イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

Hay dos Sergios en esta clase.

「このクラスにはセルヒオが2人いる」。

どうでしょうか?今回も表題に違和感を覚えましたか?
残念ながら今回はタイトルに違和感を覚えなかったほうが、スペイン語センス有です。

 

【きっかけ】 

スペインの大学に留学中、ある授業の初回に先生が「あれ?このクラス、Sergio(って名前の人)が2人いるね」と言ったんですが、その時に先生は今回のタイトルのように言いました。
その瞬間、ぼくは「(固有名詞の)Sergio って複数形になるの?」と疑問に思ったので、今回このテーマについてしっかり調べてみます。

 

【考察】

さすが我らが RAENueva gramática
「固有名詞の複数形 (El plural de los nombres propios)」という内容まで網羅してました。

本来、固有名詞というものはその「固有性 (entidades únicas)」を表すものであるため、複数の形はない(はずである)が、固有名詞が同種のものと並存する場合、普通名詞と同じように複数形が認められる
しかし、「頭文字は大文字」という固有名詞の元々のルールは変わらない(§3.6a)

固有名詞だとしても一般名詞同様、普通に -s をつけて複数形にしたらいいのは頭で理解できるんですが、感覚的になんだかひっかかってました。が、これでもかというくらいちゃんと記載されてますね。(笑)
ぼくはセンス△でした。。。

また、固有名詞の複数化に関してしっかり押さえておきたいルールを見つけたので引用します。

ブランドの名前が
子音で終わる場合は複数形となっても元の形のままとなる
例)Los Seat estaban alineadoslos Seats)
母音で終わる場合は(多くの場合)複数形の s が付く
例)Los Ibizas estaban alibeadosTodos los Toyotas que ha comprado y las Yamahas que ha vendido

商業施設の名前でも上と同じルールである
例)los Champion, los Carrefourlos Mercadonas, los Zaras
複合固有名詞は多くの場合、元の形のままで複数形となる
例)los tres Corte Inglés de la ciudad

(§3.6m)

いろんな感想はありますが、、、
まずは CarrefourMercadonaCorte Inglés が懐かしくて懐かしくて!メキシコにはどれもないので久しぶりに見ました。
あと、外国語の文法書に例文として使われる Toyota と Yamaha すごい!!

もはや、スペイン語どうこうじゃなくなってますが。とりあえず、上から順にいきますね。

ブランドの名前が子音で終わる場合は複数形となっても元の形のままとなる
母音で終わる場合は(多くの場合)複数形の s が付く(§3.6m)

子音で終わるスペイン語の一般名詞であれば基本的には -es を付けて複数化しますが、それが固有名詞の場合は冠詞や文法的扱いは複数でも、-(e)s を付けはしないんですね。

ブランド名ではないですが同じ固有名詞ということで一つ例を出すと、アニメ「シンプソンズ」の英題 The Simpsons 。シンプソン一家ということで英語では複数形の -s が付きますが、スペイン語題は Los Simpson となっており、「子音 (n) で終わっているので複数形の -s が付かない」というまさしく上記の内容を体現していますね。

ちなみに例のひとつとして出ている Seat ですが、「シートってなんだ?何のブランド名だろう?」と思っていたのですが、「セアット」というスペインの自動車会社だと最近たまたま友人に教えてもらいました。

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Sociedad Española de Automóviles de Turismo らしいです

続いて、

商業施設の名前でも同じである(§3.6m)

先日、スペイン帰りの友人に mejillones の缶詰を頂きました。右上にこれまた非常に懐かしいロゴが。。。!

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Día% 懐かしい!Mejillones ありがてぇ!

スペインでよく見たスーパーマーケットの "Día%"!こちらは母音で終わっているので複数形は Días となるでしょう。

そして、

複合固有名詞は多くの場合、元の形のままで複数形となる(§3.6m)

(El) Corte Inglés だと例にあるように los tres Corte Inglés と複合名詞の前と後ろのどちらも複数形の -s が付かないんですね。
ただ、これは固有の複合名詞だから語尾が母音・子音にかかわらず単複同形になると納得できますが、一般名詞の複合名詞の複数形については、ぼくは恥ずかしながら明確なルールを知らないので、いつか一度しっかり調べて書いてみようと思います。
keywords は結局 palabras clave なのか?palabras claves なのか?両方認められているのか?など複合語の複数化についてをはっきりさせます!)

最後に、みなさんも気になっていると思いますが、今回の引用部分で非常に気になる点が一つ。
子音で終わる固有名詞はひとまず置いておいて、母音で終わる固有名詞ですが、Ibiza, Toyota, Mercadona, Zara はどれも母音 a で終わっており女性名詞扱いかと思いきや、これは全て los ---s と男性名詞扱いとなっています。
しかし、一方で Yamaha だけ las Yamahas と女性名詞扱いに。

。。。ん?ナゼでしょう??
トヨタヤマハの間にどういった違いがあるんでしょうか???

死に物狂いで調べてみたら、こちらの項を見つけました ↓

一般名詞でない固有名詞のグループを一概に括ることは困難であるが、その単語が属する名詞族が有する文法の性によってその単語の性は決まる
つまり、自動車 (automóviles) は un Mercedesun Seat のように言い、モーターバイク (motocicletas) は una Vespauna Yamaha と言う
乗り物を製造する会社に言及する場合は通常 la Mercedesla Seat のように女性形で用いられる
Todos los automóviles, desde los Fiat hasta los Bentley, sirven para hacer el amor (Paso, F., Palinuro); Venid ahora a mi despacho. Debo preparar las cuentas de la General Motors y la Mitsubishi (Cuzzani, Pitágoras)(§2.10c)

訳すのがかなり難しかったのですが、ここでいう「その単語が属する名詞族」を言語学では hiperónimo上位語」と呼ぶそうです。
つまり、上の引用内に出てきた例文 "Todos los Toyotas que ha comprado y las Yamahas que ha vendido" は、los Toyotas は「トヨタの車(=automóviles: 男性名詞)」ということで男性名詞扱い、las Yamahas は「ヤマハのバイク(=motocicletas: 女性名詞)」なので女性名詞扱い、ということでした。
さらに、それらを会社として捉えるのであれば上位語が「会社(=empresa: 女性名詞)」ということで la General Motors や la Mitsubishi のように女性名詞扱いとなるとのことです。

なるほど!Ibiza はセアット社の un automóvil が上位語だから男性名詞、Mercadona は un supermercado だから男性名詞、そして Zara の上位語は、、、なんでしょう?
なんで男性名詞なの?「ザラグループ」とかって言うから un grupo だからでしょうか?

そして、hiperónimo「上位語」によって文法性が決められる具体例が載っていたので最後に引用します。

以下は男性名詞扱いとなる
曜日 (los días) - un lunes aciago
月 (los meses) - agosto tórridos
年 (los años) - el 98
世紀 (los siglos) - el (siglo) XV
方角 (los puntos cardinales) - el Sur
風 (los viento) - el siroco
数字 (los números) - el cuarto, el veinte(-ena で終わる集合数名詞 docena, veintena は例外)
金属 (los metales) - el cinc
言語 (los idiomas) - el ruso
ワイン (los vinos) - el moscatel
お酒 (los licores) - el coñac, el vermú, el pisco
色 (los colores) - el azul
音符 (las notas musicales) - el renota は女性名詞ではあるが)

以下は女性名詞扱いとなる
アルファベットの文字 (las letras del alfabeto) - la eme
時間 (las horas) - las cuatro

(§2.10b)

もちろん、ものによっては例外があるようですが、曜日や年、言語は男性名詞として、文字や時間は女性名詞として用いることに慣れてしまっていて、何も考えずに話していましたが、これらが hiperónimo「上位語」というものによる現象であったとは!
知らず知らずのうちに慣れ親しんでいたものを、こういう風に文法的・言語学的に学ぶと新鮮ですね。しかもそれが外国語で起きると、なんだかネイティヴにひとつ近づいたという勘違いをしてしまい、ひとりで勝手にうれしくなってしまいます。(笑)

そういえば、いつか大学のスペイン語の授業で「神戸は山に囲まれている」という文を "Kobe está rodeado de montañas." というスペイン語にしたら、スペイン人の先生に "está rodeada" の方がいいよと訂正してもらったことがあり、その時に Kobe には la ciudad が隠れているからと教わったことがありました。
つまり、"La ciudad Kobe está rodeada de montañas." という文なので、Kobe は女性名詞として扱う方が良いということです。
今でもこの記憶が頭に残っており、ふと思い出したのですが、これこそまさに「上位語」による文法性の決定ですよね。

 

【今回の結論】

● 固有名詞であっても同じものが複数ある場合は複数形となる。

● 母音で終わるものは -s が付き、語尾が子音もしくは複合固有名詞の場合は原型のまま複数扱いとなる。

● 固有名詞または一般名詞であっても、hiperónimo上位語」という概念からその単語の文法性が決まる。


最初に書いた通り、固有名詞である人の名前に -s が付いて複数形になるのを初めて耳にしたとき、ぼくはすごく不思議な感じがしました。ですが、結局そこに違和感を持ったぼくはスペイン語のセンスが△だったわけで、スペイン人の友だちにその話をしたら「セルヒオが2人いるんだから Sergios ってなるでしょ」と冷たくあしらわれました(笑)

まあ、わかるけどさ。。。非ネイティヴには(少なくともぼくには)新鮮なのよ。。。まあいいさ。。。

いつか、日本語を勉強していたスペイン人の友だちにこの話をしたら、「日本語の『タロウ"たち"を見た?』っていう言い方が不思議!」って言ってました。どうしてかと聞くと、「スペイン語だと "¿Has visto a Taro y los demás?" っていうけど、日本語の『タロウ"たち"』だとタロウがたくさんいるみたいに聞こえる」らしいです。

確かにそうですよね!
これを言われた瞬間、彼女が日本語非ネイティヴだからこそ気付くに至ったんだろうなと思いました。ネイティヴからしたら気にも留めない当たり前なことでも、「非ネイティヴだからこそ実際は正しいながらも、そこに疑問を抱き、違和感を感じてしまう」という、ぼくが Sergios に対して感じた違和感と似たものを彼女は日本語の『タロウ"たち"』に感じたんだろうなと思います。


今回、hiperónimo「上位語」という概念を学びましたが、これを知った時にデーモン閣下の話を思い出しました。
20年くらい前、自分の子供に「悪魔」という名前を付けようとした「悪魔ちゃん騒動」の際、"ホンモノの"悪魔である閣下に対してある芸能リポーターが「閣下も自分の子供に『悪魔』という名前を付けるんですか?」と聞いたところ、閣下は

「では、貴様は自分の子に『人間』と名付けるのか?」

と愚かなリポーターにぐうの根もでない絶妙な返しをしたのですが、子供に「人間」と名付けるということは、これってまさに「上位語」じゃないですか!?
ぼくはこの話を聞いた日から閣下に対してリスペクトです。やっぱり頭がいいなぁと。だてに早稲田大学卒業してませんね。だてに仮の姿で世を忍んでないですね。


ちなみに、いつか「悪魔」についての記事を書こうと思っています。
安心してください。もちろん、スペイン語が絡んできますよ (๑´ڡ`๑)
(この顔文字の口の部分!アラビア文字っぽいけどアラビア文字じゃない!!たぶんやけどペルシャ語にもなかったはず!!!何語の文字なのか気になる!!!!)