イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

End of the World

少し前にYouTubeであるドキュメンタリーを観ました。
内容は「現代の人類にとってロボット技術の発達は手放しで喜べるのか?」というもの。

昨年亡くなったスティーヴン・ホーキング博士も2014年12月2日付けのBBCのインタビュー記事 "Stephen Hawking: "La inteligencia artificial augura el fin de la raza humana"" の中で、

"el desarrollo de una completa inteligencia artificial (IA) podría traducirse en el fin de la raza humana"(完全な人工知能の開発は人類の終焉となる可能性がある)

と述べています。
もとはAIなどの「次世代最新技術」などが生活を便利にすると考えられていたのが、いざその技術が発展してきて想像していた便利な世の中の現実味が帯びてきたら、開発に伴うデメリットや想像しうる怖い部分まで見えてきて、気が付けば「AIは人類最後の発明になるだろう」なんて声も聞こえてきて。。。

人間が生み出したはずのAIが人間の持つ技術を超越して、自分たち自身でより優れたAIを作れるようになる瞬間を「技術的特異点 (singularidad tecnológica)」というそうです。
例えば、映画「ターミネーター」の世界もこの「技術的特異点」を超えた後の世界だそうです。スカイネットというAIが意思を持って人類を滅ぼそうとする話ですが、そのまま人類がAIによって滅ぼされたら、たしかにAIが人類最後の発明になりますよね。
考えれば考えるほどコワくなってくるテーマです。。。

 

【きっかけ】

さて、上で述べたドキュメンタリーというのが DW Documental というYouTubeチャンネルのもので、そのタイトルというのがこちら ↓
(クリックしたらYouTubeに飛ぶので興味があればご覧ください。)

Paraíso o "robocalipsis"

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robot の存在やその進歩は人類にとって apocalipsis となるのか?」という問いがタイトルの robocalipsis という造語に詰まっていますね。
今回はそんな「この世の終わり、大惨事」などを意味する単語について調べていこうと思います。

 

【語源】

まずは、apocalipsis の語源を De Chile.net の DEEL で見ていきます。

「ベールをはがす、暴露 (revelación)」を意味するギリシャ語の άποκάλυψις (Apocçalupsis) に由来
απο-(切り離す、遠ざけるを表す前置詞 apo-)+ καλύπτειν(妨げる、隠すを意味する動詞 kalyptein)+-sis(行為、状態を表す接尾辞)
この言葉は「人間は現実に対して幻想を抱く」という概念を表し、その幻想というものは我々人間を神という存在から遠ざけるものとされる(APOCALIPSIS)

別に調べてみると、apocalipsis とは27の書から成る新約聖書の最後の書「ヨハネの黙示録 (Apocalipsis de San Juan)」のことだそうです。
新約聖書内では唯一の預言的内容を示しているため revelación、つまり「(神の意志や未来に起きる事柄の)明らかにすること」ということですね。
そして、この黙示録の中では戦争や飢饉、さらにはサタンの降臨など様々な災禍が書かれており、その内容が世界の終末を表すもの(と解釈できる、と言った方がいいんでしょうか?)であるため、この apocalipsis という言葉が「この世の終わり」という意味を持つようになったそうです。


さて、次は「大惨事、大災害」catástrofe

「破滅・破壊」を意味するギリシャ語の καταστροφή (katastrophe) に由来
κατά- (kata-: 下へ、対して、上へ) + στροφή (strophe: ひっくり返す)
「下へひっくり返す」つまり、物事を悪い方向へ変えるということを表す(CATÁSTROFE)

日本語でも「カタストロフィ」という横文字を耳にしますが、語源的に見ると「(天地を)上下ひっくり返す」ほどの出来事ということなんですね。
この単語もギリシャ語起源だったとは。


続いて、「天変地異、大異変、大変動」cataclismo

本来の意味では水によって引き起こされる自然の大災害を指す
「大洪水・氾濫」を意味するラテン語cataclysmusギリシャ語の κατακλυσμός (kataklysmos) に由来
kata- (下へ、対して、の上に) + klusmos (濡らす、浸すという行為)
κατά- (kata-: 下へ、対して、の上に) + κλύζειν (klyzein: 洗う) + -ισμος (-ismos: 行動、体系、主義)
アリストテレスの時代にはすでに使用されており、洪水を意味していた(CATACLISMO)

「天変地異」というと驚異的な自然災害一般を指すと思いますが、cataclismo は語源的見地からすると厳密には水を伴う災害、つまり洪水や氾濫ということなんですね。
ただ、ネイティヴに聞いてみると、この言葉は水害だけじゃなくて地震や火山の噴火なども当てはまるとのこと。なので、まさしく日本語の「天変地異」に相当すると言えますね。


次は hecatombe
類義語を調べていて、今回初めて見た単語です。
意味は「大災害、大惨事、大勢の死者」。なんとも物騒な意味を持つ単語ですが、その語源を見てみると、

「雄牛100頭を神への生贄として殺すこと」を意味するギリシャ語の εκατομβη (hekatombe) に由来
εκατομ (hekatom: 100) + βη (be: 雄牛(buey)の語根)(HECATOMBE)

全くもって想像しえなかった語源です。
heca + tombe かと思ったら、まさかの hecatom + be!!
前後半の割合が悪い!元阪神源五郎丸洋の名前見たい(笑)


最後に、「災害、災難、不幸、不運」という意味を持つ calamidad

「災難、衝撃、被害」を意味するラテン語calamitas, calamitatis に由来
incólume(無傷の、損傷のない)という単語と同様に、インド・ヨーロッパ語族系の接頭辞 kel- (cortar, batir) を語根に持つ(CALAMIDAD)

calamidad、incólume ともに、下線部にあるように k+l というインド・ヨーロッパ語族系の接頭辞 kel- の音をもらっていますね。
二つの西日辞典でこの単語を引いてみると、片方は上の他の単語と異なり「大」が付いてない「災害・災難」とあり、もう一方では括弧付きで「(大)災害」と記載されていました。
どうでしょうか?こう聞くと語源も他と比べて少し弱い気がしてきます。。。


さて、ここまでは apocalipsis という単語の類義語の語源を見てきましたが、どれも似通った意味なのでその使い分けがビミョーな感じになりそう。。。
なので、一般的にはどういった風に解釈されて使用されているのかという、辞書だけでは100%はわからない部分を今回はネイティヴの友だちに聞いてみました。もちろん、あくまで「個人的な意見でいいから」という前提のもとで答えてもらったので、一ネイティヴ(メキシコ人)の一意見として捉えてください。

それぞれの単語のニュアンスを便宜上線引きするためにぼくが思い付いたのは、この世界に終末をもたらしうる出来事(災害や災難)の「原因」を区別すること。

一口に「大惨事・大災害」といってもその原因は様々ですよね。
前回、前々回で勉強した自然災害によるものもあれば、戦争やチェルノブイリ原発事故のように人為災害から起こるものもあります。さらには、ぼくが観た robocalipsis のドキュメンタリーにも通ずる映画「ターミネーター」のような人類が生み出したロボット・AIによって引き起こされた「人類の終焉」や、映画「バイオハザード」のようなゾンビによるものも思い付きます。なので、以下のように区別してみることにします。

①自然災害(地震、洪水、etc.)
②人間が引き起こす惨事(戦争、原発事故、etc.)
③フィクション的人類の終焉(ゾンビ、AI、宇宙人、etc.)

さて、それぞれの持つニュアンスを聞いてみると、、、

apocalipsis
聖書から来る単語のため「神性 (divinidad)」を孕んでおり、「人類の終焉」を意味するため、使用される際は災害等による被害を相当強調していることになるそうです。毎回甚大な被害を出すハリケーン(①)や日本の津波による原発事故(②)などもかなり強く聞こえるものの apocalipsis となりうると。あと、apocalipsis zombie, apocalipsis alienígena / extraterrestre などのゾンビや宇宙人襲来で人類が滅亡の危機に瀕する地獄のような世界になる映画(③)などでも使われるそうです。ニュアンスとしては「この世の終わり(をもたらしうる大災害)

catástrofe
コメントをそのまま書くと、"Puede ser un gran problema natural y también artificial"。①、②に問題なく当てはまり、他にも例えば世界的な金融危機も catástrofe financiera のように言うと。また③に関してもロボットの反乱による人類の危機などにも当てはまるとのこと。ニュアンスとしては「人類に災難・危機をもたらす出来事(一般)

cataclismo
すでに上で述べましたが、自然災害一般を(①)を表し、地震、洪水、火山の噴火、津波などが当てはまると。なので、②の人間による災難は少し違うそうですが、③の中でもゾンビ系は生物、または感染症と捉えると cataclismo もアリかもね、といった感じでした。ということで、「自然・生物災害」としておきます。

calamidad
catástrofe と似たニュアンスを持つが、もう少し tragedia の要素を持つかなぁ、とのこと。①、②、③すべてに使用しても問題ないそうです。catástrofe ニュートラルな意味で災害・災難を表す一方で、calamidad は「(人類の主観をより反映した)悲劇的な災害・災難」だとぼくは考えます。

hecatombe
この単語も上のものたちと同様に「大災害、大惨事」を意味しますが、ニュアンスとしては「大多数の死者を伴う災害・災難」。なので、多くの人が亡くなる自然災害や戦争、また終末ものの映画など①、②、③すべてに条件付きで当てはまるようです。語源が大いに反映されているニュアンスですね。

 

【まとめ】

  スペイン語          ニュアンス
 apocalipsis  この世の終わり(をもたらしうる大災害)
 catástrofe  人類に災難・危機をもたらす出来事(一般)
 cataclismo  自然・生物災害
 calamidad (人類の主観をより反映した)悲劇的な災害・災難 
 hecatombe   大多数の死者を伴う災害・災難



バンドの SEKAI NO OWARI は海外では End of the World という名義で活動しているらしいんですが、もし仮にぼくがスペイン語圏で彼らをプロデュースするとしたら「世界の終わり」という名をそのまま表現するためにも APOCALIPSIS とします!