体で、日常の生活に溶け込んだスペイン語化された語彙のことを指します。
上で見た「月」に関する語彙(ラテン語起源の luna と selenología, selenita などに見られるギリシャ語起源の selen-)と「地震」を表す語彙(ラテン語系の terremoto とギリシャ語系の seísmo, sismo)は以下の表のように分類分類することができるはずです。
意味 | 教養語 | 民衆語 |
---|---|---|
月 | selen- | luna |
地震 | seísmo, sismo | terremoto |
確かにこう見てみると、ギリシャ語起源の方が教養語で学術用語になっています。ぼくは上で「『〇〇学』や学術用語とかはギリシャ語起源ということが多いんでしょうか?」という疑問を持ちましたが、ラテン語起源でも学術用語、つまり教養語として現代スペイン語で使われている語彙も無数にあるようなので、ギリシャ語起源だから学術用語であるというわけではないようです。
ただ、「その傾向がある」とはもしかしたら言えるかもしれませんね。
ここでは例を二つしか見ていないので、安易に結論は出せませんが。
また、関連テーマを扱う機会があれば、調べてみようと思います!