イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

siestita

スペインに留学中、テレビの5チャンネル Telecinco の Pasapalabras というクイズ番組をよく見てました。
制限時間との戦いなので、MCの問題文の読み上げが異常に早い。笑てまうくらい早い!

そのクイズ番組にて、キャリーオーバーにキャリーオーバーが重なってトンデモナイ金額が溜まっていたところ、一人の青年がその賞金を獲得しました。
その時にニュースでも「○○さんが××万ユーロを獲得しました!」と言っていたのですが、そこではユーロが eurazos という風に言われていました。
そこで、「なるほど!大きい額だから増大辞 -azoeuro が付くのか!」と。

スペインに行ってすぐの頃、お店とかで店員さんが「これ安いよ、たったの2ユーロだよ」という際に "2 euritos" と言っていて「あ、縮小辞使ってる!」と気付いてちょっとした感動を覚えたものですが、逆に高額の場合は eurazos となるんだとそのニュースで学びました。

ちなみに、メキシコの通貨「ペソ」だと、縮小辞の場合は pesitos もしくは pesillos、増大辞の場合は pesazos とは言わず pesotes と言うそうです。

 

【きっかけ】

スペインに行ったとき、siesta の時間帯である14時-16時くらいの間はお店が閉まるし、大学で開講される授業もほとんどないということに驚きました。愛すべき習慣だなと思いつつも、お店が閉まって不便だなとも。。。

そんな siesta ですが、ある時ホームステイ先のおばあちゃんに

¿Te vas a echar una siestecita?

と聞かれました。その瞬間、「siestita じゃないの?」という疑問が。
縮小辞という英語ではなかった文法的要素を学んだ際に、「Jardincito, florcita のように nr で終わる単語には -cito,a が付く」というルールはありましたが、siesta がなんで siestecita なのかはナゾ。。。
もちろん、おばあちゃんには「siestita じゃないの?」と聞きましたが、答えはいつもの "Se dice así."。。。 y puntoです(笑)

ということで、今回は縮小辞のルールをしっかり勉強して、siestasiestecita になる理由に迫っていきます。

 

【考察】

Nueva gramática から、まずは前情報として、縮小辞の地域別の使用傾向を見てみます。

-uco/-uca: mesuca, niñuco カンタブリア
-ín/-ina: librín, pequeñina スペイン北西部
-ino/-ina: muchachino, poquino スペイン南西部
-iño/-iña: besiño, guapiña ガリシア
-illo/-illa:  アンダルシア
-ete/-eta:  アラゴン、レバンテ、カタルーニャ
-ejo/-eja: animalejo ラマンチャ、ラプラタ川流域、アンデス地域
-ingo/-inga: casinga, mesinga ボリビア東部
(§9.1l)

急に mesuca って言われても、それが mesa と認識できるかどうか。。。
casinga なんて絶対に casa のこととは気付かないです。

スペイン北西部で好まれて使われている -ín/-ina に関して、具体的には Asturias 出身の友だち Javier がおばあちゃんとかに Javierito ではなく Javierín と呼ばれていたと言ってました!
さらに、その Asturias はリンゴ酒のシードラ (Sidra) が有名ですよね。この下の写真のようにノールックで床をビシャビシャにしながら店員さんがグラスに注いでくれますが ↓

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「泡立たすために高い所から注ぐ」という escanciar という動詞も存在!

このように高い所から注ぐことで空気と混ぜて風味を出すそうなんですが、その風味を最大限楽しむためにも、泡立っている間に飲み干せるようにグラスにちょこっとしか注がないそうです。
グラスの「おしり (culo)」部分だけに「少量」注ぐということで、culín (de vaso) という単語が生まれ、元はシードラを指す言葉だったのが今はワインとか他のお酒でも「少量」を表す場合には使われると教えてもらいました。
Asturias のバルで "Un culín, porfa" って言えば、言わずもがなシードラが出てきます!


次に縮小辞の使用傾向の時代変遷を見てみます。

現在スペイン語圏全土で最も一般的な縮小辞は -ito/-ita である一方で、スペインの北東部・南部やカリブのいくつかの地域では -ico/-ica が優勢である
古典・中世スペイン語では -ito/-ita, -ico/-ica, -uelo/-uela も用いられていたものの使用頻度は低く、むしろラテン語の接尾辞 -ellus, -a, -um に相当する -illo/-illa が支配的であった
時代を経るにつれて -ito/-ita が他の縮小辞よりも普及していった(§9.1j)

中世のスペイン語作品を読むと -illo/-illa がよく見受けられるんでしょうかね?今後読むことがあれば注目してみてください。
また、言語にも数年単位から何世紀という大きい括りでの「流行り廃り」がありますが、将来的に -ito/-ita に取って代わって他の縮小辞が支配的になったりするんでしょうか?


さて、ここから今回の本題である「siestasiestecita になる理由」について見ていきます。

一般的に、アクセントの付かない -o/-a で終わる単語には -ito/-ita の形の縮小辞が用いられる
しかし、スペインのスペイン語では、2音節であり、アクセントが -ie-/-ue- という二重母音に落ちる場合、通常 -ecito/-ecita という形が続く
(hierbecita, piernecita, tiernecito, vientecito, vientrecito; cuerdecita, fuellecito, jueguecito, nuevecito)
ラテンアメリカスペイン語では、上記の語の場合においても -ito/-ita が用いられる傾向が強い
(cieguito, cuerdita, fiestita, hierbita, yerbita, vientito, huesito, jueguito, lengüita, muelita, nuevito, ruedita, sueldito, tiernito, viejito, vientito)(§9.5a)

-ito/-ita ではなく -ecito/-ecita になる場合のルールがちゃんとあったんですね!!
ここではスペインとラテンアメリカとで好まれる形が異なると言及されているので、せっかくなのでメキシコ人の友だちで検証してみました。
「次の単語に縮小辞を付けたらどうなるか」と尋ねてみたところ、、、

 fiestafiestecita
 vientovientecito
 nuevonuevecito
 huevohuevito

huevo だけ上の引用部でいうラテンアメリカでの傾向に当てはまる結果となりました!
なので、少なくともメキシコはスペインよりなのかな?他のラテンアメリカ諸国の人にも聞くチャンスがあれば聞いて確かめてみたいですね。
そして、もちろん「siesta に縮小辞を付けるとしたら?」という質問もしました。その答えは、

"Mmm... siestita?(少し悩んで)Ah no, ¡sietecita!"

そもそもメキシコにはシエスタの習慣がないので、縮小辞を付けることはおろか siesta という単語を耳にすることもないです。それもあってか、おもしろいことにまず siestita が飛び出しました!ただ、悩んで siestita と sietecita を交互に小さく口ずさんだ後に sietecita という結論を彼女は出しました!
このことから、やはりネイティヴは単語の語感から感覚的に-ito/-ita か -ecito/-ecita かを選択して使用しているように思いました。それはつまり、「2音節であり、アクセントが -ie-/-ue- という二重母音に落ちる場合」という規則はもちろん知らずに、直感的に導き出したということです。

日本語にもこの感覚に近しいものがあると思います。それは「連濁」という現象。
例えば、「財布」だけだと「さいふ」と読みますが、「長財布」となると「ながいふ」という風に濁音がつくことを指します。
この連濁が起きる場合や起きない場合のルールはちゃんとあるそうですが、我々日本語ネイティヴはそんなの知らないし、聞いたこともないですよね?それでも、話すときにあまり考えずとも自然と正しい言い方をしている。ただ、これが非ネイティヴの場合だと、その規則を知らなければいちいち単語ごとで覚えないといけないという途方もない作業になって。。。

それを防ぐためにも、非ネイティヴネイティヴの持つ語感覚を持っていないという desventaja を埋めるためにも、文法の規則を学んで効率良くしていく必要があるのです!!


次も我々にとって非常に役に立つ情報です。

-ecito という形は Consuelito, pañuelito のように2音節以上の語や -ie-/-ue- 以外の二重母音(-ua-: cuadrito, -ai-: Jaimito, -ui-: ruidito)を含む語には使用されないが、数は少ないものの suavecito のような例外も存在する
Jaimecito, ruidecito, cuedrecito という形が散発的にラテンアメリカカナリア諸島スペイン語において見られることはあるが、Jaimito, ruidito, cuadrito という形の方がより多く、より好まれて使用されている(§9.5b)

直前で「非ネイティヴは規則を学んで効率よく!」と述べましたが、規則に例外は付き物。その例外は残念ながら一つずつ学んでいくしかないのです :(

まあ、Luis Fonsi の言葉を借りるなら外国語学習は "pasito a pasito, suave suevecito" ですからね。ゆっくり行きましょう :)


他にもまだ例外は存在するようで ↓

cielo の起源となるラテン語 caelum の単音 ĕ が二重母音を形成していないため、スペインとラテンアメリカともにその縮小辞形は cielito (*cielecito) を取る(§9.5c)

cielo も -ie- という二重母音を有しているため理論上は cielecito となるはずですが、これもまた例外。

その理由は cielo の語源であるラテン語caelum を見れば分かる通り、現代スペイン語とは異なり a(強母音)+ e(強母音)という並びになってますよね。
スペイン語学習の最初の方に習ったと思いますが、a, e, o が強母音で i, u が弱母音。スペイン語における二重母音 (diptongo) とはこれらの「強母音+弱母音 (aula)」、「弱母音+強母音 (agua)」、「弱母音+弱母音 (ciudad)」の組み合わせのことです。
しかし、caelum の場合はともに強母音である ae が連続しており、これは厳密には二重母音ではありません。この単語を音節で区切ってみると ca.e.lum となりますよね。

cielo はこの語源での発音を優先するためなのか、例外的な縮小辞形を取るようですね。
(ここまで来たらもうやってられない。。。というのが本音。)


最後にもう一つ。

tanto に加えて、あまり見られないものの mucho, bastante, nada, cuanto にも縮小辞が付けられることがある
No, señor, yo no he visto nadica (García Pavón, Reinada); Mi hijita querida, tu papi y tu mami te quieren muchito (Piñera, Niñita); Pero no salir casi nunca y no ver a ninguna chava te ponen bastante mal, bastantito (Villoro, Noche)
(§9.2e)

nada, mucho, bastante などの副詞にも付くことがあるんですね。
みなさんは聞いたことありますか?ぼくのスペイン語歴5年半では、この3つの単語に縮小辞が付いているのは見たことも聞いたこともないです。

ちなみに、tanto + -itotantito はスペインでは一度も聞いたことなかったですが、実はメキシコではすごく耳にします!
"¡Espérame tantito!" や "¿Me puedes ayudar tantito?" のように un poco と同じような意味で使われています。
tanto にも縮小辞が付くなんて想像もしてませんでした。

 

【今回の結論】

● 二重母音 -ie-/-ue- にアクセントが落ちる2音節の語の場合、縮小辞は -ecito/-ecita の形を取る。siesta はその条件を満たすため、縮小辞形は siestita ではなく sietecita となる。


縮小辞について最後にもう一つだけ。
いつか、テレビかなんかであるお母さんが「私の子どもたちもだいぶ大きくなったわ」というときに、次のように言ってました。

"Ya mis hijos son grandecitos."

「縮小辞」って、それが付く語の意味に「小」や「少」といった意味を与えるもののはずなのに、「大きい」を意味する grande に「小」を付与する縮小辞 (-cito) が付いているこの単語は矛盾しているんじゃないのかと思いました。(考えすぎ?)
grandecito は大きいのか小さいのか。。。?「少しだけ大きい」とか??

もしくは、Juanito のように名前などに付けて「愛着・親近感」を表す用法もありますよね。なので、grandecito ということで、自分の子どもに対して「愛情」を示しつつ、「成長して大きくなったけど、子どもは子ども」という意味が詰まっているんでしょうかね?

その真意は不明ですが、一つだけ言えるのは「ネイティヴはそこまで深く考えてない」ということ(笑)
繰り返しになりますが、日本人が連濁を知らずに使いこなしているのと同じで、スペイン語ネイティヴも縮小辞のルールなんて知らずに使いこなしています。
さらに、地域によってどの縮小辞が優勢かも変わってくるので、これ以上深く掘り下げても、、、っていうのが今回の本音。

ただ、シエスタsiestecita と言うことだけ覚えておいてください!!