イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

"ovni" o ¿"fani"?

Capilla del Monte

高校生の時にテレビの特集で観て以来、いつか訪れたいと思っている場所のひとつです。
アルゼンチンの小さい村なのですが、何十年か前のある日、夜が明けたら山に巨大な焼き跡が出現していて、それがUFOが着陸した跡だというのです。この出来事をきっかけにこの村は「UFOの村」として世界的に(?)有名な場所になっており、BBCにもこの村に関する記事がありました。

タイトルは Capilla del Monte, el pueblo de Argentina obsesionado con los extraterrestres donde "todo el mundo ha visto un ovni alguna vez en su vida"

"obsesionado con los extraterrestres" って(笑)
ぼくは写真や映像でしか見たことありませんが、確かに村には宇宙人やUFOの像や絵がたくさんあり、まさに「取り憑かれている」ような雰囲気があります。だからこそ、オカルト好きとしては興味を惹かれるのですが。

 

【きっかけ】 

UFOといえば、今年の9月に衝撃的なニュースがありました。なんと、アメリカ海軍がUFOの存在を認めたのです!?
ただ厳密には、過去の正体不明の飛行物体をUFOではなく、UAP (Unidentified Aerial Phonomena) 「未確認航空現象」として認めるというものでした。なんでUFOという名称は使わないのかは不明です。。。
ちなみにスペイン語でこのニュースを見ていると、英語からのスペイン語訳で "Fenónemo(s) Aéreo(s) No Identificado(s)" ということで fani(s) という単語が使われています。

fani...?
なんじゃそら。ovni の方がええ。

さて、今回はナゾの存在 ovni やナゾの言葉 fanis のような頭文字を取って省略する acrónimo について勉強していきます。

 

【考察】

Diccionario panhispánico de dudas から関連記述を引用する前に一つ。

acrónimos について調べていると siglas という言語学的概念も存在することを知りました。どちらも「頭文字による略語」として説明されていますが、調べてみると厳密には差異があるそうで、ADN (=DNA) を「アーデーエネ」のようにそれぞれの頭文字の音を発音するのが siglas で、ovni を「オブニ」のように普通の単語のように発音するものが acrónimos のようです。

例えば、集中治療室を表す ICU は英語で「アイシーユー」とそれぞれの文字を別々に発音するので sigla ですが、スペイン語では UCI 「ウシ」と羅列された文字を単語として発音するので acrónimo に当てはまるということです。


これらを踏まえた上で、まずは siglas から見ていきましょう。

ONU, OTAN, láser, ovni のように書かれている通りに読まれる acrónimos という名の siglas があり、これらは名詞として一般語彙に取り入れられている
母音だけで sigla が構成されている場合はそれぞれの母音を独立して発音し、それぞれにアクセントが置かれる
OEA (Organización de Estados Americanos) は [ó-é-á] と発音される(sigla. 2. a))

一行目から推測するに、siglas  acrónimos はどちらも「頭文字による略語(=頭字語)」ではあるものの、その中で一般語彙と同様に読まれる種類のものが acrónimos に分類されるということだと思います。そうであれば、siglas は「頭字語(全般)」、acrónimos  は「一般語彙と同じように発音される頭字語」ということになります。
ただ、今回は便宜上、siglas は「各頭文字を独立して発音する頭字語」として、話を進めていきます。

次に、

発音できない形の siglas は文字ごとに読まれる : FBI [éfe-bé-í], DDT [dé-dé-té], KGB [ká-jé-bé]
英語の long play を表す LP という言葉から elepé という単語が生まれたように、発音のために必要な母音を入れて新しい言葉として造られることもある(sigla. 2. b))

long play とはレコード盤の形状のことらしいです。
文字ごとに読まれる場合もあるんだから LP という形のままでもいい気がしますが、elepé という形で新たな単語が生み出されることもあるんですね。
さらに、

上記二つの方法を組み合わせて読まれる siglas もある
CD-ROM [se-de-rrón, ze-de-rrón] (Compact Disc Read-Only Memory)
このような場合、cederrón のように siglas から単語が生み出されることもある(sigla. 2. c))

コンビネーションプレーもあるんですね。ただ、cederrón 以外にも例はあるんでしょうか?


続いて、acrónimos の項目から引用していきます。

二つ以上の単語の要素から成るもの : teleñeco>televisión + muñeco; docudrama>documental + dramático; Mercosur>Mercado Común del Sur
一つの単語として発音する頭文字による略語 : OTAN, ovni, sida
後者のグループは OVNISIDA といったように大文字で書かれていたが、一般的な語彙としてスペイン語化されたため、現在は多くの場合小文字で表記されるが、UnescoUnicef のように頭文字は大文字で書くものもある
acrónimos は発音しやすくするために必要な場合を除いて、形成に際して元の言葉内の冠詞、前置詞、接続詞が省略される
ACUDE (Asociación de Consumidores y Usuarios de España), pyme (pequeña y mediana empresa)(acrónimo. 1.)

teleñeco とは「セサミストリート」や「ゆうがたクインテット」のようなテレビ番組 (televisión) で使われている手を入れて操る人形 (muñeco) のことです。
このように二つ以上の単語の頭文字だけではなくて、最初の数文字を取って組み合わせたものも acrónimos に分類されるんですね。ということは、日本語でいうところの「キムタク」や「こじるり」という略し方もこの acrónimos に当てはまるということですよね。
一方で、王・長嶋コンビを指す「ON砲」という名称は、「オン」とも読めますが「オーエヌ」と文字ごとに読まれますので、これは siglas になるんじゃないでしょうか?


そして【考察】の冒頭でも述べた通り、「一つの単語として発音する頭文字による略語」というのが siglas との違いということで、OTAN, ovni, sida はそれぞれ「オタン」「オブニ」「シダ」のように略した後の文字の音節で発音されるのが acrónimos の特徴です。
また、もう一つ引用しておきます ↓

acrónimos英語圏において、特に科学的・技術的分野にて非常に頻繁に見られる現象であるため、英語からの acrónimosスペイン語に数多く取り入れられている
radar (ra[dio] d[etecting] a[nd] r[anging]; láser (l[ight] a[mplification by] s[timulated] e[mission of] r[adiation]; púlsar o pulsar (puls[ating st]ar)
外国語由来の acrónimosスペイン語に適応・翻訳されて取り入れられる場合もある
sida (síndrome de inmunodeficiencia adquirida) - aids (*adquired immuned deficiency syndrome); OTAN (Organización del Tratado del Atlántico Norte) - NATO (North Atlantic Treaty Organization)(acrónimo. 2.)

*adquired ... 原文ママです。英語だから少し油断したんでしょうか?正しくは acquired です。

英語から形を変えずにそのまま導入されたものも発音はスペイン語読みですね。


では次に、siglasacrónimos のそれぞれの複数形の作り方についてです。
まずは siglas について。

話し言葉では [oenejés] (='organizaciones no gubernamentales') のように複数形の形を取る傾向があるものの、書き言葉では las ONG のように変化はさせない
そのため、複数であるということを示唆したい場合は複数であるということを示す単語を付けることが推奨される
Representantes de algunas/varias/numerosas ONG se reunieron en Madrid.
英語とは異なり、siglas の最後にアポストロフィーと小文字 s を付けて複数形とするのは避けなければならない : *CD's, *ONG's(sigla. 3. Plural.)

siglas は話す時は確かに「オーエネヘー」のように複数を表す s が付いていると思いますが、書く時は複数の s は付けずに、冠詞や形容詞で複数であることを示すんですね。今まで曖昧にしたままやって来てたので、勉強になりました!

ここで言及されているルールですが、例えば Estados UnidosEE. UU.recursos humanosRR. HH. のように複数形の siglas の場合は二つずつ頭文字を書きますよね。ということは、理論上は ONG の複数形の表記は OO. NN. GG. のはず。ただ、それだと長くなってしまいますし、nno なので複数形になり得ないなど様々な問題が生じてしまいます。やはり、ここで言われている通り、形は単数形のままにしてその周りの要素で複数であることを伝える方が都合がいいですね。

そして、acrónimos の複数形の作り方に関しては ↓

一般的な語彙としてスペイン語に取り入れられると、acrónimos は他の単語と同様の複数形のルールに従って複数形になる : ovnis, ucis, radares, transistores(acrónimo. 3.)

先に引用した項目内で言及されていましたが、一般的な語彙として認められると小文字で書かれるため、複数形への仕方も他の単語と同様になるとのことです。
確かに、頭文字を取って合わせた時に、子音と母音の組み合わせがうまくいって普通の単語のように発音できるのであれば、いつまでも大文字のままで放っておかずに一般語彙の仲間に入れてあげて、その扱いも同じようにしてあげる方が混乱は少ないですよね。


最後に、二つの文法性の選択についてです。

siglas の文法性は省略される前の表現の核(通常は一番目の単語)の文法性を採用する
el FMIFondoMonetario Internacional; la OEAOrganizaciónde Estados Americanos; la Unesco United Nations Educational, Scientific and CulturalOrganization≫ ('Organización de Naciones Unidas para la Educación, la Ciencia y la Cultura')
siglas には「後続する女性名詞がアクセントが付く /a/ から始まる場合は定冠詞 el を用いる」というルールは当てはまらない
そのため、asociación という単語はアクセントが付く /a/ から始まってはいないため、≪Asociaciónde Futbolistas Españolesla AFE (*el AFE) となる(sigla. 4. Género.)

siglas の場合は、あくまで省略前の元の状態において核となる単語の文法性が採用されるということで、上の引用部でも las ONGONGOrganización ということで女性名詞扱いでしたね。
後半部分については a から始まる単語の場合、la aguala alza のように母音 a の連続を避けるために el aguael alza といった風に女性名詞だけど定冠詞 el が付くというルールがありますよね。AFE は発音上は a にアクセントが来て /áfe/ となり el AFA となりそうですが、AFAAAsociación であり、最初の a にアクセントが付く単語ではないため、la AFA となると。
発音上の心地悪さ (cacofonía) を避けるために生まれたルールですが、siglas の場合は省略前の表現の核の文法性を尊重してるからか、定冠詞 la のままでいくんですね。

さて、一方で

acrónimos は由来となる外国語表現の核に当たる単語をスペイン語に翻訳した際に女性名詞だったとしても、その多くが男性名詞として扱われる : un púlsar (star = estrella は女性名詞); un quásar (source = fuente は女性名詞)
また、el [rayo] láser (light = luz は女性名詞) のように省略されている部分が男性名詞の場合の acrónimos も男性名詞として扱われる
通常は省略前の核となる単語の文法性を採用する : la uci (unidad は女性名詞); el sida (síndrome は男性名詞)(acrónimo. 4.)

púlsar(パルサー)は英語の pulsating star が元で、この言葉の核は star ですよね。その star に当たるスペイン語 estrella は女性名詞ですが男性名詞として見なされているとのことです。
同様に、quásarクエーサー)は英語の quasi-stellar radio source から来ており、核となる sourceスペイン語では女性名詞の fuente ですが、この単語もスペイン語では男性名詞とされているようです。
ちなみに、どちらも馴染みのない言葉ですがともに天文学の用語です。

また、láserlight amplification by stimulated emission of radiation という非常に長い名前を略したもので、ここでの記述によると核となるのは lightスペイン語の女性名詞 luz に当たりますが、日本語でも「レーザー光線」というように、この「光線」の部分が隠れていると見なされる場合はその部分(ここでは光線 (スペイン語では男性名詞の rayo))の文法性に合わせて acrónimos の文法性が決まるようです。


以上が siglasacrónimos の細かなルールでした。
最後に、ふと思い付いたことを調査してみます。

頭字語(siglas, acrónimos ともに含む)の英語とスペイン語を比較した場合、それらを構成する単語の順序の変化を調べてみます。
例えば、英語の DNAスペイン語ADN は順番が『①DNA』から『③ADN』になっているので③①②のグループに属します。
また、英語の WHOスペイン語OMS (Organización Mundial de la Salud) であるような場合、それぞれの単語に対応する単語の順番を見ることとします。すなわち、『①W(orld)②H(ealth)③O(rganization)』は『③OMS』となり、これもまた③①②のグループに振り分けます。
以下にいくつか例を挙げます ↓

①②③→③①②
DNA - ADN (Ácido Desoxirribonucleico)
NGO - ONG (Organización No Gubernamental)
WHO - OMS (Organización Mundial de la Salud)
VAT - IVA (Impuesto al Valor Agregado)
LCC - ABC (Aerolínea de Bajo Costo)

①②③→③②①
PIN - NIP (Número de Identificación Personal)
HIV - VIH (Virus de la Inmunodeficiencia Humana)
GDP - PIB (Producto Interno Bruto)
ICU - UCI (Unidad de Cuidados Intensivos)
AED - DEA (Desfibrilador Externo Automático)

今回見つけた22個の頭字語を調べてみたら、③①②が8個、③②①が13個でした。そして、残りの一つは FBI - BFI (Buró Federal de Investigaciones) の②①③というパターンでした。
22個しか対象がなく数が少ないですが、それでも単純計算したら95%は英語での最後の単語(③)がスペイン語では最初の単語(①)となっていました。
可能であれば、頭字語を構成する単語を名詞・形容詞・その他の品詞に分類してどういった位置に移る傾向があるのかを調べようとも思ったのですが、英語にはスペイン語と違って名詞の形容詞的用法があるために区別があまりできませんでした。。。(例えば、世界保健機構の「世界」の部分が英語の WHO では名詞 World ですが、スペイン語の OMS では形容詞の Mundial といったように。)
なので、とりあえず、この調査は英語とスペイン語の頭字語の順序の関係性はほとんどが③①②か③②①になる、ということのみに留めておきます。

 

【今回の結論】

● 頭字語には siglasacrónimos の二種類あり、siglas はそれぞれの頭文字を独立して発音する (ONG /oenejés/) のに対し、acrónimos は一つの単語として音節で読む (ONU /ónu/)。

● 複数形 - siglas は大文字で表記されるため s は付けずに冠詞や修飾する形容詞で複数であることを示すのに対し、acrónimos は一般語彙化されて小文字で表記されるため他の語彙と同様に s を付けて複数形とする。

● 文法性 - siglas と acrónimos ともに省略前の表現の核となる単語の文法性を採用するが、外国語由来の acrónimos の場合、省略前の核に対応するスペイン語が女性名詞であってもその acrónimos は男性名詞として扱われることがある。


この記事の冒頭で書いた ovni に代わるNASAの新語「未確認航空現象 (Fenónemo Aéreo No Identificado)」の頭字語である fani ですが、/fáni/ と発音できるので同じ頭字語でも acrónimos に分類されますね。その複数形は -新語なのでまだ一般語彙化されてはないですが- acrónimos ということでそのまま fanis となるでしょう。そして、文法性は Fenónemo からして男性名詞扱いとなるので、los fanis でいいんじゃないでしょうか?


今まで詳しく頭字語について調べたことがなかったので、とても勉強になりました。
ヤヤコシイと思うルールもありますが、今後スペイン語を聞いたり、読んでいて頭字語が出てきたら、どういう風に扱われているのかに注目して少しずつ覚えていく所存です :)