イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

lejosísimo

今回のタイトルを見て違和感を覚えた人はスペイン語センス「アリよりのアリ」ではないでしょうか。

 

【きっかけ】

今回はぼくが間違えたミスをそのままタイトルにしました。

「めっっっっちゃ遠い」と言いたかったときに、ここは muy よりも少しスペイン語玄人感を醸し出すために最上級 (superlativo) を使ってやろうと lejos に -ísimo を付けて "lejosísimo" と言い放ちました。

が、結果は玉砕。。。

話していたスペイン人の友だちが優しく訂正してくれました。勉強している身からするとそういう存在は非常にありがたいです。
ただ、そのときは正しい形を教えてもらっただけだったので、今回は文法的に見ていこうと思います。

 

【考察】

まずは、Diccionario panhispánico de dudas から。

最上級は基本的に lejísimos だが、ラテンアメリカのいくつかの地域では lejísimo という形で用いられる。口語において 増大辞の -ote を用いる場合 lojotes という形になる(ラテンアメリカのいくつかの国では lejote)(lejos. 4)

"lejos + -ísimo" はぼくがあの時間違えた lejosísimo ではなく、lejísimos が正解なんですね。(最上級を習ったときにこんな例外あるなんて言ってたかなぁ...)

ところで、これは文法的にはどうなっているんでしょうか?lejísimos ということは、lej - ísimo - s という分け方になるんでしょうか?
その場合、-ísimo はいつもの接尾辞ではなく「接中辞」として機能していますよね?

ここで Nueva gramática を覗いてみると、

縮小辞の中の -it- を接中辞と見なすのと同様に、-ísim- を接中辞として分類する文法学者もいる
-ísimo/-ísima は単語の語尾の母音を尊重して残したり (cerca - cerquísima; deprisa - deprisísima)、単語の語尾の子音を維持する (lejos - lej-ísim-os) ことがある
しかし、中米・カリブ・ラプラタ川地域では lejísimos とともに lejísimo という形も用いられている(§7.4d)

やはり "lejos + -ísimo" の正しい形 lejísimos では -ísim- は「接中辞」として組み込まれていたんですね。
また、組み込まれる単語の語尾の音を変えないようにそのまま残したりもするようです。確かに、接尾辞だったら語尾の母音や子音を奪ってしまいよね。そのため、語尾の音を守るためにも例外的に「接中辞」として組み込まれるんですね。
また、lejos の対義語 cerca の場合も同様で、語尾の a の音を残すために通常の接尾辞 -ísimo ではなく、接中辞として -ísim- が組み込まれて cerquísima となるとのこと。
知りませんでした!ていうか、副詞も絶対最上級にできるんですね。それも知りませんでした。


この「接中辞」についてですが、実はスペインの大学で受けた言語学の授業で、スペイン語にも接中辞があることを学びました。
実は当時から独学していたアラビア語を通して「接中辞」という新たな文法的概念の存在をすでに認知はしていましたが、スペイン語にもあったということはその授業で学びました。
ただ、スペイン語の接中辞には厳密には infijointerfijo の二種類あるとかないとか。。。2年以上前なのでその違いは。。。というか、そもそもちゃんと理解できなかっ。。。
なので、今回気合を入れて改めて勉強します!


まずは、ネットで見つけた La guía de Lengua という Arte, Biología, Química など色んな学問について扱っているサイトから。Lengua 分野の Gramática 内の "infijo" についての記事を参考にします。

infijo とは接頭辞や接尾辞と同じ接辞の一種「接中辞」のことで、スペイン語ではあまり見られるものではなく、世界的に見ても接中辞が存在する言語は非常に少ないです。
みなさんはこの接中辞を持つ言語に触れたことありますか?

上で述べた通り、アラビア語には接中辞があるんですが、学び始めた頃は(今もですが)なんでこんなややこしいものがあるのかと思ってました。
単語の核の部分は変わらずに、頭やおしりに接辞をつけて別の意味になるのは英語やスペイン語を通して慣れましたが、(ej. im-pens-able, en-amor-ar)
聞き慣れた単語であっても、接中辞として単語の核に母音がひとつ入っただけで一気に語感が変わって全く関連のない別の単語に見えてくるのです。(これはもうアラビア語を学んでみたら痛いほど共感してもらえると思います)

なので、個人的にはこの複雑怪奇な接辞に対してはあまり良い印象はなく。。。
「言語というのは、時を経て簡素化していくもの」だといつか言語学の授業で言ってたのに。。。
まあ、でも簡単すぎたら退屈ですしね。「強い敵ほど燃える」的なアレですね(笑)


本題に戻って。
文法的見地から「接中辞」に初めて注目した Yákov Malkiel は interfijo という言葉を用い、後に元々あった infijo という言葉と取って代わるようになったそうです。
彼によると、interfijo は『文法的意味を持たない接辞であり、音韻論的に(その単語を)拡張するためにはめ込まれるものに過ぎない』と定義しています。

また、Manuel Alvar という人物も自著の La formación de palabras en español の中で『文法的にも意味的にも機能を持たない』と結論付けています。
これだけ聞くと、なんのために存在しているのか疑問に思ってしまいますが、唯一の役割は『その単語の核と接尾辞を結ぶことである』としています。

Mmm... なんだかパッとしませんでした。


もう一つ別のサイトも参考にしてみようと思います。

UNPROFESOR というサイトで、こちらのサイトもまたスペイン語学だけではなく、数学から音楽まで様々な学問を取り扱っているようです。
このサイトに "Diferencia entre infijos e interfijos" というテーマの記事がありました。(主に動画で説明してくれています。)
ここでは、Manuel Alvar によると infijo の用途は hiatos, cacofonías, homonimias を避けるために存在していると述べています。

hiatos とは día, púa, de este, a África のように一単語内または連続する二単語で起こる母音の連続衝突のことです。

cacofonías とは l, s などの連続(例えば Dales las lilas a las niñas)によって起こる不調和音・不快音調のことで、動画内の先生はもっとシンプルに「発音の困難さ」と表していました。
昔スペイン人の先生に "a África" のように同じ音が重なるときの発音について、しっかり分けて発音した方が良いのか、それとも一つの /a/ になるのか、どのように発音するのが自然なのかを尋ねたことがあります。その際に先生はこういうのは "Suena cacofónico." と言っていたのを覚えています。なので、ぼくはこの cacofonías の中に hiatos という現象が含まれていると考えます。

動画内の例では、"mama + -ita" で ai の母音の連続を避けるために mamacita という形があり、mama-c-itac が接中辞に当たると。(実際のところ mamaíta という言い方は存在しますが。)
さらには、tetera という単語も、本来は "te + -era" ですが e の連続を避けるために te-t-era となり、この t が接中辞として機能しているとのことです。

そして、最後の homonimias は知っての通り、同音同綴異義ですね。
例としては、接尾辞 -ero は salero のように「容器」を表す場合と cocinero のように「職業」を表す場合がありますが、接尾辞 -ero と「パン」という単語の組み合わせだと「パンかご」と「パン屋さん」が同じ panero という形となってしまって同音異義語となってしまいますよね。
なので、前者は pan-ero となる一方で、後者は pan-ad-ero という風に ad という接中辞的機能を持つ要素が加えられています。

またこの記事によると、『その単語の核と接尾辞を結ぶ』役割を持つ interfijo とは Yákov Malkiel が考案した概念だそうで、『意味も文法的機能も持たない』けれども、それなしではその単語は存在しえないそうです。
どういうことかというと、humareda(もくもくと上がる煙)や polvareda(砂ぼこり)という単語はそれぞれ "hum+ar+eda"、"polv+ar+eda" という風に分解され、「単語の核」+「接中辞 (interfijo) -ar-」+「接尾辞 -eda(…の集まった場所)」となっていますが、これらの単語から interfijo を取り除くと *humeda、*polveda という存在しない形となるため、この場合の -ar- は interfijo と見なされます。

一方で、infijo は取り除いても問題ない(=元の形に戻るだけ)もので、azúcar という単語に縮小辞を付けると azuquítar という形になるそうですが、"azuqu+it+ar" から接中辞に相当する -it- を取ると元の azúcar という形に戻るため、この場合は infijo と判断される、ということらしいです。

ただ、infijo の用途として hiatos, cacofonías, homonimias を避けるためのものと説明されてますが、「取り除いて問題あるかないか」という分け方では少なくとも tetera の場合で矛盾が起きてしまいますよね?
tetera の二つ目の -t- は cacofonías(もしくは hiatos)を避けるために埋め込まれたわけだから infijo のはず。でも、その -t- を取り除くと *teera という存在しない単語になるため、「取り除くと問題ある」interfijo に分類されるのではないでしょうか。。。?

Mmm... ムズイ。。。こんがらがってきました。。。
そもそも Yákov Malkiel はなんで新しく interfijo なんてものを考案して、複雑にしやがったんデショウ?(文法における区別をより正確に、より厳密にするのが言語学者の仕事なのでグッジョブなんですが。。。)


ここまでやってきましたが、最後の最後に Nueva gramática でトンデモナイ記述を見つけました。衝撃的すぎるので、スペイン語原文ママでどうぞ ↓

Los contenidos que recubren (INFIJO e INTERFIJO) son diferentes en función de escuelas o teorías gramaticales(§1.5p)


。。。


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infijointerfijo が表す内容は学校(もしくは学派)または学説によって異なる」だと。。。?

そして、同項の最後は

Nueva Gramática 内での記述を単純化するために、同書では interfijo という語のみを使用していく(§1.5p)

という堂々宣言で締めています。
これはつまり、RAE も infijointerfijo は同じものと見なしてもいいと認めているということじゃないですか?


ハイ、やめやめ。試合終了ー。

 

【今回の結論】

● 本来、最上級の -ísimo は接尾辞だが、lejos の場合は語尾の s の音を残すために接中辞(interfijo) として組み込まれ、lejísimos という形になる。

● 接中辞 (infijointerfijo) の区別はどっちゃでもええ。(ただ、infijo という大きい括りの中に interfijo が位置するという感じだと思います。「infijo > interfijo」 )


アラビア語でまず「接中辞」という文法概念を知り、その後スペイン語にも一応存在しており、その中でも厳密には infijointerfijo という二つに分類されるということを学んだものの、ほとんど理解できていなかったのでちゃんと理解するためにも、実は大学の卒論テーマの候補のひとつとして考えてました。
が、扱わなくて正解でした(笑)

ただ今回、表面的でありますが「スペイン語の接中辞」について調べて勉強するきっかけになりました。ただ、相当細かい文法的分析でない限り、infijo と interfijo を区別する必要はなく、どちらかで括ってしまっても問題ないと考えます。
この「接中辞」というテーマは非常に複雑で、また学者によって解釈が異なるため、これ以上深堀りする気力はないですが、とりあえず、卒論で扱わず心残りであったもののひとつが『どっちゃでもええ。』という結論になってしまいましたが、それはそれでぼくの中の結論ということで昇華されたので個人的には満足です :)


今回はぼくが2年前の留学中に「自信満々で間違えた」ミスを題材にしました。
現在毎日スペイン語を使っている環境にいますが、ぼくが間違った言い方をしたら周りの人が教えてくれるので本当に勉強になっています。

"Los errores son para aprender, no para repetir" ですね :)

今後は「遠い」ということをスペイン語で言うときには "está lejísimos" で文法的知見を披露しつつも、"está en el quinto pino" や "está a tomar por saco" などスペインで得た語彙力もメキシコでひけらかしていこうと思います!;)
(メキシコではどちらも理解されないですが。)