イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

"próximo" vs "siguiente"

スペインの大学留学中の授業のひとつに、「スペイン人(スペイン語ネイティヴ)がスペイン語の先生になるためにスペイン語を学ぶ授業」というものがありました。
その名も "Lengua española"。そのまま(笑)

ぼくも非ネイティヴながら受講して"目から鱗なこと"を多く学ばせてもらいました。
英語ネイティヴにとっては「ir - venir」や「llevar - traer」の使い分けが難しいことや定冠詞の概念を持たない日本を含むアジア諸国の人にとっては定冠詞の使い分けが難しい、といった将来非ネイティヴスペイン語を教える人たち用の授業なので、スペイン語ネイティヴではないぼくにとってはまさにドンピシャ。非常に興味深く、勉強になるものでした。

この授業の特筆すべき点はというと、「非ネイティヴの目線」でスペイン語を扱っていたところです。
スペイン人にとっては自分の母国語だからこそ、当たり前にそして無意識的に使いこなしているからこそ気が付かないテーマを多く取り扱っていました。

その内の一つが今回のテーマ。

 

【きっかけ】

今回の表題である「次の」という意味のこの二つの単語。
ネイティヴのぼくは本来、この二つの形容詞の厳密な使い分けに疑問を持っていなければならないところ、全く気にしたことがありませんでした。。。一生の不覚です。。。

前回の記事で紹介した Ministerio del Tiempo の主人公 Julián のセリフじゃないですが、当たり前だと思って行動をしないと「生きながら死んでいる」ようなものです。
この経験はのうのうと生きていた自分を恥じ、その後スペイン語に対してよりアンテナを張るきっかけのひとつになりました。

今回はそんな個人的に思い出深いテーマを共有しようと思います。

 

【考察】

「来週(=次の週)」をスペイン語でどう言いますか?
¿la próxima semana?, ¿la siguiente semana?, ¿la semana que viene?
ぼくにはこの3つくらいしか思い付きません。

"que viene" は一旦置いておいて、今回の主題である二つの形容詞の DRAE の定義から見てみます。

1. adj. Cercano, que dista poco en el espacio o en el tiempo.
2. adj. Siguiente, inmediatamente posterior. U. t. c. s.(próximo, ma)

próximosiguiente と同義もしくは類義として載ってます。
ただ、厳密には「直後 (inmediatamente posterior)」という意味を内含しているようです。

1. adj. Que sigue.
2. adj. Ulterior, posterior.(siguiente)

Mmm... これだけじゃ、"próximo ≒ siguiente" で終わっちゃいます。まあ、辞書の定義だけで解決できるわけはないですよね。そんな柔なテーマは扱いません(笑)


ここで、今回の冒頭で述べた授業で習った内容について書いていきます。
あの時のノートが手元にあれば一番良いのですが、残念ながら日本に置いてきたので記憶を呼び戻しながらやっていきます。

例えば、左から右へ、過去から現在そして未来を形式的に以下のように表します。

…→[過去②]→[過去①]→【現在】→[未来①]→[未来②]→…

今回のテーマである「次の」を表す場合、つまり「過去②から見た過去①」、「過去①から見た現在」、「現在から見た未来①」、、、のようにそれぞれの時間から見た「次の」時間を表すと、

[過去②] [過去①] 【現在】 [未来①] [未来②] 
          ↳              ↳              ↳                 ↳
   siguiente  siguiente  siguiente     siguiente
             (= próximo

siguiente はあらゆる時点から見て「次の」
próximo は現在(のみ)から見て「次の」

これが授業で習ったもので、まさに今回の結論です。
ただ、もう少し掘り下げてみます。上の内容を頭に入れた上で Nueva gramática を開きます。
探しに探して、やっとこさ見つけたのがこちら ↓

dentro depróximo(といった直示表現 (deixis))を含む表現は話し手が話している瞬間から計られる一方で、al cabo de‹1› や siguiente を含む表現は発話時点から計られるのではなく、発話の中に出てくる他の時点から計られる
ej.) En el mes de marzo tendrá lugar una reunión. El encuentro siguiente ('siguinete al que se acaba de mencionar') será en septiembre.
"el encuentro siguiente" は先に言及した会合のその次の会合を表すのに対して、"el próximo encuentro" であれば発話した瞬間から見た次の未来のある時点で開かれる会合を表す(§17.1n)

‹1› al cabo de ... 〜の後に(ej) al cabo de una hora: 一時間後)

なるほど、言われて気付きましたが、確かに próximo(と dentro de)は直示的に機能しますね。
一応記しておくと、直示表現とは「話し手が発話する際にいる時間・場所・状況的などの文脈によって決まる語」のことです。

引用内で言及されている通り、el próximo encuentro は「発話時点から見て」次の会合であり、el encuentro siguiente は「その」次の会合を指し示すということですね。
引用内最後の例文を訳してみると、「3月に会合が開かれる予定で、その次の会合は9月にある。」つまり、ここでの siguiente は言及したばかりの会合(=3月の会合)の「次の」会合となるので、9月の会合のことを指すということです。

このセリフを1月に言っていると仮定します。すると、その1月時点からすれば "el próximo encuentro" が3月の会合で、"el encuentro siguiente" が「その次」、つまり9月の会合を指すことになります。

ここで一度、日本語で考えてみるとなんだか共通点が見えてきました。
例えば「次の週」は「来週」もしくは「翌週」とも言えますが、来週は今日から見て次の週、翌週は過去もしくは未来のある時点から見た次の週ですよね。
すなわち、来週は la próxima semana、翌週が la siguiente semana に対応するということです。さらには、来週は「来る週」、まさに la semana que viene そのままですよね!

ということは、この que viene  próximo に対応するということ。
つまり que viene も直示的に機能するということで、すなわち常に発話時(=現在)から見ての「次の」ものを表すので過去形でも未来形でもなく「現在形」しか認められないのかなと考えます。

調べてみるとありました! ↓

 la semana que viene ('la semana posterior a aquella en la hablo'), el año que viene ('el año siguiente a aquel en el que hablo') などの que viene は発話時から計られ、他の時制・数は認めない(§17.9e)

確かに "la semana que vino / venía / vendría / vendrá" といった形は見たことありません。
que viene は próximo と同等と考えて良さそうですね。


ちなみに、つい最近初めて耳にしたんですが、仕事でメキシコ人と話しているときに来週を la semana que sigue という風に言っていました。意外に聞いたことなかったのでなんだか新鮮な気が。


このテーマを授業で学んだ後、マドリードに遊びに行った際に地下鉄で撮った写真があります。

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見えますかね。。。?

この写真一枚で今回の題材全てを表していると思います。
現在からして「次の (próximo)」便が4分後、「その次の (siguiente)」便は9分後と、しっかり学んだ通りに表記されていました!
なるほど!と思ったのですぐに写真を撮りました。


そういえば留学中、スペイン人の友だちに「『次の次』ってスペイン語でなんて言うの?」と質問したことがあります。"¿próximo próximo? o ¿siguiente siguiente?" と。
残念ながら答えは No.
みなさん、わかりますか?

上の写真からもわかると思いますが、答えは "siguiente" です。
例えば、友だちとバスに乗っているとして「降りるのは次の駅だっけ?」-「いや、次の次だよ」という場面、

¿Nos bajamos en la próxima parada?
   - No, en la siguiente.

また、「来週映画行かない?」-「んー、ムズカシイかな、再来週(=次の次の週)はどう?」だと、

¿Qué tal si vamos a ir al cine la próxima semana?
   - Mmm... Se me dificulta la próxima semana, ¿qué tal la siguiente?

となります。
ただ、ここで忘れてはいけないのは、どちらの próxima も siguiente に取って代わることが可能ということです。
つまり、「次の」は基本的にすべて siguiente で事足りるのです。ただ、上で説明した通り、現在から見た「次」のみ próximo となり得るということです。


さて、ここまでは「『時間的』な次」についての話でしたが、もうひとつ授業で学んだことがあります。それは「『空間的』な次」についてです。

空間的に「次に」を言及するときは上の「『時間的』な次」についての理論とは異なり、慣習的に siguiente が用いられることの方がほとんどだそうです。
授業で先生が挙げた例としては、路駐をしようとしているときにずっと先まで隙間なく車が駐車されており、なかなか車を停めらないという状況で、ついに見つけたスペースに停めようとしたら他の車に先を越されて「しゃーない、次のスペースに停めよう(=次スペースを見つけたらそこに停めよう)」というときは

Qué remedio... Aparcamos en un siguiente hueco.

と言う方が自然だそうです。
それにしても、大学の先生の例文で「路駐」て。だいぶスペイン的だこと(笑)


最後におまけでネイティヴの友だちから教わったのは、taquilla などの列で「はい、次の人ー!」は "Siguiente." もしくは "El que sigue." であり、"Próximo." は100%ないとのことです。

 

【今回の結論】

● próximo と siguiente はともに時間的・空間的に「次の」を意味するが、próximo は発話時の文脈に依拠する直示的なもので、発話時、つまり『現在から見て』「次の」ものを指し示す。
一方、siguiente は時間的にはあらゆる時点から見た「次の」ものを指し、文脈によっては「その次の(=次の次)」を表す。空間について言及する際は próximo よりも好まれて使用される。


メキシコ人の友だちに今回のテーマの相談をしたら興味深いことを教えてくれました。
「個人的な意見だけど、、、」と前置きをした上で、

próximoaproximarse(近づく)と関係があるだろうから、対象(=『次の』何か)が現在に向かって来るイメージで、siguienteseguir(後を追う、後に続く)から来ており、現在もしくはある時点から対象に向って行くというイメージ」とのこと。

さらにもう一つ。
例えば、あるドラマをワンシーズン見終えて、最終話の最後に「シーズン2制作決定!」という朗報に対して「『次の』シーズン楽しみ!!」というときは

¡¡Qué ilusión me hace ver la siguiente temporada!!

próxima も間違いではないけれど、siguiente の方が圧倒的に使われるかな」らしいです。

うーん、、、現在から見て「次の」何かに対しては siguiente も próximo も可能ということで、使い分けムズイです。。。
ぼくの推測に過ぎませんが、友だちが教えてくれた二つの形容詞のイメージ像から想像するに、「próximo は言及している次の何かが向かって来る」ということはすなわち「その対象が一体何なのかいつやって来るのか?がある程度具体的にわかっている」という状況と解釈できませんかね?
他方、siguiente は「『次』のものがすでにわかっていて、必ずやって来るのはわかっているけど、それが一体何なのかいつなのかは不確定」という状況と理解すると説明付きませんかね?付かない??

「来週」は確実に来週やって来るものだから siguiente でも próximo でも可能だけど、路駐の「次の」スペース、ドラマの「次の」シーズンなどはいつやって来るか不明だから siguiente が好ましい。また、「はい、次の人ー!」は次の人がいるのはわかっているけど、具体的に誰なのかは不明だから siguiente しか用いられない。

どうでしょうか?みなさんはどう思いますか?
最後に言い訳じゃないですが、今回お世話になったメキシコ人の友だちはこの二つの形容詞に関して "Los utilizamos mal." と言ってました。
同じスペイン語ネイティヴと話していても「その使い方間違ってない?」と感じることは少なくないそうです。

はい。。。そうなんです!これが現実。
今回はこれで終わりです(笑)


¡El siguiente artículo está muy próximo¡¡Hasta la próxima!!