イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

¡Cruza los dedos por mí!

大学時代、ポルトガル語の授業で先生が、「ブラジルではOKサインのジェスチャーをしてはいけませんよ!」と言っていました。
理由は、親指と人差し指の輪っかの部分がアルファベットの C に見えることから、「肛門 (スペイン語culo に相当)」を意味するポルトガル語 cu を表し、卑猥さや相手への侮辱を意味するからだそうです。
「所変われば品変わる」のドンピシャな例ですね。

 

【きっかけ】

メキシコに来て知ったジェスチャーの一つが changuito 
片手で人差し指と中指を交差させて「幸運を祈る」ジェスチャーのことです。
この絵文字ですね ↓

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changuito

このジェスチャーの呼び方を教えてもらった時、その友だちが

"Se llama changuito, pero existe una discusión entre chAnguito y chOnguito."

と言っていました。
これまたオモシロイことを聞いたので今回はこの🤞の由来と、さらに「指」に関する単語について色々調べていきます。

 

【語源】

まずは「指」を表す dedo という単語から語源を De Chile.net の DEEL で見ていきます。

「指」を意味するラテン語 digitus に由来
digitus (dedo) と dicere (decir) はともに "indicar, apuntar" を意味するインド・ヨーロッパ語族の語根 deik- からの派生語である
この deik- から派生した他の単語には、ギリシャ語由来のもので deiknumi (mostrar), daktylos (dedo), dekhomai (tomar) などがある(DEDO)

dedodecir が語源的には繋がっていたなんてオドロキです!語源的に見ると、dedo の "de" と decir の "de" は同じだそうです。
ヒントなしではこの二つを関連付けるのはほぼ不可能だと思いますが、"indicar, apuntar" を意味する語から来ていると知ったら、それも納得いきますね。

では、ここから怒涛の「指」の名称の語源を見ていきましょう。
まずは「小指」の dedo meñique から ↓

「(幼少の頃から王室に仕える)女官」を意味するスペイン語の menino は「幼児、小指」を意味するポルトガル語の menino に由来し、これらは「小さい、かわいい、華奢な」を表すフランス語 mignon と同じ語根を持つ(MEÑIQUE)

5本指の中で最も「小さい」からこの名前が付いたということで、日本語の「"小"指」という呼び方と同じ発想ですね。

また、ラテン語ではこの「小指」に独特な呼び方が付けられていたそうで

ラテン語では小指は「最後の指」ということで ultimus、または「最も小さい指」ということで minius, minimus と呼ばれた
また、耳をほじるために使われる指であることから auricularis とも呼ばれる(MEÑIQUE) 

「耳をほじる指」だから、耳に関する意味を持つ auricularis が充てられたんですね。すごい発想(笑)
ちなみに、和西辞典の auricular の項目にはちゃんと「小指」と載っていました!

お次は「薬指」の dedo anular

ラテン語anularis に由来し、「指輪 (anillo) に関連するもの」を表す
anus(指輪)+ 接尾辞 -alis(ANULAR)

日本語では「薬を塗るための指」ということで薬指という名称ですが、スペイン語では指輪をする指ということで anular が使われています。
この anular ですが、その形から動詞でも使わており、語源はというと

できなくする (incapacitar)、効果をなくす (dejar sin efecto) を意味する
動詞に付き「類似性」を表す接頭辞 a- + "ninguno" に当たるラテン語nullus に由来する nulo + 動詞化の接尾辞 -ar(ANULAR)

語源は全く違えど、同綴異義語として現代で使われていることに"語源的ロマン"を感じるのはぼくだけでしょうか?

さて、順番通りに行くと次は「中指」で dedo medio もしくは dedo de corazón。その名称の発想は日本語と同じで「真ん中の指」ということですが、特に語源どうこうではないですね。。。
ということで、飛ばして「人差し指」dedo índice の語源を見てみましょう ↓

"indicador, señalador" を意味するラテン語 index, indicis に由来
指し示すための指ということで「人差し指」を表す(ÍNDICE)

これまた日本語と同じ発想ですね。

そして最後は「親指」dedo pulgar です ↓

ノミ (pulgas) を殺すために使う指(DEDO)

「ノミ (pulgas) を潰す指」だから pulgar言ってしまえば「ノミ指」ということ!?非常にオモシロイし、納得のいく説だと思います。
ただ、もう一つ別の説が載っていて ↓

「親指」を意味するラテン語 pollex から来る pollicaris に由来
"pulga" を意味する pulex からではなく、親指は指の中で最も力強く、可動範囲が大きくて有用であるため "ser poderoso, poder, ser eficaz" を意味する動詞 polleo から派生した(DEDO)

ノミを表す pulex と、親指の特徴を表す動詞 polleo の形が類似していることから二つの異なる説が生まれたようです。信憑性でいうと後者の説の方が有力かなと思いますが、それでも「ノミ指説」も大いに可能性があるとも感じます。みなさんはどう思いますか?


さて、今回の本題の前に「指」関連でもう一つ。
先日、今住んでる団地のセキュリティ強化のために住民は「指紋」を登録してください、という御触書が出されました。今後は出入りをカードではなく、指紋認証でコントロールしていくと。
その御触書がこちら ↓

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HUELLA DACTILAR

ここには「指紋」が "huellas dactilares" という風に書かれていますよね。
ですが、この話をそのままメキシコ人の友人に話したら、「指紋」のことを "huellas digitales" と言ったのです!
もちろん、その瞬間に「なんで "huellas dactilares" じゃなくて、"huellas digitales" って言ったの?」と聞くと、

"¿Qué? ¿Yo dije así? Es que son lo mismo..."

(コッ、コイツ気付いてない!?)
同じなわけないと思いながら、好奇心の赴くままに調べてみると、ある記事を見つけました。
メキシコ版 RAE であろう、Academia mexicana de la lengua というページに "Huella digital o dactilar" というドンピシャのテーマがありました。

紙にインクで押した指紋の正しい言い方は ¿Huella digital o huella dactilar?
物に触れる際にその物に残る指の腹の跡、またはあらかじめ指の腹に着色料を付けることで手に入る跡を表す言葉として、dactilardigital もともに「指」に関係する意味を持つため、どちらの形も正しい

どちらも正しいということから、どちらを使用しても良さげです。

また、もう一つ記事を見つけたので参考にします。La Vanguardia の "¿Dactilar o digital?" (2016/05/17付) によると、

huella dactilar は今日 huella digital と並存しており、これら二つは同一のこともあれば、全く異なるもののこともある
dactilar の語源はギリシャ語の daktylos
digital の語源はラテン語の digitus
この二つはともに「指」の意味を持つ類語であったが、huella digital が新しい意味を表すようになった

ここで言う huella digital の「新しい意味」というのは、機械などで指紋認証を行う際に機械が読み取る指紋のことです。
つまり、元は二つとも同じく「指紋」を意味していましたが、技術の進化とともに朱肉ではなくて、機械で指紋を読み取ることが可能になり、そこで機械に取り込む指紋のことを「デジタル」である huella digital がその意味を獲得したとのことです。

とありますが、別のメキシコ人の友だちにも聞いてみると、「"huellas dactilares" と "huellas digitales" は同じじゃないかなぁ」といった感じでした。厳密な違いは知らないと。
上で学んだことを話してみると、「確かにそうかも。digital(デジタル)だからシステムとかテクノロジーでの指紋だと huellas digitales の方が適してるかもね」というコメントをもらいました。
ということで、これら二つは語源的にも似ているため、特に使い分ける必要なないようですし、ネイティヴは別に気にしてないというのが現実でした ;)

 

【起源】

さて、ようやくですが今回のメインである changuito について。
メキシコシティの人」を意味する chilango という名前のページに、"¿Se dice chonguitos o changuitos?" (2015/11/30付) という記事があったので、そこから引用していきます。

と、その前に接尾辞 -ito が付く前の単語の意味ですが、Diccionario de la lengua española で確認すると、chongo は

1. m. Guat. y Méx. Moño de pelo.(chongo)

メキシコとグアテマラで、アップにした髪型、つまり俗に言う「お団子」を意味します。一方で、chango の意味は

8. m. Méx. mono (‖ simio).(chango,ga)

メキシコでは動物の「サル」という意味で使われているので、changuito だと「子ザル」という意味になりますね。

どちらも幸運とは関係がないように思われますが。。。
とりあえず、記事を見ていきましょう。

RAE で調べてみても関連する記述はないが、Academia Mexicana de la Lengua(通称 AML)には “Hacer changuitos. Loc. Cruzar los dedos, poner el dedo medio sobre el índice, con la intención de que eso traiga suerte(指を交差する。このジェスチャーが幸運をもたらすという意図でもって中指を人差し指の上に置く)” と載っている。一方で、chongo または縮小辞が付いた chonguito(s) という単語に関しては「幸運を祈るために指を交差させる行為」という意味の記載はない。このことから、少なくとも正式には changuitos という形が正しいとされていることが分かる。

まず、この記事のタイトルに対する結論から言うと、「指を交差させて幸運を祈るジェスチャー」は chonguito ではなく、「子ザル」を意味する changuito だそうです。
指紋のところでも登場した AML ですが、ここに記載があるというのが大きな決め手ですね。ただ、今回の冒頭でも書きましたが、ぼくがメキシコに来て初めてこのジェスチャーの呼び方を教えてもらった時に、「changuitochonguito か、どちらの呼び方が正しいかという議論があるけどね」と言われましたし、またこの記事が書かれているということは、どちらも耳にすることがあるんでしょうね。

この引用部セクションの最後には次のように書かれています ↓

指を交差させた状態はサルが木に抱き着いている様子に似ている。

。。。かなりムリないか?後付け感が否めない(笑)
では、なぜ「サル」と「幸運のジェスチャー」が関係するのでしょうか?

サルと幸運を関連付ける考えは遠方から来ている。日本では幸運に結び付けられる動物がいくつかおり、タヌキ、ネコ(招き猫)、加えてサルもまた幸運の動物と見なされている。というのも、日本語では「さる」は『サル』の他に『去る』という意味があり、"poner changuitos"、すなわち "cruzar los dedos" をすることによって悪運を消し「去る」ということである。 

その由来は、まさかまさかの我らが日本っ!!
日本語の「サル」と「去る」という同音異義語からメキシコでの changuito という呼び方が生まれたんですね!仰天も仰天です。
実はこのサルというのは、あの有名なサルにもつながっているそうで、、、

Whatsappで目・耳・口を覆うサルの絵文字を見たことあるはずである。これらは日本人が「こう生きるべきである」と信じる三行を表しており、これらを実践することで幸運を手に入れるのである。「見ざる (no ver maldades)」、「言わざる (no decir maldades)」、「聞かざる (no escuchar maldades)」の語尾の「ざる」が「サル」という言葉に類似しているのである。

日光東照宮の三猿「見ざる言わざる聞かざる」のことですね。
一つ上の引用文と同じ具合に、日本語の否定の「〜ざる」と「サル」がかかっており、「見ざる言わざる聞かざる」から「サル」が連想され、この三行が幸運を得るためのものであることから「サル」と幸運が連想され、同じく幸運をもたらすためのジェスチャー "changuito" と結び付いたということだそうです。

なんだかにわかには信じ難い話ですが、もし本当に changuito の起源が日本の「サル」だったらすごい話ですよね!?
少し都市伝説っぽさがありますが、そこがまたワクワクさせられるところです :)


さて、名称の由来が(一応)分かったところで最後に、そもそも指を交差するというジェスチャー自体の起源についてです。

幸運を招くために指を交差するという行為の起源は数百年前のかなり古い習慣に遡る。キリスト教の古い信仰によると、十字は完璧な調和の象徴であり、知識の全てが含まれており、さらには十字は悪霊を遠ざける存在であった。その時代に、誰かが熱心に何かを望む際に人差し指を垂直に差し出し、もう一人が同じく人差し指を交差させてクロスを作った。これは望みが叶うためのまじないの一種であった。時代が進むにつれて二人でクロスを作るのではなく、一人で行うようになった。

十字ということでやっぱりキリスト教が絡んできました。これだけで、あとは皆まで言うな、ですね。

 

【まとめ】

● Academia Mexicana de la Lengua には『🤞』のジェスチャーについては changuito という単語で載っている。

● 日本語での「悪運を消し『去る』」や「見ざる言わざる聞かざる」から同音異義語である動物の「サル」は幸運をもたらす存在とされており、これがメキシコでサルを意味する changuito (chango) と結び付き、幸運をもたらすジェスチャー『🤞』を指すようになった。


今後、運が必要になったら友だちに今回の表題のように "¡Cruza los dedos por mí!" と言って changuito をねだりましょう。
ちなみに、この changuito ですが、普通片手でするものだそうで、両手で『🤞🤞』としたら逆に幸運が逃げてしまうそうなのでご注意を!