イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

Navidades en México

スペインにいた時、10月31日のハロウィン騒ぎが終わった翌日にはすでに街中がクリスマス色に染まっており、「まだクリスマスまで1ヶ月半以上あるのに気が早いなぁ」なんて思いましたが、メキシコでも11月1・2日の死者の日 (Día de Muertos) が終わるとすぐにクリスマス感を出してきます。
どこも同じですね(笑)

 

【きっかけ】

クリスマスの時期になると、メキシコでは posada, ponche, piñata, aguinaldo という言葉をよく耳にします。
みなさんは聞いたことありますか?ぼくはどれもメキシコに来て知りました。
今回はこれらの言葉が何を表すのかを、いつものように De Chile.net の DEEL から語源とともに見ていこうと思います。

【語源・起源】

スペインにはありませんでしたが、メキシコにはクリスマス前に posada と呼ばれる行事があります。
このポサダはキリスト教に起源を持つ行事で、イエス・キリストの両親のヨセフとマリアがイエスの誕生の場所を求めてナザレからベツヘレムまで9日間旅をしたのが12月の16日から24日までの9日間だったため、この期間を祝うための宗教的行事です。
この posada という単語の語源は ↓

posar から来ており、この動詞は「休止する」を意味するラテン語pausare に由来する
この単語から aposento(宿泊、部屋), posadero(旅館の主人), reposo(休息、停止)などの単語が生まれた
ラテン語pausarepausa から来ており、この単語はギリシャ語の παύειν (pauein cesar(終わる), apaciguar(なだめる、鎮静させる), clamar‹1›)に由来する(POSADA)

‹1› clamar ... 原文には「強く訴える」という意味の clamar とありました。しかし、他の二つの関連語から考えるにおそらく calmar(静める、落ち着かせる)のタイプミスかなと思います。

エスは家畜小屋で生まれたと何となく聞いたことありますが、実はヨセフとマリアは宿屋を探していたものの、どこも満室だったため仕方なく家畜小屋に泊まり、そこで出産したそうです。
posada は「宿屋」を意味するので、ポサダという行事はまさにヨセフとマリアの(イエスを出産するための)宿屋 (posada) を探し求めた9日間を偲ぶ行事ということですね。


そして、このポサダというパーティーでは ponche という飲み物が振る舞われるのが一般的です。

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ポンチェ

このポンチェという飲み物はドでかい鍋に色んな果物などを煮て作られ、テキーララム酒などのアルコールを入れることもあれば、子どももいる場合はお酒なしで作られることもあります。
この ponche と言葉の語源はというと ↓

ラム酒をベースに他の材料を混ぜたアルコール飲料
このお酒は5つの材料から作られていたため、「5 (cicno)」を意味するヒンディー語 pânch に由来
'Dizionario etimologico' によると、これらの5つの材料は茶・砂糖・蒸留酒・シナモン・レモンであったとされる(PONCHE)

材料が5つだから「5」という名前が。。。他にも材料が5つのものはあろうに(笑)

それにしても、ヒンディー語から来ているといういうことはポンチェという飲み物自体はインド方面が起源なのでしょうか?
調べてみると、この ponche はいわゆるフルーツポンチのことだそうで、今ではフルーツポンチといえば給食に出るとうれしい甘いフルーツ盛りですが、遡れば17世紀以前にイギリスなどのヨーロッパでアルコールを入れて飲まれていたアルコール飲料だったようです。
その起源はやはりインドで、当時西欧とアジアを結んでいたイギリス東インド会社がインドからイギリスに持ち帰り、そこからこの飲み物が広まったそうです。

ちなみに、メキシコでは地域や家庭にもよりますが、一般的なレシピとしては

  リンゴ (manzana)
  グアバ (guayaba)
  プレーン (ciruela pasa)
  サンザシ (tejocote)
  ハイビスカス (jamaica)
  シナモン (canela)
  サトウキビ (caña)
  サトウキビから作られた赤砂糖 (piloncillo)

らしいです。

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左上 guayaba 右上 tejocote 右下 jamaica 左下 piloncillo

フルーツの優しい甘さを持ち、寒いこの時期にありがたい暖かくておいしい飲み物です。


さらに、ポサダでは piñata と呼ばれるお菓子の詰まったくす玉を目隠しをして順番に棒でぶっ叩いて壊すというイベントがあります。

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ピニャタ

その語源はというと ↓

「マツの実の形をした土鍋」を意味するイタリア語 pignatta に由来
そして、この単語はラテン語pinea から来ており、スペイン語の piña の語源にもなっている(PIÑATA

マツの実、つまり松ぼっくりの形に似ているからこの名前が付けられたんですかね。

ピニャタについて調べていると、なんと「日本ピニャータ教会」なる団体を見つけました!ありがたいことにピニャータの起源に関する記述があったので引用させてもらいます。

ピニャータの歴史は16世紀に遡り、1586年に聖アウグスチヌスの修道士が布教をするため、現地の人達に集まって貰うためにクリスマスのミサで悪魔が可愛らしい星形のピニャータに化けてきた。それを叩いて懲らしめようという簡単なゲームを催したのが最初です。
なんと最初は悪魔払いの要素もあったのですね。
最初のピニャータは、7ポイントで星のように形づくらていました。7つの点は七つの大罪を表し、そしてピニャータの明るい色は誘惑を象徴。目隠しは信頼を意味すると、非常に宗教色の強いものでした。そして美徳または意志である棒で、それらの罪を解決し悪魔を追い払う意味がありました。
ピニャータの内側のキャンディやお菓子は、天国の王国の富で信頼と美徳によって、罪を解決することができて、ピニャータが割れると天国の神から褒美を受けることができるとされていました。
いま振り返ると、なんとも大袈裟な理由付けで、当時の布教の苦労を偲ばせます。

モーニングスターを彷彿とさせるピニャータのコーン(呼び方合ってるんでしょうか?)ですが、あれは「七つの大罪」を表しているんですね。そして、目隠しは「盲目的信仰」、棒は「美徳や意思」を示し、悪魔を祓うというかなりキリスト教色の濃いものだったんですね。
ピニャータをみんなで叩いて壊すというよりも、叩き割った後に放出される大量のお菓子を地面から遮二無二拾い上げる"戦い"の方がむしろメインだと思ってました(笑)

このピニャータは参加者が交替で叩くのですが、その際に次のような歌があります ↓

  Dale dale dale no pierdas el tino
  Porque si lo pierdes pierdes el camino
  Ya le diste uno
  Ya le diste dos
  Ya le diste tres
  Y tu tiempo se acabó

この歌が終わったら次の人と交代となります。


次は語源の話ではないですが、、、
クリスマスと言えば、キリストの生誕の様子を表す belén というかわいい置き物があります。スペインにいた時は、友だちの家族と一緒にこのベレン博物館のような場所にも行きました。

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ベレン

今年も12月に入り、うちの会社の食堂にもこのベレンが飾られてました。ですが、そこで衝撃の事実を知りました。
「今年ももう belén の時期だね」と同僚に言ったら「???」の表情。話を聞いていくと、メキシコではこれらの置き物は belén とは呼ばず、nacimiento と呼ぶそうで、そのまま!
belén もイエスが生まれた場所であるベツヘレムを意味するので、どっちもそのままなのですが(笑)


最後に調べるのは aguinaldo という単語。
ぼくはずっと昔に辞書を見ていて偶然この単語を見つけて「クリスマスの贈り物・チップ」という意味があるのを知り、スペイン語圏にはそういう慣習があるのかなと思ったのを覚えています。そして、メキシコに来て初めて耳にしましたが、実は上の意味ではありません。
少なくとも、メキシコで aguinaldo と言うと「クリスマスボーナス」を意味します。これは従業員の給料の最低15日分(会社によってはそれ以上の場合もあります)を毎年12月20日までに会社から支払われるボーナスの一種で、メキシコの労働法で定められた福利厚生の一つです。

さて、この単語の語源には二つ説があるそうで、一つ目は

"en este año" を意味するラテン語hoc in anno の発音が訛ったのが由来(AGUINALDO)

残念ながら、この説に関してはこれ以上の説明はナシ。
"en este año" から想像するに、「この一年」の頑張りに対するプレゼントなりボーナスなりの贈り物を表すようになったんでしょうか?

二つ目の説は

ケルト人社会の祭司・ドルイド‹1›が冬至の間に用いていた表現 "A gui l´an neuf" から来ている説
冬至(12月21日)、つまり、実りの季節である秋の終了の際にフランス北東部のケルト民族は野生の果実の豊作を神々に対して祈っていた
この儀式ではドルイドは聖なる植物であるヤドリギ‹2›の葉を人々の頭の上に撒くためにカシの木に登り、"A gui l´an neuf" (="al muérdago el año nuevo") という儀式の言葉を述べており、この表現が縮約され、aguilan という表現が生まれた

‹1› ドルイド (druida) ... ケルト社会で祭祀を司った宗教的指導者。政治的にも力を持っており、ケルト社会において大きい影響力を持った存在であった。
‹2› ヤドリギ (muérdago) ... ケルト社会では神聖視されていた。現在ではクリスマス飾りに用いられる。

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これってヤドリギ (muérdago)って言うんですね

"A gui l´an neuf" という文言から aguilan が生まれたとありますが、aguinaldo とは agui- の後の子音が違っています。この aguilan が aguinaldo になったのであれば、どのような変遷を辿ったんでしょうかね?

ここで一度 DRAE aguinaldo を引いてみると、語源を示す部分に 

De aguilando.(aguinaldo)

とありました!
RAE の見解としては aguinaldo という単語は aguilando から来ていると。
この aguilando は、上の DEEL の二つ目の説で見た「ヤドリギに新年を ("al muérdago el año nuevo")」という文言から生まれた aguilan と形が類似していますね。

そして、この aguilando を引いてみると、

Quizá del lat. hoc in anno 'en este año'.
1. m. p. us. aguinaldo (‖ regalo navideño). U. c. dialect.(aguilando)

"p. us. (=poco usado)"、つまりあまり使われないものの aguinaldo の類義語として登録されていました。
そして、なんとその語源は DEEL の一つ目の説にあったラテン語の "hoc in anno" であると!

RAE と DEEL の語源の説を整理してみると、

RAE : "hoc in anno" → aguilando → aguinaldo

DEEL① : "hoc in anno" → aguinaldo
        ② :  "A gui l´an neuf" → aguilan 

RAE の説では "hoc in anno" から一旦 aguilando になったとしています。しかし、aguilando は "hoc in anno" よりも、DEEL②の "A gui l´an neuf" からの aguilan の方が形が似ていますよね。
RAE は DEEL②のケルト語起源という説は唱えていませんが、音的な面でいうとラテン語の "hoc in anno" より可能性はあるようにぼくは思います。

 

【まとめ】

posada ... イエスの出産のためにヨセフとマリアが休息するための宿屋 (posada) を求めながら旅をしたことを偲ぶ行事で、「休止する」を意味するラテン語pausare に由来する。

ponche ... 後にヨーロッパに持ち込まれたインド発の飲み物で、5つの材料から作られていたため、ヒンディー語で「5」を意味する pânch に由来する。

piñata ... 七つの大罪を表す七本のコーンをつけたくす玉を棒で叩き割ることで悪魔祓いとしたのが起源で、その形から「マツの実の形をした土鍋」を意味するイタリア語 pignatta に由来する。

aguinaldo ... 「クリスマスの贈り物・クリスマスボーナス」を意味する言葉で、"en este año" を意味するラテン語の "hoc in anno" に由来する説と、"al muérdago el año nuevo" を意味するケルトの司祭が使っていた豊作祈願のまじない "A gui l´an neuf" に由来する説がある。


これであなたもメキシコのクリスマス通です :)
¡¡Feliz navidad!!