"SUPERvivir" vs "SOBREvivir" (i)
非ネイティヴだからこそ気が付く、もしくは気になることって多々ありますよね。逆に言うと、ネイティヴだからこそ母国語に関しては気にも留めないことがほとんど。
「叔父」と「伯父」の違いって一般的にどの程度知られているんでしょうか?恥ずかしい話、ぼくは大学生になってからその違いを知りました。そう、アラビア語を通して。
というのも、スペイン語では tío で終わりですが、アラビア語では
عم /'amm/ tío paterno
خال /jāl/ tío materno
のように父方か母方かで呼び方が全く異なります。
これを学んだ時にふと日本語の「おじ」も漢字で二種類あるなと思ってその使い分けに疑問を持ち、調べました。
アラビア語での「おじ」の使い分けを学ばなかったら、日本語の「叔父・伯父」の違いが気にならなかったかもしれません。やっぱり、学ぶべきはアラビア語ですね :)
ちなみに、「叔父・伯父」の違いは父母の「兄・姉」か「弟・妹」かの違いですよね。
どっちが「叔父」でどっちが「伯父」かは覚えてないですが。。。
【きっかけ】
この前、長距離バスの中で Magalodón(原題は The Meg)という巨大サメ映画を観ました。
サメ映画なんて話の展開はどれも同じだと思いつつも、結構ヒットしていたような記憶がどこかにあり気になってそのあらすじを読んでいると、サメ映画の命題である「生存(サバイバル)」に supervivencia という単語が使われていました。
特に気に留めることもなく読み進めた5秒後にふと疑問が。
「いや待てよ、動詞は sobrevivir だから sobrevivencia じゃないのか?」
supervivencia という名詞が存在しているということは supervivir という動詞も存在しているはず。でも、聞いたことはない気が。
接尾辞 sobre- と super- の違いは何なのか?名詞の「生存者」は sobreviviente?それとも superviviente?sobrevivencia は存在しない?など、考えれば考えるほど疑問が湧いてきます。
ということで、今回はこれらを明確にしていきます。
【語源】
まずはいつも通り、語源から見ていこうと思います。
今回は Diccionario de la lengua española からその語源に迫ります。
まずは「生存する」という動詞 sobrevivir から見ていきましょう。
Del lat. supervivĕre.
1. intr. Dicho de una persona: Vivir después de la muerte de otra o después de un determinado suceso.
2. intr. Vivir con escasos medios o en condiciones adversas.
3. intr. Dicho de una persona o de una cosa: Permanecer en el tiempo, perdurar. Esa tradición sobrevive en las zonas rurales.(sobrevivir)
この動詞はラテン語の "supervivĕre" から来ているようです。由来となったラテン語の形は super- なんですね。ということは、supervivir という動詞の形も存在しているはず!と思い、引いてみると載っていました ↓
Der. regres. de superviviente.
1. intr. sobrevivir.(supervivir)
定義は sobrevivir の一言のみ。上で見た通り、sobrevivir のページにしっかりと定義が載っているということは、やっぱり動詞の形は sobrevivir が一般的ということでしょうか??
さて、ここに書かれている "Der. regres. de superviviente." という文言ですが、ここにカーソルを合わせると Derivado regresivo と出ます。調べてみると日本語では「逆成」と言う造語法の一種のようです。
Nueva gramática の §1.6k に逆成で生まれた単語の例が載っていました。(逆成 (derivación regresiva) についての説明がされているのですが、その内容がよく理解できなかったので説明部分の引用はなしです。。。)
legislador → legislar
borrico → burro
atestiguar → testigo
asqueroso → asco
これらは左側の語から派生して右側の語が生まれたものですが、なんだか違和感はないですか?
本来、語というものは核となる部分があって、そこに接辞が付いたりすることで新しい語が生成されるものです。例えば sobrevivir だと、核である動詞 vivir に接頭辞 sobre- が付いて生まれたはずです。ここで注目すべきは、語というのは基本的には核に色んな要素が付け足されていって語が形成されるということで、それはつまり語の始まりは短い状態でそこから派生して長くなっていくということです。
もう一度上の逆成の例を見てみると、派生前(左)の方が派生後(右)より長いですよね。例えば legislador から legislar が派生して生まれたということになりますが、動詞 legislar から「行為者」を表す接尾辞 -dor が付いて legislador となったと考える方が妥当ではないでしょうか?少なくともぼくはそう感じます。
しかし!そんな感覚を打ち壊す語生成法こそが「逆成」なのです。
すなわち「逆成」という現象は、語の一部を接辞として解釈し、その語が派生語であるかのように捉えることによって、その"本来は接辞ではない接辞に見える部分"を取り除いて新しい語を生み出すこと。
だから、派生後の単語の方が派生前のように感じたということです。
さてさて。
動詞 supervivir は superviviente の逆成とありましたが、ではその superviviente の語源を確認してみると ↓
Del lat. supervīvens, -entis.
1. adj. Que sobrevive. U. t. en sent. fig. Los edificios supervivientes tras el terremoto. Apl. a pers., u. t. c. s.(superviviente)
形容詞で「生き残った」、名詞で「生存者」を意味する superviviente はラテン語の "supervīvens, -entis" に由来すると。
動詞 sobrevivir はラテン語の動詞 "supervivĕre" に由来していました。一方で、もう一つの形の動詞 supervivir の方はスペイン語の名詞/形容詞の superviviente に由来し、さらに辿るとラテン語の "supervīvens, -entis" から来ています。
「"supervīvens, -entis" → superviviente」に関してはラテン語からスペイン語への順当な流れですよね。むしろ、接頭辞が super- から sobre- にこっそり替わった「"supervivĕre" → sobrevivir」の方が異質に思えます。
superviviente はラテン語からほとんどその形を変化させることなくスペイン語に導入されました。しかし、語尾の -(i)ente の部分が行為者を表す接尾辞として解釈されたことで、
「あっ、こいつは接尾辞が付いてるな。。。てことは、動詞 supervivir から派生した語か。。。いや、でも動詞は sobrevivir があるぞ。。。でも、普通に考えたら『superviviente = 動詞 supervivir + 接尾辞 -(i)ente』のはずだから、やっぱり動詞 supervivir は存在しているはずだ!」
といった流れで動詞 supervivir はスペイン語に誕生したのではないでしょうか?
あくまでぼくの想像に過ぎませんが、この流れこそが「逆成 (derivación regresiva)」なのです。
さて、「逆成」というものを学んだところで本筋に話を戻しましょう。
superviviente に対して、sobre- が付く sobreviviente という形も存在していました ↓
De sobrevivir y -nte.
1. adj. superviviente. U. t. c. s.(sobreviviente)
"sobrevivir y -nte" とあるので、この sobreviviente という単語は「動詞 + 行為者を示す接尾辞 -nte」からの派生語であると言えます。
ということは、やはり superviviente も同様に「動詞 supervivir + -(ie)nte」と解釈するのが妥当ですが、これに関しては上で述べた通り、逆成という現象によって「superviviente から動詞 supervivir が派生した」のであり、本来とは逆の語生成だったということです。
ところで、動詞の時とは反対に super- の方に定義が書かかれており、sobreviviente の方には superviviente とのみあります。これはつまりは、動詞では sobre- が優勢 (sobrevivir)、"viviente" に付くのは super- の方 (superviviente) が優勢と考えてもいいのでしょうか?
では、「生存」を意味する名詞はどうなのでしょうか。
まずは super- の方から ↓
Del lat. mediev. superviventia, y este der. del lat. supervīvens, -entis 'que sobrevive'.
1. f. Acción y efecto de sobrevivir.
2. f. Gracia concedida a alguien para gozar una renta o pensión después de haber fallecido quien la obtenía.(supervivencia)
この名詞の語源に関しては、「中世ラテン語の "superviventia" から。これはラテン語の "supervīvens, -entis" からの派生語」とあり、これは superviviente と同じ起源を持つということですね。
一方で、sobre- の方を引いてみると、
1. f. Acción y efecto de sobrevivir.(sobrevivencia)
こちらに関しては、語源に関する記述はありませんでした。
そして、「定義が記載されている = 使用率が優勢」というぼくの仮説が正しいという仮定の上では、名詞に関しては sobrevivencia よりも supervivencia の方が優勢ということになります。
【使用の優劣】
ここまでの使用の優劣をまとめてみると、
「生存する」- SOBREvivir > SUPERvivir
「生存者」- SUPERviviente > SOBREviviente
「生存」- SUPERvivencia > SOBREvivencia
ということになります。繰り返しますが、あくまで「定義が記載されている = 使用率が優勢」という仮定の下での結論です。
ここまで調べたところでネイティヴの友人にそれぞれの使用状況を聞いてみると、動詞の supervivir は使われているのを聞いたことはないそうで、「生存者」「生存」に関しては「確かに sobre- と super- の形両方あるね、気付かなかった」とのことで、ともに使われているそうです。
動詞は100% sobrevivir しか使わないそうですが、両方使うと答えた sobre-/super-viviente と sobre-/super-vivencia はそれぞれどちらの接頭辞の方が使われてるのかと尋ねると頭を悩ませ始めて、ついには「考えれば考えるほど分からなくなってきたから、ちょっとネットで調べてみる」とネットへ逃避(笑)
いや、おれは「正しい正しくない」じゃなくて一ネイティヴの個人的な意見が聞きたいのヨ。。。と思いながら、世間での使用傾向を調べようと自分でもGoogleでそれぞれ6つの単語をフレーズ検索してみると、
単語 | 検索結果数 | 倍率 |
---|---|---|
sobrevivir | 38,700,000 | 666倍 |
supervivir | 58,100 | - |
sobreviviente | 7,410,000 | 1.8倍 |
superviviente | 4,040,000 | - |
sobrevivencia | 4,650,000 | - |
supervivencia | 42,900,000 | 9倍 |
動詞に関しては、ネイティヴが使用されているのを聞いたことがないと言う通りにその差は圧倒的。使用の優劣を決める以前の問題で、supervivir の方は忘れてしまってもいいレベルかもしれませんね。
「生存者」については sobre- の方が若干使用率が高いようですが、他二つの倍率と比べると、sobre- と super- の間にほとんど差はないと言えます。
「生存」については、ぼくが見た映画のあらすじでも使われていた super- の方が優勢のようですね。
つまりは
「生存する」- SOBREvivir > SUPERvivir
「生存者」- SOBREviviente = SUPERviviente
「生存」- SUPERvivencia > SOBREvivencia
が実際の使用優劣となります。
ここで、別のメキシコ人の友だちと、さらにスペイン人の友だちにも追加で聞いてみると非常に興味深いことが分かかりました。
ともに「生存する」は sobrevivir、「生存」は supervivencia を使うと回答してもらいましたが、「生存者」に関してはメキシコでは sobreviviente、スペインでは superviviente の方が使うと教えてもらいました。
まさか -viviente にだけ sobre- と super- の選択に関して地域差があるなんて思ってもみませんでした!
この結果から、sobrevivir, supervivencia が地域に関係なくそれぞれ使用優勢であり、それら二つは DRAE に定義が書かれている方であることから、やはり DRAE に定義が明記されている方が使用率が高いというぼくの仮説は正しかったと言ってもいいんじゃないでしょうか?
しかし一方で -viviente に関しては、DRAE の定義はGoogleフレーズ検索で1.8倍多かった sobreviviente の方ではなく、スペインで優勢の superviviente 側に記載されていました。これはおそらく RAE 自体がスペインのスペイン語をメインにしている影響ではないかなと考えます。
この仮説については、今回の3つの組み合わせしか比較していないので信憑性は低いです。なので今後も気にしつつ、いつか証明します :)
【次回】
今回はとりあえずここまで。
次回はこのテーマを基にして、ある「スペイン語学で重要な概念」について勉強します。