イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

"オレの"落ち穂ひろい ③

今月頭まではコロナウイルスは海の向こうの話なんて楽観視していたメキシコでも、いよいよ深刻な状況になってきました。
うちの会社でもマスク着用とハンドジェルでの消毒が決められました ↓

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社内のコロナウイルス対策

 

【きっかけ】

会社がマスクを買ってそれを配給してくれているのですが、社内では mascarilla よりも cubrebocas という名称の方がよく聞きます。

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cubrebocas y gel antibacterial

ただ、せっかく会社がマスクを用意してくれているのに、早くも着用している人は少数も少数。さらに、マスクを着けていたとしても鼻が隠れてない!それじゃ、マスクの意味がないヨ。。。
cubrebocas という名前のままに「口」だけを覆っている状況です。

心の中で「"cubreboquinarices" っていう名称にしたら、『口と鼻』を両方覆うようになるんじゃないのかな」と思う今日この頃。


さて、今回のテーマは cubrebocas のような「複合語 (palabras compuestas)」。
ぼくが今まで"ひろい集めてきた"オモシロイを複合語を10個ほど集めてみました。
ですが、どれも cubrebocas のように聞いただけで意味が分かるものではないと思うので、構成する単語からその意味を想像してみてください :)

 

【落ち穂】

DRAE の定義を確認しながら意味を見ていきましょう。


buscavidas

「動詞 buscar + 名詞 vida

直訳なら「命を探すもの」?
定義を見てみると、

1. m. y f. coloq. Persona demasiado curiosa en averiguar las vidas ajenas.
2. m. y f. coloq. Persona diligente en buscarse por cualquier medio lícito el modo de vivir.(buscavidas)

実はこの単語は二つの意味を持っています。
一つ目は「他人の生活に対して好奇心が強すぎる人」。すなわち、他人のことを詮索する人のことを指し、cotilla と同じような意味を持ちます。
二つ目は「正当な手段で生き方(=人生)を熱心に探す人」。こちらの意味は、悪事を働かずして生きる術を探す人、つまり勤勉に働く人を意味し、さらにそこから派生して、"探していた"生きる術を見つけて人生の困難を巧みに切り抜けることができる人ということで「やり手」という意味もあります。

一つ目の意味では「他人の」vidas を、二つ目では「自分の」vidas を探し求めるという違いが見て取れますね。


comecocos

「動詞 comer + 名詞 coco

ここでは coco は「ココナッツ」ではなく、「頭、頭脳」の方の意味です。ということは「頭を食べるもの」?

1. m. coloq. Persona o cosa que absorbe los pensamientos o la atención de alguien.
2. m. y f. coloq. Persona que enajena o convence a alguien. Es una comecocos; sus teorías no tienen pies ni cabeza.(comecocos)

この単語もまた二つの定義を持っていますが、どちらの根底にも「人の理性を奪うもの」というニュアンスがあり、そこから洗脳や強迫観念、また人を異常に夢中にさせるものなどの意味を表します。

ちなみに、この comecocos はゲーム「パックマン」のスペイン語圏での名称でもあります。知ってましたか?
なんであのパックマンcomecocos と呼ばれるのかを調べてみると、二つの説が見つかりました。
まず、一つ目はビデオゲーム自体が子どもを異常なまでに夢中にさせる存在であることに由来する説。
二つ目の説は coco という単語に他にも「お化け」という意味があり、ゴーストに追いかけられるパックマンが太いドットを取ると逆にゴーストを食べることができるという点に由来するというもの。
どちらも納得のいく説じゃないでしょうか?


cazafortunas

「動詞 cazar + 名詞 fortuna

ここでは fortuna は「運」ではなく、「財産、富」という方の意味で捉えます。ということは「財産を狩るもの」?税務署的なナニカ?

1. m. y f. Persona que trata de casarse con alguien acaudalado.(cazafortunas)

「お金持ちの人と結婚しようとする人」ということで、相手の財産や玉の輿を狙う人のことです。要するに「金目当てで結婚する人」という意味です。
男女ともに用いられますが (un/una cazafortunas)、どちらかと言うと女性の方を指すことが多いと思います。
"casafortunas Hollywood" で検索すると下世話な記事がたくさんヒットしますのでぜひ(笑)

また、男のみを指す cazadotes という単語もあることを今回調べていて知りました。

1. m. Hombre que trata de casarse con una mujer rica.(cazadotes)

こっちの定義には、しっかり "Hombre" と書かれていますね。俗に言う「逆玉(の輿)」ですかね。
dote に「(結婚や嫁入りのための)資金」という意味があるようなので、それを狙うオトコのことを指すようです。


lameculos

「動詞 lamer + 名詞 culo

これは日本語に直訳するのはためらわれますネ ;)

1. m. y f. malson. Persona aduladora y servil. U. t. c. adj.(lameculos)

「おべっかを使い、こびへつらう人」という侮辱的な意味を表します。日本語ではなんと言えばいいんでしょうか?「ゴマすり野郎!」とかですかね。
ちなみに、メキシコでは lamehuevos と言います。huevos は説明するまでもないですね ;)
DRAE に記載はありませんでしたが、Diccionario de americanismos には載っていました ↓

I. 1. sust/adj. Mx. Persona aduladora y servil. vulg.(lamehuevos.)

「ゴマをする」という表現ですが、スペインでは "hacer la pelota" と言いますよね。一方、ここメキシコでは "hacer la barba" と言うと教えてもらいました。ヒゲ。。。?
同じ「ゴマすり」の意味を持つスペインの "hacer la pelota" とメキシコの "lamehuevos" ですが、pelotahuevo も両方 testículos という意味があるという、なんとも不思議な共通点があります!
偶然なのか必然なのか。調査が必要です :)


matasanos

「動詞 matar + 名詞 sano

sano は形容詞で「健康な」を意味しますが、この複合語の中では名詞として「健康な人」を表していると考えます。なので、これは「健康な人を殺すもの」?
何とも物騒な単語ですがその意味は、

1. m. y f. coloq. Curandero o mal médico.(matasanos)

「民間療法医、腕の悪い医者」。患者は健康なのにその医者にかかると死んでしまうほどの腕の悪さを持つ医者ということで、つまりは「やぶ医者」を意味します。

médico に軽蔑を示す接尾辞 -illo/-ucho/-astro などを付けた mediquillo, medicucho, medicastro なども「ヘボ医者」という意味になりますが、matasanos の方がインパクトが強いですね。


matasuegras

「動詞 matar + 名詞 suegra

「義母を殺す者」?これまた matar が入った物々しい単語です。なんで姑が殺されなければならないでしょうか?
定義を見てみると、

1. m. Tubo enroscado de papel que tiene un extremo cerrado, y el otro terminado en una boquilla por la que se sopla para que se desenrosque bruscamente el tubo y asuste por broma.(matasuegras)

な、長い。。。ので、写真検索をしてみると

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matasuegras

分かりますか?そう、息を吹き込んで丸まった部分が伸びるアレです。果たして日本語では何て言うんでしょうか?
「祭りのピューのやつ」??

調べると、「紙へび、蛇腹笛、吹き戻し」などという呼び方があるそうです。ピンとくる名前はありますか?少なくともぼくはないです。。。
この日本語で何と呼ぶかわからないものですが、スペインでは物騒ですが、メキシコでは espantasuegras と呼ぶそうです。こっちの方が穏やかですね。
定義でも「冗談として驚かす ("asuste por broma")」と言っているので、メキシコでの呼び方の方が初見でもまだ分かりやすいですよね。
まあ、matasuegras と言っても、もちろん本当に姑を殺してしまうわけではなく、matar の次の意味 ↓

11. tr. coloq. Producir a alguien un gran sufrimiento físico o moral. Este zapato me mata. Lo están matando a disgustos.
12. tr. coloq. Incomodar o molestar a alguien. Ese hombre me mata con tantas preguntas.(matar)

ここら辺の意味で使用されていて、「うんざりするほど驚かす」といった感じで理解した方が良いですね。

ちなみに、「姑を殺すもの」が「祭りのピューのやつ」ですが、「おばを殺すもの」つまり matatías という単語もあり、「高利貸し」を意味します。
あまり穏やかじゃない単語が続いたので、次は穏便な単語を。


tiovivo

「名詞 tío + 形容詞 vivo

「生きたおじ」?生きているので平穏ですが、意味は想像できないかと。

 1. m. Recreo de feria que consiste en varios asientos colocados en un círculo giratorio.(tiovivo)

この単語はずばり「メリーゴーランド (carrusel de caballitos)」。それにしても、何で「生きたおじ」がメリーゴーランドを意味するようになったんでしょうか?De Chile.net の DEEL によると、、、

言い伝えによると、1834年マドリードの Paseo de las Delicias にあるメリーゴーランドのオーナーである Estéban Fernandez という名の tíoコレラに罹り、亡くなったと見なされたが、埋葬する前に彼が "Estoy vivo" と叫んだことから、彼のメリーゴーランドのことを tiovivo と呼んだ(TIOVIVO)

ここでの tío は親戚のおじ(叔父・伯父)ではなくて、スペインでよく使われる方の tío(おじさん)だったんですね。
一度は死んだと思われたものの実は生きていたおじさん (tiovivo) のメリーゴーランドが tiovivo と呼ばれ始めて、そこからメリーゴーランド一般がそう呼ばれていったようです。

ちなみに、メキシコでは tiovivo と言っても通じません。どうやらスペインだけでの呼び方だそうです。


sabelotodo

「動詞 saber + 代名詞 lo + 形容詞 todo

「すべてを知っているもの」?博識とかポジティヴな意味でしょうか?

1. m. y f. coloq. Persona que presume de sabia sin serlo. U. t. c. adj.(sabelotodo)

定義には、「実際は知識がないのに知識をひけらかす人」とあります。すなわち、「すべてを知っている」というふりをする人ということで「知ったかぶりをする人、物知りぶった人」を意味します。
中学校の時に、知ったかぶりを意味する「半可通」という言葉を学んで、物知りぶってこの単語を使っていたあの頃のぼくはまさに sabelotodo です :)


duermevela

「動詞 dormir + 動詞 velar

「寝る」と「徹夜する」という相反する二つの意味を兼ねたこの単語。

1. m. o f. Sueño ligero en que se halla el que está dormitando.
2. m. o f. Sueño fatigoso y frecuentemente interrumpido.(duermevela)

「居眠り・うたた寝などの浅い眠り」「頻繁に中断されるうんざりするような眠り」という定義からも分かる通り、寝てる状態と起きている状態を行ったり来たりする様子を表します。まさに duermevela という文字通りの意味を表しています。


hazmerreír

「動詞 hacer + 代名詞 me + 動詞 reír

「私を笑わせてくれるもの」?そもそも、こんな文みたいな構造の複合語も存在するということに驚きですが、定義を見ると、

1. m. coloq. Persona que por su figura ridícula y porte extravagante sirve de diversión a los demás.(hazmerreír)

「滑稽な外見や常軌を逸した行動によって他人を笑わせる人」。これは人を「笑わせる」というよりも「笑われる」人であり、嘲笑の的になってしまう人、つまり「笑い者」を意味します。

いつかスペイン人の友だちが

"Nuestro primer ministro es el hazmerreír de España.

って言っていました。そこまで言わんでも(笑)
と思いましたが、メキシコでも

"Nuestro presidente es el hazmerreír de México."

という声が聞こえてきそうなほど、大統領がMEMEで笑い者にされているのが現状です。どこも同じですね :)


つい最近教えてもらった複合語があるので、最後に特別枠でもうひとつだけ。

medialuna

「形容詞 media + 名詞 luna」

「半月」を意味するこの単語ですが、アルゼンチンでは次の意味で使われているそうです ↓

1. f. Pan o bollo en forma de media luna.(medialuna)

「半月の形をしたパン」ということで「クロワッサン」のことをアルゼンチンでは medialuna と呼ぶそうです。
スペインでは cruasán、一方メキシコでは「角」の形に似ていることから cuernito と呼ばれています。
ただ、クロワッサンの由来となるフランス語の croissant は、「三日月」を意味するスペイン語 luna creciente からも分かる通り、三日月の形に似ているからそういう名前が付けられたはずなのですが、言語と場所が変われば、少し"成長して"「半月」という風に呼ばれているんですね。オモシロイ!

 

【まとめ】

       スペイン語                           日本語
   buscavidas    詮索好き ; やり手
   comecocos    夢中にさせるもの ; パックマン
   cazafortunas    金目当てで結婚する奴
     cazadotes    逆玉を狙うオトコ
   lameculos
 lamehuevos
   ゴマすり野郎
   matasanos    やぶ医者
   matasuegras    祭りのピューのやつ
     matatías    高利貸し
   tiovivo    メリーゴーランド
   sabelotodo    知ったかぶりする奴、物知りぶる
   duermevela    うたた寝、居眠り
   hazmerreír    笑い者
   medialuna    クロワッサン


複合語を構成するそれぞれ要素(動詞、名詞、形容詞、etc.)の意味は知っていても、それらが組み合わさるとその一歩先を想像しないと意味が見えてこないものが多くあり、それが複合語のおもしろい部分だと思います。
まさしく、"Las palabras compuestas son comecocos" です :)