魔法の言葉 en メヒコ
「今すぐするよ!」のような「今すぐ」の部分。みなさんはスペイン語でどう言いますか?
ahora mismo や enseguida、もしくは en breve とか?
【きっかけ】
"ahorita"
メキシコスペイン語のボキャブラリーとしての代表格。
なんとなく、ラテンアメリカ方面で使われている表現として聞いたことあるくらいのこの言葉。約1年いたスペインでは一度も耳にしたことはなく、メキシコに来て初めて使われているのを聞きました。
"Voy ahorita(今行くよ)" や "Ahorita llego(もう着く)" といった感じでよく聞く言葉です。
が、問題はこの ahorita は「今」や「すぐに」という意味のはずが、残念ながらその意味するところとはかけ離れた場合も多々あり。。。
というのも、「今行くよ」や「もうすぐ着く」という約束が果たされるのが一時間後になることも。さらには、ahorita と言っておきながらその後何の音沙汰もなしなんてことも!まさに「有言不実行」!!
「ドウナッテンダ、コノ国ハ!」
、、、なんてぼくは思いません。むしろ逆。
ありがたい、こんなにも便利な魔法の言葉があるなんて。
ついこないだ、友人との約束に30分くらい遅れていったときに言い訳として
Yo no tengo la puntualidad británica, ya que soy japonés jeje ;)
と一発かましたら
Ni la británica ni la japonesa. Ya tienes la puntualidad mexicana :(
とメキシコ人に言われました。30分くらい遅刻するのがメキシカンスタイルです(笑)
【考察】
まずはいつも通り、Diccionario de la lengua española を開いて、、、
これだからラテンアメリカのスペイン語ネイティヴは RAE に文句を言うんです、「自分たちのスペイン語が載ってない!」って。
なので、メキシコでは自分が RAE の狂信者だなんて口が裂けても。。。隠れキリシタンと同じで、踏Diccionario de la lengua española も踏Nueva gramática もできない!
こんな写真まで撮ったなんてバレたらもう。。。ああっ!
なんてふざけてたら、RAE のホームページにこういうのを見つけました ↓
その名も Diccionario de americanismos!
さすが RAE、初めて知りました。ラテンアメリカの人たちの歓喜の声が聞こえてきます。
早速引いてみると、
Dentro de un momento, más tarde.(ahorita.)
その名を名乗ることだけありますね、きちんと記載されてました。
ただ、この辞書に載っている Dentro de un momento(すぐに)と más tarde(後で)では不明瞭な差が存在していますよね?
ひとつの単語の持つ類似した定義(この場合は「時間」に関すること)の間にこうも差があったら非ネイティヴとしては困ります。。。
「文脈からわかるやん」はネイティヴのエゴです!!この二つの使い分けがはっきりしていればいいんですが。
ということで、安定の Diccionario panhispánico de dudas も開いてみると ↓
ahora に縮小辞が付いたこの単語はアメリカ大陸の広域で口語として主に用いられており、より口語的な形として horita という形もある
どちらも ahoritita, ahoritica, horitita のようにさらに縮小辞を付けられることもある(ahorita.)
「より口語的な形」という horita は、個人的には文字では見たことないです。
ただ、そのように発音されているのは聞いたことあると思います。しかし、それが最初から horita と意識的に言おうとしているものなのか、それとも単純に語頭の a が曖昧にしか発音されず結果的に horita となっているのかは不明です。
ぼくは友だちとメッセージでやり取りする時、「ありがとう」を「ありがと」と打ちます。理由は、、、なんでしょう?
おそらく ahorita と horita のケースも同じような理由じゃないでしょうか?
つまり、理由なんてないんです!(笑)
あえて理由を付けるなら、語尾の「う」がない方が口語的、とかですか?
まあ、ここは horita の件も含めて、小さいことは気にせずにネイティヴはそういう風に使うこともありますよ、と考えて先に進みましょう。(こ、これはネイティヴのエゴじゃないデスヨ(汗))
この引用部で興味深いのは、そもそも縮小辞 -ita が付いた形の ahorita にさらに縮小辞が付け加えられて ahoritita (ahor-it-ita) という形もあるという点です。
確かに、多くはないですが聞いたことあります!
実はこのブログのテーマ候補のひとつとして、この ahoritita ような縮小辞が複数付くケースについて調べて書こうかなと思っていました。
疑問を持ったのは chiquitito という単語。みなさんおわかりの通り、この単語を分解してみると
chiqu (>chico) + -it- + -ito
「小さい」を意味する chico に「小さい」という意味を付与する縮小辞が二つもついてますよね。
めっちゃちっちゃいやん!!(笑)
もちろん、単に「小さい」という意味ではなく、「愛情」など他の意味として付いてたりもするんでしょうけど、それにしても chiquitito は驚きました。
最後に、繰り返しになりますが一応 Nueva gramática 内でも ahorita に関する記述があったので参考までに引用します。
中米やカリブ地域、またスペインのアンダルシアでは ahora が más tarde(後で)の意味で慣習的に用いられており、ahora más tarde のように並列して使用されることもある
アメリカ大陸のスペイン語圏の多くの国では ahorita が「まさにこの瞬間 (en este preciso momento)」という意味とともに「(時間的に)すぐ後 (enseguida, inmediatamente)」という意味としても使われる
スペインではこの ahorita という単語は使用されていないが、ahora mismo という表現にはこの二つの意味があるとされている(§17.9f)
【まとめ】
● ahorita は主にラテンアメリカで使用され、①「今この瞬間」、②「この後すぐ」という意味を持つ。
。。。と、ここまではメキシコスペイン語のお話。
今回の真の目的は ア・ラ・ビ・ア・語。
アラビア語の話がしたかったから今回のテーマを選んだのです!
たまにはいいじゃない、アラビア語だって ;)
【アラビア語】
なんだか ahorita に通ずるおもしろい表現がアラビア語にはあるのです!
どこかで耳にしたことあるかもしれませんが、それがこちら ↓
إن شاء لله /'insha'llah/
スペイン語では "Si Dios quiere" と訳され、日本語では「もし神が望むなら」という意味になります。
この表現は、アラブ世界で未来(明日でも10年後でも)に言及するときに使われる表現です。例えば、「明日の10時に会おう、インシャッラー」や「これからもアラビア語を勉強してくよ、インシャッラー」といった感じです。
文末の主張がだいぶ激しいですが、語尾でキャラ付けしたかったら悪くないんじゃないですか?「ムスリム」キャラですが。
アラビア語の先生も仰られていた話ですが、この表現は「約束を果たさなかった言い訳」となり得るとのこと。
つまり、「明日の10時に会おう、もし神が望むならネ☆」や「これからもアラビア語を勉強してくよ、もし神が望むならネ★」といった感じで、仮にその約束が達成されずに約束の時間に現れなくても、「それはそれで神の思し召しである」、「神がそれ(約束の時間に行かないこと)を望んだから自分は行かなかった」と解釈することもできると。
すごい便利なフレーズですよね!これさえ言っときゃ、遅刻も不問ですもんね(笑)
もちろん、これはイスラムにおける神を称える表現で、この世のすべては神(アッラー)がお望みになられるままになる、というイスラムの考えに基づいた表現ですよ。
ただ、このなんだかユルい感じ。メキシコでよく聞く ahorita のニュアンスに当らずと雖も遠からず。
メキシコでこの言葉を教えてもらったとき、アラビア語のインシャッラーに似てるなと思ってしまったのは事実です :)
そういえば、以前メキシコ人の友だちと道を歩いていると、お菓子か何かを売っている人に対して "Ahorita" と言ってそのまま通り過ぎました。
「え、買うの?買わないの?」と尋ねると、「"Ahorita (te lo compro)" ってこと。つまり、今は買わない。今度買う。でも、その『今度』がいつかはわからないけどね(笑)」って言ってました(笑)
なるほど、日本語の「今度ね」も信頼したらダメですよね?その「今度」は一生やって来ないのです。
ここで思ったのは、日本語の「考えとく」もまた今回紹介したスペイン語の ahorita やアラビア語のインシャッラーに通ずるものがある気がします。
お誘いに対して「考えとくわ」と言ったことも言われたこともあるのではないでしょうか?
これを言われたらほぼ100%お断りですが、「絶対に行きたくない」と答えるよりかは平和に済みますよね。
この「考えとく」も、その文字通りに捉えてしまうと「考えとくって言ったやん!」ともめごとに発展してしまいますが、その「考えとく」の言葉の先を読み解く必要がありますよね。もはや、誘いを断る常套句と化していますし。
どの文化にも似たような表現がありますね。おもしろいです。
【まとめ】
● ahorita、「インシャッラー」、「今度ね」、「考えとく」は信用しない!(笑)
ネットで調べていると、おもしろいものを見つけました ↓
まさに、すべてを表してくれています。
メキシコ人はむしろ日本人よりも文脈を読んで、この単語を理解しているんでしょうか?
この前、オフィスでメキシコ人の同僚が、他のメキシコ人同僚から「必要書類を ahorita 送るよ」と言われてから半日過ぎて
- ¡¡Ah!! ¡No me gusta el ahorita de otras personas!
って言ってました(笑)
ahorita の定義(今この瞬間、この後すぐ)が間違ってるのか、それともメキシコ人の時間的概念が我々と大きく異なっているのか。。。
その後すぐ、彼がぼくに "Ahorita te envío los documentos necesarios." と言ってきたので "¿¿Ahorita?? ¿A cuñando te refieres? jaja" と聞くと、
- ¡Mi ahorita es como de ya! El ahorita de otros es como... ¡mañana!
間違ってはないです(笑)
実際彼は5分もしない内にぼくに必要な書類を送ってくれたので、やっぱり個人的裁量が大きいのかなと思いました。
どこまでも便利な言葉ですね。どんどん悪用。。。いや、使用していこうと思います ;)
ちなみに、ぼくのお誘いをかわす時のもうひとつの魔法の言葉は ↓
"Déjame consultarlo con MI Querida almohada ;) "
この魔法を唱えれば、大概笑ってもらえるので、その隙に逃げます(笑)
みなさんも機会があれば、この魔法をお使いください ;)