イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

¡Malo será!

ぼくのお気に入りのスペイン語の表現の一つを紹介します。

今回の表題、耳にしたことありますか?おそらく聞いたことある人の方が少ないんではないでしょうか。
どういう意味だと想像しますか?訳してみると、、、「悪くなるだろう」でしょうか?

 

【きっかけ】

ガリシア出身の友だちとの会話にて。
授業がとんでもなく難解だった言語学の期末テストの前日。

yoMañana tengo un examen de Lingüística. Seguro que va a ser muy chungo...
él¡Malo será, Keisuke!

と言われました。
え?ええっ!?えええっ!?!?

- 明日、言語学のテストあるけど、絶対にめっちゃムズイわ... 幸運を祈っててよ (笑)
- 悪くなるんじゃない

ええっ!?何が?何が悪くなるの??成績ぃ???

ああっ、イイヨッタデこいつ!!

なにそれ?スペインジョーク?いや、ガリシアジョーク??
昂る感情を抑えつつ、まだ知らぬ表現への好奇心から、その意味を尋ねました。

 

【意味】

聞くとこの表現は gallego、つまりガリシア地方発の表現だそうです。
訳してみると、どう解釈してもネガティヴな意味にしか捉えられない気がしますが、その意味するところは "No te preocupes, no tendrás ningún problema." とのこと。
何かを心配・懸念してビビッている相手に対して「大丈夫だって!」と応援する、むしろポジティヴな表現だそうです。

この表現を聞くと、なんだか日本語の「非凡」という言葉を思い出します。というのも、小学生の頃、ぼくはこの言葉はネガティヴな意味を持つ言葉だと勘違いしていました。
「平ず」ということで、普通より優れていることを表すこの言葉ですが、ぼくは「マイナス × マイナス = プラス」ではなく、「マイナス + マイナス = もっとマイナス」という間違った方程式によって、この「非凡」という言葉はすごく悪い意味なのかなと感じていました。。。

しかし、"Malo será" にはマイナス要素がひとつだけ。これがどうやってネガティヴをひっくり返してポジティヴに着地するのか?考察していこうと思います。

 

【考察】

一見、悪い意味に思える "Malo será" がどうして「大丈夫だって!」というポジティヴで楽観的な意味になるんでしょうか。
まずは、malo という単語に未知の意味が隠されていないかを RAEDiccionario de la lengua española を確認してみます。
"Malo será" を「大丈夫だって!」という真逆の意味にまで落とし込むポジティヴな意味があれば万事解決なんですが。。。

1. adj. De valor negativo, falto de las cualidades que cabe atribuirle por su naturaleza, función o destino.
2. adj. Nocivo para la salud.
3. adj. Que se opone a la lógica o a la moral.
4. adj. De mala vida y comportamiento. U. t. c. s.
5. adj. enfermo (‖ que padece enfermedad).
6. adj. Que ofrece dificultad o resistencia para la acción significada por el infinitivo que sigue. Juan es malo DE contentar. Este argumento es malo DE entender.
7. adj. Desagradable, doloroso. ¡Qué malos vecinos! ¡Qué rato tan malo!
8. adj. Dicho de una cosa: Deteriorada o estropeada. El pescado está malo.
9. adj. Inhábil, torpe, especialmente en su profesión. Un dentista, un futbolista malo.
10. adj. desfavorable. Malos tiempos para la lírica.
11. adj. coloq. malvado.
12. adj. coloq. Dicho comúnmente de un muchacho: Travieso, inquieto, enredador.
13. m. diablo (‖ príncipe de los ángeles rebelados). EL malo.
14. f. Malilla de los juegos de naipes.(malo, la)

多いなぁ。。。
でも、見たところやっぱりポジティヴな意味は持ってないようです。そりゃそうですよね、もしそうなら天地がひっくり返ります。

と言いながら、辞書を下にスクロールしていたら、、、

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ありました!感動したのでスクショです(笑)

"Malo será" が DRAE に載ってました!!
定義としては「望ましくないことが起こる可能性がかなり低いことを表す」。
そして、例文も訳してみると、

Malo será que no lleguemos a un acuerdo.
「私たちが合意に達しない、ということはないだろう」

Malo sería que Pedro cambiara de opinión.
「ペドロが意見を変える、ということは起きないだろう」

なるほど、何となく真相が見えてきました!
そして、さっき見た DRAE の項目の6.を改めて見てみると、、、

6. adj. Que ofrece dificultad o resistencia para la acción significada por el infinitivo que sigue. Juan es malo DE contentar. Este argumento es malo DE entender.(malo, la)

「後続する不定詞が意味する行為の困難さ (dificultad) もしくは抵抗 (resistencia) を示す」
つまるところ、malo は difícil と置き換えることができるということです ↓

Juan es malo DE contentar.
  =Juan es difícil DE contentar.

Este argumento es malo DE entender.
  =Este argumento es difícil DE entender.

この方程式が成り立つということは、"¡Malo será!" の malodifícil と交換可能であると。つまり、前出の例文に当てはめてみると、

Será difícil que no lleguemos a un acuerdo.
「私たちが合意に達しない、ということはありそうもない」

Sería difícil que Pedro cambiara de opinión.
「ペドロが意見を変える、ということはありそうもない」

つまり、"¡Malo será!" で使われている malo はここでは「何かが起こりにくい、起こる可能性が低い」という意味の difícil と同じで、que 以下には望ましくないことが言い表されてそれを否定する、すなわち、「誰かにとって好ましくない事象は起こらないですよ」という意味を表しているということですね。

 

【まとめ】

● "Malo será" の malo は「何かが起こる可能性が低い」という意味の difícil と同義であり、その後に "... que no..." が続き、「(ネガティヴなことが)起きる可能性は限りなく低い・起こらない」ということを言い表す。


一見ネガティヴに思える "Malo será" という表現は心配や不安を抱える人に対して、「その心配は杞憂に終わるよ」「大丈夫だって!」といったむしろ非常に positivaoptimista な表現でした!

ちなみに、最初に書いたガリシアの友だちとの会話ですが、続いてこう言ってました。

- Malo será, Keisuke. Malo será que no apruebes.

"Malo será" は que 以下が略されていた、そして省略されても使われる表現です。これはつまり「非凡」と同じで、"Malo será que no..." も「マイナス(悪いことが)× マイナス(起こることはない)= プラス」という方程式だったんですね。
"Malo será" だけ言われたんじゃ、こっちも誤解しますよ(汗)


最後にメキシコ人の友だちにこの表現について聞いてみると、「初めて聞いたし、意味を想像することもできない。悪い意味?」って言ってました。やはり、ネイティヴでも知らなかったらネガティヴに聞こえるようです。

あと、「その文脈だったら、私は "¡Dios no quiera!" っていうかな」と新たな表現を教えてもらいました。
相手の言った心配事を lo で表して "¡Dios no lo quiera!" とも言うそうですが、興味深いのは、"¡Malo será!" と同じで "¡Dios no quiera!" も que 以下が省略されて使われることがある、という点です!!

つまり、上の会話文でいうと

"Dios no quiera (que no apruebes)." ということですね。

大変勉強になりました :)