イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

"unicejo" vs "monocejo"

スペインは何かにつけてセルバンテスどうこうって言ったり、至る所に銅像があったりしますが、ここメキシコはというと画家のフリーダ・カーロにめちゃくちゃ頼っている、いやむしろフリーダ一択くらいの勢いで頼り切っている感じがビンビンします(笑)

ぼくの住んでる町にもフリーダ一色のレストランが ↓

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眉毛ギリギリつながってる

繋がった眉毛が特徴のフリーダ・カーロですが、彼女のように眉毛が繋がっているのを ceja + junto がくっついて cejunto,a と言います。
こんな単語もあるんやね、とメキシコ人の友だちと話していたら unicejo,amonocejo,a という単語もあるよ、と教えてもらいました。

uniforme などの uni-、もしくは monociclo のような mono- といった「1」を表す接頭辞と ceja「眉毛」がつながって生まれた単語。オモシロイ単語があるものですね。

 

【きっかけ】

前回の記事で「数字を語源に持つ単語」を扱い、その中で Pentecostésdecálogo という単語の語源がギリシャ語であることを学びました。
これらの単語のように数字を表す接頭辞が付いている単語は多々ありますが、それがラテン語系なのかギリシャ語系なのかを今回明確にして今後につなげていこうと思います。

 

【考察】

DRAE に登録されているラテン語起源とギリシャ語起源の数字を表す接頭辞を集めてみました。括弧内が同じく DRAE に記載されている語源です。
また、今回関連する語の語源についてはいつも通り De Chile.netDEEL を参照にしています。
では、「1」から見ていきましょう ↓

 数字     ラテン語系      ギリシャ語系 
 1  uni- (uni-)   mono- (μονο- /mono-/) 

どちらも馴染みのある接頭辞ですね。
例えば「単色」を意味する単語に unicolormonocromo,a があります。ギリシャ語で "cromo" にあたる部分は「(肌の)色」を意味するので、同じギリシャ語の接頭辞の mono- にくっ付いて生まれたようです。
ちなみにですが、日本語では「白黒印刷」のことを「モノクロ印刷」のように言ったりするように「モノクロ」という単語は一般的ですが、スペイン語では少し専門的な用語のようです。なので、「白黒で印刷する」と言いたい際はそのまま "imprimir en blanco y negro"、もしくは "imprimir en escala de grises" という風に言うのが普通だと会社で教えてもらいました。

また、「一角獣(ユニコーン)」は unicornio ですが、ギリシャ語系の monocerote という単語も見つけました。言うまでもないですが、"cornio" と "cerote" は cuerno「角」を表します。


次は「2」

 数字     ラテン語系    ギリシャ語系 
 2  bi-, bis-, biz- (bi-)  di- (δι- /di-/) 

ラテン語起源の bi- は bicicleta などのように聞き馴染みがありますよね。
bis- は前回見た「うるう年 (año bisiesto)」の語源の中にも出てきました!他にも「ひ孫」を表す bisnieto,a の中にも見られます。
biz- はというと「スポンジケーキ」を表す bizcocho に見られ、この単語は語源的には "dos veces cocido" を意味するようです。ぼくの推測ですが、同じ -cer で終わる hacer や satisfacer などの過去分詞が hecho や satisfecho となる要領で、cocer もその過去分詞が cocho という時期があったんじゃないでしょうか?だから bizcocho という形になったんだと思います。

一方で、ギリシャ語起源の di- の方はあまり聞かないかなと。ぼくは、スペイン語なりアラビア語などの外国語を少し言語学的に学ぶ際に diptongo「二重母音」という単語を見るくらいです。


お次は「3」

 数字   ラテン語系   ギリシャ語系 
 3   tri-  tri- (τρι- /tri-/) 

DRAE には tri- のページに

Del lat. tri- o del gr. τρι- tri-.(tri-)

といった具合で、ラテン語ギリシャ語が同時に載っていました。
それぞれの語を起源にする単語を探してみると、ラテン語系には「部族」を表す tribu がありました。これまたその語源が興味深く、伝説上のローマ建国の王 Rómuloロームルス)が古代ローマ市民を Ramnes, Tities, Luceres の3種類(=3部族)に分けたことから、それぞれの人たちのことをラテン語で「3」を意味する tribus と呼び始めたそうで、そこから「部族」という意味を表すようになったとか!
tri- が付く単語の語源をしらみつぶしに調べていたら、こんなおもしろい語源に出逢いました!

一方で、ギリシャ語系の単語としては「クローバー」の trébol 。DRAE には tre- という形では登録されていませんが、この語の元であるギリシャ語は τρίφυλλον /tríphyllon/ ということで tri- という形から始まっています。原義は "tres hojas" です。


続いて「4」

 数字     ラテン語系   ギリシャ語系 
 4  cuadri-, cuadru
 cuatri-
   tetra-

ここら辺から少しずつ馴染み薄くなっていきそうですね。
ラテン語系は DRAE では上記の3種類を確認しました。cuadrilátero「四辺形、ボクシングのリング」や cuadrúpedo「四足動物」などがあります。

ギリシャ語の方は tetralogía「四部作」や tetrápodo「四足動物」などがあります。
ちなみに、cuadrúpedo と tetrápodo は厳密には違いがあるようですが、生物学の領域になるので不問です。もちろん、ネイティヴに違いを聞いても答えは返ってきませんでした(笑)


次は「5」ですが、先に言っておくと DRAE には「5」以降に関してはギリシャ語系しか記載されておらず、ラテン語系の接頭辞は見つかりませんでした。
「10」までを一気にまとめてみると以下になります ↓

 数字   ラテン語系      ギリシャ語系
 5   -  penta- (πεντα- /penta-/) 
 6   -  hexa- (ἑξα- /hexa-/)
 7   -  hepta- (ἑπτα- /hepta-/)
 8   -  octa- (ὀκτα- /okta-/)
 9   -  enea- (ἐννεα- /ennea-/)
  10   -  deca- (δεκα- /deka-/)

そもそもこれらのギリシャ語系接尾辞を使う語もあまりなく、例えば pentagrama「五線譜」や octava「オクターブ」、decatlón十種競技」などまだ聞くような単語も見つけましたが、使用例として載っているのは -´gono が付いて「〇角形」、もしくは -sílabo,a が付いて「〇音節詩行の」くらいです。
まあ、これらを使って自分で造語をこしらえることができるように、知識として頭に入れておきます ;)

ただ、やっぱりラテン語系が空欄で終わるのはうら寂しいので、ラテン語系の「5~10」も自分なりに出してみます。
まず思い付いたのが「〇倍」を表す語。Diccionario panhispánico de dudas の「倍数詞(multiplicativos. 1.)」のページから、2〜10倍の言い方を引用してみると ↓

 2倍   doble y duplo,a
 3倍  triple y triplo,a
 4倍  cuádruple y cuádruplo,a 
 5倍  quíntuple y quíntuplo,a
 6倍  séxtuple y séxtuplo,a
 7倍  séptuple y séptuplo,a
 8倍  óctuple y óctuplo,a
 9倍  nónuplo,a
10倍  décuplo,a

「4倍」以降で "-uple (-uplo,a)" という部分が共通しているので、それ以前の部分を太字+下線で表しました。
「3」と「4」は上で見た通り tri- と cuadr- となっているので、この「〇倍」で抽出される部分がラテン語系の数字を表す接頭辞と考えられるかと思います。とすれば、「5」から「10」の接頭辞は quint-, sext-, sept-, oct-, non-, dec- となります。(法則から "-uple" が付くと最終音節から3番目にアクセントが来るようなので、アクセントは省きます。)

この説をもう一段強固にするためにもう一つ思い付いたのが、双子以上の「〇つ子」。三つ子 (trillizo) までしか知りませんでしたが、調べて集めてみた結果が以下です ↓

 三つ子   trillizo,a
 四つ子  cuatrillizo,a 
 五つ子  quintillizo,a
 六つ子  sextillizo,a
 七つ子  septillizo,a
 八つ子  octillizo,a

DRAE に記載があったのは「八つ子」まで。そもそも「九つ子」「十つ子」というのは存在するんでしょうか?
メキシコ人の友だちに聞いてみると、「10年くらい前にメキシコで九つ子を産んだニュースがあったよ」とのこと。そのお母さんすごい!そして、その「九つ子」は nonillizos と言うそうです。
上の「〇倍」の場合と同様に、共通する部分 "-illizo" を取り除いた接頭辞と考えられる部分を抽出すると、tr-, cuatr-, quint-, sext-, sept-, oct-, non- となります。
「四つ子」の cuatrillizo のみが「4倍」の cuádruple と比較して子音 t と d の違いが見られますが、DRAE にはラテン語系の「4」は "cuadri-, cuadru-, cuatri-" のように三種類で記載があったのでどちらも正当であると言えますね。

ちなみにですが、九つ子のニュースを教えてくれた友だちに『十つ子』だとどういう風に言うのかを聞くと "Mmm... Serían... ¿decallizos?" と疑問符交じりに答えてくれました。あくまで彼女の個人的な意見ですが、ネイティヴが「〇つ子」を表す "-illizo" を使って「十つ子」という時は "decallizo" と考えるようです。
「十倍」の décuplo と同じ dec- が抽出できますね。ただ、接頭辞は dec- ですが、他の「〇つ子」と異なり "decillizo" とはならずに "decallizo" となる点が気になります。

deci- だと、すでに存在する「10分の1」の意味を表す接頭辞 deci- とかぶってしまうというのも影響しているんでしょうか?deci- は DRAE には次のように載っています ↓

1. elem. compos. Significa 'una décima (10−1) parte'.(deci-)

この意味の deci- との重複を避けるためにも、「10年(間)」を意味する década でも c が /k/ の音で使われているように、上で抽出した dec- の c は /θ/ ではなく /k/ の音で使用する方が良いんでしょうか?
と思いましたが、残念ながら反例となる単語を見つけてしまいました。。。「10(のまとまり)」を表す decena では c が /θ/ の音で使われていました。ここで deci- から始まる単語を片っ端から調べてみたところ、数字に関連する語で「10」を表す語はなく、基本的には「10分の1」の意味を表していたので、「10」を表す際は dec- に i は続かないということが言えます。
また、dec- に母音 o が続いて「10」関連の意味を持つ語も見つからなかったので、ここでは「『10』のラテン語系接頭辞は dec- + a, e, u」という風に結論づけておきます。


ラテン語系の数字「5」以降の接頭辞は、quint-, sext-, sept-, oct-, non-, dec- ということになりますが、よく見るとこれらは序数詞の頭の部分と同じですね。(「9番目」は一般的には noveno,a ですが、前回の記事でも出てきた通り nono,a という言い方もあるので non- でも問題なしとみなします。)


最後に、もう一つだけ確認しておくべきものが「〇ヶ国語話者」を表す語。
複数の外国語を学ぶ身としては、この〇の数を一つでも増やしたいと思いながらも、「4ヶ国語話者」からなんて呼ぶのか分からないというのが現実。調べているとウィキペディアpolíglota というページがあり、そこに「1~12ヶ国語話者」の名称が載っていました。
しかし、その一覧を見る前に一つ。

「多言語話者」を表す単語 políglota の語源は DEEL によると

ギリシャ語に由来
πολύς (polys = mucho) + γλωττα (glotta = lengua)(POLÍGLOTA)

ということで、こちらはギリシャ語起源の単語です。
もう一つの別の「多言語話者」を表す単語 multilingüe の語源はお分かりの通り、

ラテン語に由来
multi
- (muchos) + lingua (lengua)(MULTILINGÜE)

ラテン語となっています。同じくラテン語起源で plurilingüe という語もありますが、ネイティヴによると multilingüe とともにあまり使われないそうです。つまり、「多言語話者」は políglota でオールオッケーということらしいです。

このように -glotaギリシャ語系、-lingüe はラテン語系と分類して、ウィキペディアから引用すると ↓

 〇ヶ国語     ラテン語   ギリシャ語系
  1  monolingüe  monóglota
  2  bilingüe  díglota
  3  trilingüe  tríglota
  4  cuatrilingüe  tetráglota
  5  pentalingüe
 quinquelingüe 
 pentáglota 
  6  sexalingüe  hexáglota
  7  septilingüe  heptáglota
  8  octolingüe  octóglota
  9  novelingüe  eneáglota
   10  decalingüe  decáglota

この中で、DRAE に記載されている語は太字のもののみです。すなわち、ギリシャ語系の方は DRAE には登録されていませんでした。

ギリシャ語系の方は上で見てきたギリシャ語系接頭辞にそのまま "-glota" が付いており、例外はありません。非常に素直ですね。

一方でラテン語系の方はいくつか言及すべき点が見られます。
まずは「1」ですが、理論上だと、ともにラテン語起源である "uni- + -lingüe" で unilingüe となるはずですが、ギリシャ語系の mono- とラテン語系の -lingüe が組み合わさってできた monolingüe となっており、しかもそれが DRAE に登録されています。これと同じ現象が「5」の pentalingüe でも起きていますね。ラテン語ギリシャ語のハーフの単語ってどのくらいあるんでしょうか?今後、語源を調べる際に注意するしようと思います。

そして「5」の場合だと、上で確認された「序数詞の頭の部分が使われている」という事実から quint- が付いて quintilingüe となると思ったのですが、なんだか新しい quinquelingüe という形が載っていました。pentalingüe とともに DRAE に記載されているものの、この quinque- という接頭辞にあたる部分の記載はありませんでした。そこで、和西辞典も引いてみると白水社現代スペイン語辞典改訂版に quinque- で載っていました ↓

「5」の意を表す造語要素 → quinquelingüe, quinquenal. [←〔ラ〕](quinque-)

quinquenal は「5年の」という意味です。
調べてみると、ラテン語で「5」は quīnque だそうです!つまり、語の一部として「5」を表す際はラテン語での形をそのまま維持して組み込まれるようです。DRAE にも cinco のページに語源として載っていました!

Del lat. quinque.(cinco)

なので、「5」を表す接頭辞としてこの quinque- を認定しましょう。

そして、「9」は novelingüe となっており、こちらも上で確認した non- ではないです。ただ、これは「九番目」を表す noveno の頭の部分にあたり、「序数詞の頭の部分が使われている」という上での発見にあてはまるので、「9」を表す接頭辞として non- に加えて nove- も入れておきます。

さて、この「〇ヶ国語話者」という言い方ですが、ネイティヴに聞いてみると「『4』ヶ国語以上は全部 políglota で、具体的な数字を言いたいなら "que habla 〇 idiomas" って言う」とピシャリ。
pentalingüe も quinquelingüe もどっちも聞いたことなく、「それ本当にスペイン語?」だって。díglota とかギリシャ語系の方に関しては一つも聞いたことないと一蹴されました(笑)
まあ、ネイティヴが使ってなくても、理論的には成立している語のはずなので参考までに覚えておきます!

ただ、なんだかこの感じ、日本語にもある気が。
漢検の勉強をしていて「大字(だいじ)」というものを学びました。これは「一・二・三」などの漢数字に対してお札などに使われている「壱・弐・参」という難しい数字の書き方のことです。おそらく、日本人でも漢検などの勉強をしていなければ「四」以降が「肆・伍・陸・漆・捌・玖・拾」ということはあまり知られていないと思います。
今回の数字を表す接頭辞の使用状況も一般的な単語に使われているのは「三」までなので、その点が日本語の大字の認知度と似ているなと感じます。

 

【まとめ】

今回見つけた「数字を表すラテン語起源とギリシャ語起源の接頭辞」は以下。

 数字     ラテン語  ギリシャ語系 
 1  uni-  mono-
 2  bi-, bis-, biz  di-
 3  tri-  tri-
 4  cuatri-, cuadru-
 cuadri-
 tetra-
 5  quint-
 quinque-
 penta-
 6  sext-  hexa-
 7  sept-  hepta-
 8  oct-  octa-
 9  non-
 nove-
 enea-
  10  dec- (+ a, e, u)  deca-



DRAE によると、

Del lat. cilia, pl. n. de cilium 'ceja'.(ceja)

「まゆ毛」を表す ceja はラテン語起源のようなので、ラテン語系接頭辞の uni- が付く unicejo,a の方が適しているんじゃないでしょうか?
実際、スペイン人の友だちに尋ねてみると、monocejo,a は聞いたことなく、unicejo,a(もしくは cejunto,a)を使うとのことでした。
となってくると、一層「ラテン語ギリシャ語のハーフ」の単語が一般的な語彙の中に存在しているのかが気になってきました。というわけで見つけ次第、報告します!


今回調べた数字を表す接頭辞を使って、いつか、どこかで、造語を生み出してやろうと思います ;)