イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

¿buenérrimo?

「あ、それよき〜!」

。。。はて?
若者言葉の解説をしている numan というサイトによると「よき」とは

“良い”または“良いね”という意味で使われる、感嘆の言葉。
SNS上などで、主に若い女性たちの間で2016年頃から流行し始め、『女子高生流行語大賞2016』では2位にランクインした。
元々は古語である“よきかな”から生まれたと見られ、“よきよき”“マジよき”“マジよきよき”など様々なバリエーションで使われるようになった。(よき)

“マジよきよき”。。。はて?

時代は繰り返すと言いますが、言語も同じで昔の言葉が現代で再び使われるという例ですね。
そういえば「千と千尋の神隠し」の中でもオクサレ様が温泉に入ってスッキリした時に「よきかな」って言ってましたが、こう聞くとなんだかJK感がしてきますね。

。。。はて?

 

【きっかけ】

スペイン留学中、DELEの問題集の中で nigérrimo という単語に出逢いました。
辞書で調べてみると、そこには「negro の絶対最上級」とありました。

絶対最上級は -ísimo/-ísima やろ!?

と思いながら、スペイン留学当時ハマっていた「大学の図書館に籠って RAE の文法書を手当たり次第に読み漁る」という日課の中で早速調べてみると、そこには自分の全く知らなかったことが書いてありました。

 

【考察】

まずは、Diccionario panhispánico de dudas から覗いていきます。
negro の絶対最上級 (superlativo absoluto) に使われている語尾の -érrimo のページがありました。

ラテン語に直接由来するいくつかの教養語の絶対最上級の語尾
-érrimo という形とともに、-ísimo という形を取る形容詞もある (asperísimo, negrísimo, pobrísimo, pulcrísimo)
libérrimo (*librísimo) や misérrimo (*miserísimo) のように -érrimo という形のみが許容されているものもある(-érrimo -ma)

「教養語 (cultos)」とありますが、これは前回の記事の中で学びました。再記しておくと、、、

cultismo教養語
... 語彙がラテン語からスペイン語に入る際に、その発音の変化やそれに伴う表記の変化、すなわち「スペイン語化」 がほとんど起きず、ラテン語と語形が変わらない語彙。学問分野での語彙に多く、書き言葉・文語体

この見慣れない絶対最上級 -érrimo という形は教養語に付く語尾であるということはすなわち、起源となるラテン語における形は -érrimo の形に近いはずです。
試しに DRAE で nigérrimo を引いてみると、なんとそのまま載っていました ↓

Del lat. nigerrĭmus.
1. adj. sup. cult. de negro.(nigérrimo, ma)

ラテン語では nigerrĭmus という形だったようで、nigérrimo とほとんど同じです。まさに「ラテン語と語形が変わらない」という教養語の特徴を捉えていますね。
さらに、よく見ると "sup. cult. (=superlativo culto)" としっかり記載されていました。敢えて日本語で言うならば「教養語系絶対最上級」とかでしょうか?

ちなみに、同じく DRAE で negro を引いて語源に関する記述を確認してみると、、、

Del lat. niger, nigri.
Sup. irreg. nigérrimo, cult.; reg. negrísimo.(negro, gra)

起源はラテン語の niger (nigri) ということで、nigérrimo の頭の部分と同じ形をしていますね。
そして、引用部の二行目についてですが、これは

 Superlativo irregular. nigérrimo, culto.; regular. negrísimo.

つまり、教養語系で不規則な形が nigérrimo、規則形がぼくたちが知っている -ísimo という語尾が付く negrísimo ということです。


さて、ここで上の Dpd の引用部に記載されていた現代スペイン語で -érrimo の形を取る形容詞を一覧表にまとめてみました。
元の形容詞と -érrimo の語尾を付けた形に加えて、negro, nigérrimo の時と同様に DRAE からその形容詞の起源となるラテン語ラテン語原型)とラテン語での絶対最上級形(ラテン語最上級)を抽出して付け加えました。

    原型         -érrimo,a        ラテン語原型    ラテン語最上級  
 acre   acérrimo,a      ager     acerrĭmus
 áspero,a   aspérrimo,a      asper     asperrĭmus
 célebre   celebérrimo,a      celĕber     celeberrĭmus
 íntegro,a   integérrimo,a      intĕger     integerrĭmus
 libre   libérrimo,a      liber     liberrĭmus
 mísero,a   misérrimo,a      miser     miserrĭmus
 negro,a   nigérrimo,a      niger     nigerrĭmus
 pobre   paupérrimo,a      pauper     pauperrĭmus
 pulcro,a   pulquérrimo,a      pulcher     pulcherrĭmus
 salubre   salubérrimo,a      salūbris     saluberrĭmus


絶対最上級の語尾が -érrimo となる形容詞は10個あるようですが、これだけ少なければほとんど目にする機会はありませんよね。DRAE によると negronigérrimo と negrísimo の二つの絶対最上級形が認められているようでしたが、他の áspero, íntegro, pobre, pulcro も同様でした。

しかし一方で、残りの acre, célebre, libre, mísero, salubre の五つはというと -érrimo の形しか記載がなく、-ísimo は許容されていないようです。つまり、これらの五つこそが生粋の「教養語系絶対最上級」の形容詞ということになりますね。


次に Nueva gramática からも該当する記述を引用します。

最終音節に [r] を含んでいる形容詞の多くが絶対最上級語尾 -érrimo/-érrima を選択する
多くの国々の口語スペイン語では、皮肉や滑稽さを表す目的として buenérrimo, elegantérrimo, guapérrimo, tristérrimo のように用いられる
このような口語スペイン語での使用という例外はあるが、接尾辞 -érrimo/-érrima が付く単語は全てラテン語起源の教養語である
そのため、スペイン語民衆語に由来する単語は -érrimo/-érrima という形を形成しない(§7.4n)

「民衆語 (patrimoniales)」についても、前回学びました ↓

 patrimonialismo民衆語
... ラテン語から「スペイン語化」が完了し、語形も簡略化したため起源となるラテン語とは語形に隔たりがあるもの。民衆の日常生活に溶け込んだ話しことば・口語体

上で命名した「教養語系」に対して、-ísimo が付くものは「民衆語系」絶対最上級と名付けます。(個人的に)

さて、この引用部によると、最終音節に [r] を含んでいるというのが -érrimo という絶対最上級語尾が付く条件のようで、上の表を見てみると確かに10個すべての最後の音節に [r] が含まれていますね。
-érrimo の付け方ですが、"ásperoaspérrimo" のようにシンプルなものもあれば、「教養語系」という名の通り、元のラテン語の形に則して形成されているものもありますね。なかなか一筋縄にはいかない曲者です。。。

そして、引用内に「口語スペイン語では、皮肉や滑稽さを表す」とあります。
上で書いた通り、ぼくは -érrimo という語尾についてはスペイン留学中にその存在を知ったのですが、実はメキシコに来てから、いつだったかこっちの友だちに何かの流れで、「冗談っぽさを出すために buenobuenérrimo って言うことがあるよ」とたまたま教えてもらったことがあります。
そういうニュアンスで使用されているということはその時に知ったのですが、こういう類の口語における用法も Nueva gramática に記載されていることに今回驚きました!さすがの実力 :)

教養語に由来していることから少し硬かったり、小難しく聞こえる -érrimo という語尾を敢えて使うことで皮肉や滑稽さを表すというのは、日本語での普段は敬語を使わない相手に敢えて敬語を使うことで相手をからかったり、冗談っぽさを表すのに似ているような気がします。
また、過去(ラテン語時代)に使用されていたものの、現代ではほとんど使われていないものを敢えて使って冗談っぽさを出すのもまた、日本語の「よき」と同じ流れと言えないでしょうか。
こう考えると、"¡Buenérrimo!" は「よき〜!」と訳すことで、上の言語的背景まで内含させることができるのではないでしょうか!?(笑)


ところで、上で引用した部分の続きに興味深いことが書かれていました。
どうやら、-érrimo を絶対最上級語尾としてではなく語尾に持つ単語が現代スペイン語に一つだけあるようで、それが ubérrimo という単語。

fértil(「肥沃な、肥えた」)を意味するラテン語 uber に由来する ubérrimo (uberrǐmus)(「大変豊かな、非常に肥沃な」)という単語には基となるスペイン語の単語はない(§7.4n)

この ubérrimo という単語ですが「基となるスペイン語の単語はない」と言う通り、現代スペイン語には "*ubro,a" という形容詞もなければ、その絶対最上級でもない普通の形容詞です。気になったので、De Chile.net の DEEL でその語源を調べてみると ↓

'fértil, fecundo, rico, copioso' を意味するラテン語 uber, uberis から形成されたラテン語の絶対最上級 uberrimus-a-um に由来(UBÉRRIMO)

つまり、"uber" というラテン語形容詞の原型の方はスペイン語に入ってこなかったのに、ラテン語での絶対最上級の形でスペイン語に殴り込んできたタフな形容詞ということになります。
由来が絶対最上級形ということなので、「肥沃な、肥えた」を意味する fértil に対して、ubérrimo はその意味を強調したかの様な「大変豊かな、非常に肥沃な」を表すに至ったんでしょうね。

「唯一の"-érrimo 形絶対最上級もどき"の普通の形容詞」という称号を持つこの ubérrimo という単語も覚えておくことにしましょう :)

 

【-ísimo/-ísima

さて、今回は見慣れぬ絶対最上級を学びましたが、せっかくの機会なので親しみのある方の絶対最上級 -ísimo/-ísima 形についても理解を深めていきたいと思います。
Dpd から引用しつつ、勉強していきましょう。意外と知らないルールもあるかもしれませんよ。

-l, -r, -z の子音で終わる形容詞には直接 -ísimo が付く: facilísimo, ferocísimo, popularísimo
-or で終わる形容詞には例外で、接中辞 -c- が挟まれる: mayorcísimo, trabajadorcísimo(-ísimo -ma. 2. a))

接尾辞 -ito が -r で終わる名詞には同じく -c- が組み込まれて mujer - mujercita となるのと同じですね。

-n で終わる形容詞には通常 -c- が挟まれる: joven - jovencísimo
común は例外で -ísimo が直接付く: comunísimo(-ísimo -ma. 2. b))

これも接尾辞 -ito の場合(joven - jovencito)と同様とのことです。

ひとつの母音で終わる形容詞は通常その母音を失って語尾 -ísimo を付けるが、cursi は例外で cursilísimo となる
また、アクセントのある母音で終わる形容詞には -ísimo は付かず、muy を使う: carmesí - muy carmesí, rococó - muy rococó(-ísimo -ma. 2. c))

 

二重母音 -io/-ia で終わる形容詞はその二つの母音を両方失って -ísimo が付く: sucio - sucísimo, seria - serísima(-ísimo -ma. 2. e))

 

母音分立‹1› -ío/-ía で終わる形容詞は最後の母音のみを失って -ísimo が付く: frío -friísimo, impía - impiísima(-ísimo -ma. 2. f))

 

二重母音 ie, ue を含む形容詞の多くは、絶対最上級にする際にその二重母音の代わりに語源のラテン語の形に -ísimo を付ける: cierto - certísimo, fuerte - fortísimo
また ciertísimo, fuertísimo という形も正しく、この形が一般的に口語調である(-ísimo -ma. 3.)

 

ラテン語から直接由来する形容詞もある: 下の表参照
これらの中にはスペイン語での形を基にして amiguísimo, cruelísimo, sagradísimo o simplísimo という形もあり、これらも正しく、これらの方が使用されることもある(-ísimo -ma. 4.)

 ラテン語の形を基にして絶対最上級を形成する形容詞の表がこちら ↓

   原型        絶対最上級         ラテン語      
 amigo,a  amicísimo,a  amicissimus
 antiguo,a  antiquísimo,a  antiquissimus
 cruel  crudelísimo,a  crudelissimus
 fiel  fidelísimo,a  fidelissimus
 sagrado,a   sacratísimo,a  sacratissimus
 sabio,a  sapientísimo,a   sapientissimus 
 simple  simplicísimo,a  simplicissimus

 

【今回の結論】

● -érrimo/-érrima は「教養語系」絶対最上級の語尾。

● 現代スペイン語にはこの形を取る形容詞が10個ある。その内、áspero, íntegro, negro, pobre, pulcro は「民衆語系」絶対最上級の -ísimo/-ísima も許容される一方で、acre, célebre, libre, mísero, salubre は -érrimo/-érrima のみ許される。

● 口語スペイン語では皮肉や滑稽さを表すために使用されることがある。


現代スペイン語に10個しか残っていない、まるで化石のような -érrimo 形絶対最上級。この"化石"を絶やさないように使っていきましょう! ;)