イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

Me duele el codo...

会社で新たなコロナウイルス対策ができていました ↓

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ドアを開けるときの新ルール

コロナウイルスの感染予防として、ドアを開けるときに手を使わずに開けましょうというもの。

このルールに関して、日本人は「ヒジを使って開ける」と言っている一方で、メキシコ人はこの写真に書かれているように "abrir la puerta con el antebrazo" と言っています。
ぼくは上の写真を初めて見た時は「ヒジ」を指差していると思いましたが、どうでしょう?

antebrazo は日本語では「前腕」です。
確かに指を指している場所が「前腕」と言われればそうですが、果たして日本語で「前腕」って普通に使うんでしょうか?
考えすぎてたら"普通"が分からなくなってきました。。。

なので、シンプル・イズ・べスト。もう日本語では「腕」、スペイン語では "brazo" でいこうと思います。

 

【きっかけ】

"Él es codo."

どういう意味か分かりますか?
Diccionario de la lengua española にはこうあります ↓

 1. adj. Ec., El Salv., Guat., Hond. y Méx. tacaño (‖ que escatima en el gasto).(codo2, da)

メキシコ含む中米では codo は「ヒジ」に加えて「ケチ」を意味します。
多分、メキシコに来て一番初めに教えてもらった「メキシコ語」だったかと。

ぼくはメキシコに来るまで codo が「ケチ」を意味するなんて聞いたことありませんでしたが、話を聞いていると、メキシコ人が思い付くメキシコ語の代表格だとか。
彼ら自身もこの「codo=ケチ」はメキシコ周辺でしか使われていないということを知っているようなので、「メキシコ特有の語彙は?」と聞くと必ずと言っていいほどこの codo が出てきます。

どういう経緯で「ヒジ」が「ケチ」につながったのかずっと不思議に思っていたので、今回その起源を探ってみます。

 

【語源】

まずは De Chile.net の DEELcodo の語源を見てみます。

「ヒジ、長さの単位『キュビット』‹1›」を意味するラテン語cubitus に由来(CODO)

‹1› キュビット ... 古代で使用されていた長さの単位。肘から中指の先までの間の長さで、1キュビットは約45センチ。

初めて聞く長さの単位「キュビット」とラテン語 cubitus の二つは音的に類似しているのが分かります。しかし、cubitus がどのように codo になったのでしょうか?
そのラテン語からスペイン語になった音声変化の変遷が続きに書かれていました ↓

cubitum > codo
ラテン語屈折語‹2›であり、屈折語尾の活用によって変化する
対格‹3›は動詞の行為の目的語の形(直接目的語)であり、ラテン語の中で最も多く登場する形であるため、通常、スペイン語の単語はラテン語の対角の形に由来する
ラテン語からロマンス諸語に単語が入る際、ラテン語での対格の形の語尾の m が消失する

アクセントのない短音 uo に変化する
ciervo > cervumnuevo > novum

cubitum > codo
有声閉鎖音である語中の子音 -b- の消失
beodo > bibitus, sotana > subtana

cubitum > codo
アクセントのある音節の後の母音の消失
caldo > calidus, linde > limitem

cubitum > codo
短音の -u- の -o- への変化
boca > bucca, correr > currere

cubitum > codo
-t- の有声音化
ludio > levitus, saldado > solidatus

(CODO)

‹2› 屈折語 (lengua flexiva) ... 動詞や名詞などが活用することで文法機能を表す言語。スペイン語の場合、動詞・代名詞・名詞・形容詞が性・数に応じて語尾変化をする。ラテン語の場合、代名詞・名詞・形容詞は性・数に加えて、文中での統語的な関係を示す「格」も活用する。
‹3› 対格 (acusativo) ... 直接目的語を示すための格。

通常、スペイン語の単語はラテン語の対角の形に由来する」んですね!
ラテン語の男性・中性単数形は -um(女性単数の語尾は -am)で終わります。そこからスペイン語に入る際に語尾の -m がなくなり、最終音節の m の前の u が「アクセントのない短音」ということで o となると。
このことから、スペイン語の男性・中性形の語尾は基本的に -o なんですかね。新しいことを学びました。

そして、cubitus から codo になるまでの流れは以下のようになります。

    cubitum
     ↓ 「m の消失」
    cubitu
     ↓ 「uo
    cubito
     ↓ 「b の消失」
    cuito
     ↓ 「i の消失」
    cuto
     ↓ 「uo
    coto
     ↓ 「t の有声音化」
    codo

ラテン語cubitumスペイン語に入るまでに語中の音を変化や消失させながら codo という形に至ったようですが、なかなか波乱万丈でシビレル変遷を経ていましたね。

 

【「ケチ」を表すようになった起源】

さて、上で見た DEEL に「ケチ」の意味を持つようになった語源に関する記述も続きに載っていました ↓

メキシコや中米のいくつかの国々では、codo という単語は「ケチな、貪欲な」を意味する
「強欲、貪欲」を意味する単語 codicia から派生したとする説、また、子どもがおもちゃを渡さないために胸の前で強く締め付けて肘を立てている様子から来ているとする説がある(CODO)

codicia という単語を初めて知りました。
その意味は「強欲、貪欲」とのことなので、確かに「ケチ」につながるのも理解できます。
また、自分のものを渡さないためにヒジを立てて守る様子から「ヒジ」が「ケチ」という意味を持つようになった説の方もあり得ますね。


さて、もうひとつ別の説をネットで見つけましたので紹介します。
Qué Significa? というサイトの ¿Qué significa que te llamen codo cuando eres tacaño? というページでその起源について書かれていました。
要約すると次のようになります ↓

起源は19世紀初頭に遡る。

当時、メキシコの家畜飼いの多くはアメリカまで赴いて家畜を売っていた。行きの北上の道は平和であったが、問題は帰りの南下の道であった。そこには、家畜をアメリカで売ってお金を得た家畜飼いを待ち構える盗賊がいたが、この盗賊たちは家畜を購入したアメリカ人と裏で手を組んでおり、どの家畜飼いがお金を持っているかを教えてもらって家畜飼いを襲っていた。

この悪事が横行していたため、家畜飼いの間では、あばらの位置の服の内側に袋を作って、そこに稼いだお金を隠すようになり、盗賊に遭った時は、あばらの硬貨が音を立てないようにヒジを締めた。だが、盗賊が家畜飼いの間で頻繁に行われていたこの行為に気付いたため、それ以降はヒジを緩めるように命令するようになった。

時が経つにつれて、この codo という単語は、「いかなる理由であっても何に対してもお金を手放したくない人」という意味を表すようになった。

日本の不良だとポケットに小銭が入ってないか確かめるために「跳べ!」と言いますが、当時のメキシコでは「ヒジを緩めろ!」だったんですね(笑)

DEEL の「ヒジを立てて自分のものを守る」の説よりも、こちらの説の方が直接「お金」が関わっている点で「ケチ」の起源の信憑性が高い気がします。
ですが、家畜飼いの人たちは正当に儲けたお金を盗賊に分捕られないために知恵を働かせたわけで、「いかなる理由であっても何に対してもお金を手放したくない人」から「ケチ」というネガティヴな意味になったのは心外じゃないかなとも思います。

みなさんはどう思いますか?

 

【"codo" を含む表現】

さて、せっかくなので最後に codo を使ったオモシロイ表現を紹介します。どういう意味か想像してみてください。

empinar el codo

動詞 empinar は「高く上げる、持ち上げる」という意味です。「ヒジを高く上げる」ということですが、何のためにヒジを持ち上げるのか?答えは、お酒の入ったグラスです 🍺
DRAE で引いてみると、

empinar de codo, o el codo
1. locs. verbs. coloqs. Ingerir mucho vino u otras bebidas alcohólicas.(codo1)

仕事終わりに友人と乾杯して、そのまま一気に飲み干す勢いでヒジを最大限まで高く上げてお酒を飲む様が想像できますね。
ちなみに、empinar も引いてみると、次のように書いていました ↓

2. tr. Inclinar mucho el vaso, el jarro, la bota, etc., para beber, levantando en alto la vasija.
3. tr. coloq. Beber mucho, especialmente vino. U. m. c. intr.(empinar)

empinar だけでも「大酒を飲む」という意味があるようです。
もはや「お酒」と言うまでもなく、empinar だけであとはみなまで言うなということですね。
動詞 empinar の代わりに類義語の alzar, levantar (el codo) が使われることもあるようです。


hablar por los codos

「ヒジで話す」ということですが、意味は「しゃべりまくる」です。

hablar por los codos
1. loc. verb. coloq. Hablar demasiado.(codo1)

一説によると、めちゃくちゃしゃべる話し手が相手に自分の話を聞き続けてもらうために、周囲を引こうとヒジで突いている様子に由来するとか。
スペイン語圏の人は「ヒジ」で話しますようですが、イタリア人は hablar por las manos ですかね? ;p

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🤏🤏



hincar los codos
hincar は「(釘などを)打ち込む」なので「ヒジを打ち込む」となりますが、どういう意味でしょうか?誰かに打撃のエルボーを打ち込む??
ここでヒジを打ち込む相手は人ではなくて「机」です。何のためにかというと、勉強をするため。
ということで、この表現は「熱心の勉強する」です。集中して机に向かって勉強している様子が思い浮かびます。

hincar los codos
1. loc. verb. coloq. Estudiar con ahínco.(codo1)

同じく「打ち込む」を意味する clavar (los codos) も使われます。
さらに、ヒジを机に打ち込みすぎて壊れるくらい熱心に勉強する様子を表しているんでしょうか?romperse los codos という表現も同じ意味で使われます。


お次は最近知った表現。

codo a codo

「ヒジとヒジを合わせて」一体何をするんでしょうか?
実は最近、中南米で隆盛を誇っているオンラインショッピングサイトの Mercado Libre のロゴが変わっていることに気付きました。まだ利用したことはないのですが、街中でも YouTube でも至る所で Mercado Libre の広告を見るので「アレっ?」と。

調べてみると、なんとも素敵なニュースを見つけました ↓
¡Codo a codo! Mercado Libre cambia su logo para dar mensaje contra el coronavirus(MILENIO 2020/03/19付)

Mercado Libre のロゴは前まで握手しているものでした。

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Mercado Libre 旧ロゴ

しかし、コロナウイルスの蔓延に伴い、感染リスクのある接触を避けることが推奨され、握手でさえも控えましょうという風潮を考慮して、“Codo a codo, hasta que llegue lo mejor” というフレーズとともに一時的にロゴを変更することを発表しました。

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Mercado Libre 新ロゴ

DRAE には "codo a codo" はこう定義されています。

codo a codo
1. loc. adv. Juntamente, en compañía o cooperación.(codo1)

つまり、このフレーズは「状況が良くなるまで『一緒に協力』しましょう」という意味になります。

よく見るロゴであるからこそ、一般の人々への意識付けのためにも1999年から使っている歴史あるロゴを一時的に変更するとのことです。スペイン語の表現をうまく利用したナイスなロゴですね。
この素敵なニュースを通して、新たな表現を学べました。


Le duele el codo.
「(彼は)ヒジが痛む」ですが、身体的に「ヒジ」が痛いわけではないです。
例えば、ぼくが聞いたことある使用例を挙げると、

"Me duele el codo pagar tanto."

"Esta noche no salgo, es que me duele el codo."

などです。
この "dolerle el codo" という表現は、今回のテーマであった「codo = ケチ」の意味になります。日本語に訳すのは難しいのですが、要は「(ケチだから)お金を使いたくない」といった感じです。

二つ目の例だと、本当にヒジが痛いから今夜は飲みに行かないのか、それとも、お金を使いたくないから飲みに行きたくないのか、分かりませんよね。
実際ぼくはこう言われたときに、前者の方で理解して「ヒジ怪我したの?」と聞いてしまいました(笑)

もちろん、この表現は codo が「ケチ」という意味でも用いられている地域でのみ理解されるものです。

 

【まとめ】

codo は「ヒジ」を意味するラテン語cubitus に由来する。

● メキシコを含む中米では codo は「ケチ」という意味でも使用される。

● 「ケチ」という意味の起源は、①「強欲、貪欲」を意味する単語 codicia から派生したとする説、②自分のものを渡したくない時にヒジを立てて守る様子から来た説、③家畜飼いが盗賊からお金を取られないようにヒジを締めたことから来た説、がある。


ぼくは今のお給料じゃ、ずっと「ヒジが痛い」ままです :'(

 

【追記 2020/05/14】

久しぶりに出社すると、ドアに新しい掲示物が。。。 ↓

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utiliza tu CODO para abrir la puerta

antebrazo から codo になってた!(笑)