イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

Más vale malo conocido que bueno por conocer

今回は久しぶりにことわざについてです。

 

【きっかけ】

急遽、引っ越しをすることになりました。
色んな知り合いに紹介してもらった複数の大家さんに連絡を取っていると、残念な話ですが家賃を上乗せして言ってるんだろうなと思うことがあります。
日本人だからお金を持っていると思われているのか?ガイコクジンで相場を知らないから騙せると考えているのか?おそらく、どっちもでしょうネ。実際はどっちでもナイノニ :(
スペインでもそうでしたがメキシコでも同じで、外国人ということで何においても足元を見られることがあります。大きいお金が絡む際は特に警戒心を高めて、カモにされないように生きるのが鉄則。

ただ、猜疑心が高まりすぎて、友だちに「良い大家さんを知ってるから紹介するよ」と言われてもいささかの不安を感じてしまう今日この頃。
あるメキシコ人の友だちにこの状況を話すと、「それでも、たとえ友だちの知り合いの大家だったとしても気を付けないとダメだよ。だってあなたはその大家と直接の知り合いじゃないんだから。"Más vale malo conocido que bueno por conocer" だよ。」と言われました。

初めて聞く表現。直訳してみると、「これから知る善人より(すでに)知っている悪人の方が価値がある」と言った感じでしょうか?
まあ、そもそも家やアパートを貸してる知り合いなんていないので、悪人だったとしても頼る他ないのですが(笑)

 

【意味】

さて、今回のタイトルに置いたことわざですが直訳したらもう意味が分かりますね。
「たとえ善人であっても知らないのであれば、知り合いの悪人の方がいい」ということです。

このことわざ、日本語では何というのでしょうか?
調べてみると、「知らぬ仏より馴染みの鬼」ということわざが出てきました。仏と鬼が使われている辺りに日本らしさを感じます。

他方、英語では "Better the devil you know than the devil you don't know" と言うそうです。こちらは「知らない悪魔より知っている悪魔の方が良い」のように欧米における鬼的存在であろう悪魔が使われています。英語版の言い方でもその文化が反映されていますね。

この二つと比べてしまうと、スペイン語版の"当たり障りのなさ"が少しツマラナク感じてしまいます。。。
"Más vale el diablo conocido que el dios por conocer" とかどうでしょうか? ;)

 

【考察】

今回のことわざはシンプルなので特筆すべき点はありませんが、少しムリヤリ考察してみます。

"Más vale malo conocido que bueno por conocer" という形ですが、
"Más vale malo conocido que bueno no conocido" もしくは "Más vale malo conocido que bueno desconocido" とかではなく、"bueno por conocer" となっている点が非常にスペイン語らしいと思うのはぼくだけでしょうか?

"Más sabe el diablo por viejo que por diablo" の記事でも前置詞 por の用法について考えました ↓

sawata3.hatenablog.com

が、今回はまた別の用法ですね。特に目新しいものではありませんが、復習程度に見ていきます。

Diccionario de la lengua española で前置詞 por を引くと27つの用法が載っており、その中で動詞の不定詞が続くものは4つありました。

21. prep. sin (‖ denota carencia o falta). Esto está por pulir. Quedan plazas por cubrir.
23. prep. Con ciertos infinitivos, para. Por no incurrir en la censura.
24. prep. Con ciertos infinitivos, denota la acción futura de estos verbos. Está por venir, por llegar. La sala está por barrer.
25. prep. Detrás de un verbo, y delante del infinitivo de ese mismo verbo, denota falta de utilidad. Comer por comer. Barrió por barrer. Lo está planchando por planchar.
(por)

ことわざ内の "bueno por conocer" では用法24.の「未来の行為を示す」という意味の por が使用されています。

por のこの用法でまず思い浮かぶ例文は "Lo peor está por venir." とかでしょうか。「最悪の状況はこれから来る」ということですが、それはつまり「まだ最悪の状況ではない」ということを示します。
同様に "Este asunto está por resolverse." という文であれば、「この件はこれから解決される」ということで「まだ解決されていない」という意味になります。

「知っている悪人 (malo conocido)」に対して、"bueno por conocer" は「これから知ることになる善人」、つまりは「まだ知らない善人」ということです。
なので、"Más vale malo conocido que bueno por conocer" 全体としては、「たとえ良い人であっても、まだ知らない、もしくはよく知らないのであれば、悪い人でも知っている人の方が良い」という意味を表します。

 

【似た構造を持つ他のことわざ】

"Más vale malo conocido que bueno por conocer" ということわざに見られる "Más vale ○○ que ××" という構造ですが、同じ構造を持つ表現やことわざを他にもいくつか目にしたことがあるので、それらを集めてみました ↓


"Más vale algo que nada"

「何もないよりは何かあった方が良い」ということで、たとえ少なくても0よりはましだという意味です。
くじ引きで残念賞のティッシュが当たったとしても、何ももらえないよりはティッシュ一つだけもらえただけでもありがたいですよね。そういうときこそ、"Más vale algo que nada" のポジティヴ思考が大切です!
同じ意味で "Algo es algo" や "Peor es nada" とも言います。

"Más vale tarde que nunca"

上と同じで、捉え方によってはポジティヴなこの言葉。
「何かを全くしない (=nunca) よりかは遅くても (=tarde) 何かをした方が良い」ということで、何かをする・始めるのに遅いなんてことはないという意味を表しています。
大学の授業に遅れた時に、スペイン人の先生に「遅れたけど来ないよりはマシでしょ(笑)」と "Más vale (llegar) tarde que nunca" と言ったら、案の定怒られました ;)

"Más vale pájaro en mano que ciento volando"

「飛んでいる百羽の鳥よりも手の中の一羽の方が良い」。
日本語には「明日の百より今日の五十」ということわざがあるようです。当てにならない未来に期待するよりも、たとえ少なくても確実なものの方が良いという意味で、リスクを冒さずに安全策を取った方が良いということです。
スペイン語の方では、たとえ鳥が百羽いても空を飛んでいては一羽も掴まえられない可能性の方が高い一方で、一羽だけであっても自分の手の中にいれば確実に捕らえられる(というより、すでに掴まえている)ということで、確実な選択肢を選んだ方が良いということを示しています。
「リスク上等」を謳うNIKEとは真逆のことわざですね。

"Más vale vecino cercano que hermano lejano"

日本語では「遠くの親戚より近くの他人」と言いますが、スペイン語では hermano なんですね。家族愛が深いので「親戚」より「兄弟姉妹」の方が好まれるのでしょうか?

 

【まとめ】

● 西 - "Más vale malo conocido que bueno por conocer"
● 日 - 「知らぬ仏より馴染みの鬼」
● 英 - "Better the devil you know than the devil you don't know"


"Más vale malo conocido que bueno por conocer, pero por supuesto que lo mejor es 'bueno conocido'" :)