イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

"Sueco,a" は ¿スイス? ¿スウェーデン?

Japón(ハポン)、اليابان(アルヤーバーン)、Japão(ジャパォン)、Япония(ヤポニア)、Giappone(ジャポネ)、일본(イルボン)、Japon(ジャポン)、日本(リーベン)、Japan(ヤーパン)、、、

マルコ・ポーロの「東方見聞録」によって初めて日本が「ジパング」の名でヨーロッパに伝えられたと歴史の授業で習いましたが、このジパングという名の由来は当時の中国語での「日本国」の発音がマルコにとってそう聞こえたから。それだけだそうです。
700年以上経った現在、言語は変われど、その「ジパング」に端を発して一国の名が呼ばれるようになったわけですが、マルコは自分が後世で「日出ずる国」の名付け親になるという責任はまさか感じていなかったでしょう。
実はマルコは日本に足を踏み入れたことがないそうです。行ったこともない国に愛着などあるはずもなく、知らない言語で何となくそう聞こえたから「ジパングでええや」となった、わけではないことを切に願います(笑)

 

【きっかけ】

外国語を話す上で文法や発音などいろいろと難しいことはありますが、それぞれの言語によって言い方や発音が異なる「固有名詞」もその一つではないでしょうか?
その中でも国名に関しては、その国を表す形容詞 gentilicio が国名と乖離しすぎて想像つかないこともたまにあります。例えば、Dinamarcaデンマーク)に対する danés,a とか。

また、ヤヤコシイものもあって。先日、メキシコ人の友人と話している時に、

"¿Sueco es de Suiza o Suecia?"

と聞かれました。「sueco はスイス人?スウェーデン人?」という質問ですが、ネイティブでもこんがらがることがあるんだなと改めて感じました。Japón - japonés,aMéxico - mexicano,a みたいに全部分かりやすかったらいいんですが。
実際僕自身、初めて Suecia という国名を聞いたときにスイスとスウェーデンのどちらだろうと迷ったのを覚えてます。

 

【考察】

ネイティブさえも惑わすこの件。スペイン語正書法 (ortografía) と発音が混乱を招く要素ではないかと考えます。
昔、まさに ortografía y pronunciación del español というテーマの授業で cacique という一単語にそのテーマが詰まっていると先生が言ってました。

   ca ci que /ka'θi.ke/
    ①      ②       ③

というのも、①ca と ②ci はどちらも c の文字で書かれるけれど発音は /ka/ と /θi/、
ca と ③queは異なる文字で書かれるけれど発音は同じ /k/。
この単語にはスペイン語における c の文字の発音 ( /k/ または /θ/ ) と、/k/ を表す文字 (c または q) の関係性が示されているということでした。

スイスとスウェーデンの件に当てはめると、今度はスペイン語における /θ/ を表す文字 (c または z) が絡んできます。
ともに第一音節の子音は /s/、第二音節の子音は /θ/ ということで発音上の類似が見られます。

 Suiza /suiθa/

 Suecia/sueθia/

suizo,a
と聞くとやはり女性形がそのまま国名の Suiza と同じ形なので想像に難くないですよね。しかし、例えば Costa Rica - costarricense の場合に見られるように、国名中の Rica の c は /k/ の音ですが、形容詞になると costarricense と /θ/ の音になります。
ですので、形容詞 sueco,a から国名を考える場合に、c の部分が国名に戻ったときに /k/ の音のままでいくのか、もしくは /θ/ の音になるのか、という二つのパターンの可能性が考えられることになります。
そして後者であった場合、c の部分に当たる第二音節が /θ/ となり、Suiza /suiθa/ と Suecia /sueθia/ がともに可能性がある選択肢として残ってしまいます。これが混乱を引き起こす因子となっているのではないでしょうか?
、、、考えすぎですかね。

しかし、聞いてみると、実際スペイン語ネイティヴの人たちにとってもややこしいそうで、一瞬立ち止まって考えることがあるそうです。

また、このスイスとスウェーデンの国名の類似性に起因する混乱はスペイン語だけでなく英語でも起こるみたいで、LA VANGUARDIAで "El ridículo de Wall Street: recibe a la sueca Spotify con una bandera... de Suiza" (2018/04/04付) という記事を見つけました。

日本でも数年前からサービスを開始したSpotifyですが、記事によるとスウェーデン発の企業であるSpotifyニューヨーク証券取引所に上場した際、取引所がこともあろうか誤ってスイスの国旗を掲揚してしまったとか(笑)

ニューヨーク証券取引所

"todos disfrutamos de nuestra oda momentánea a nuestro papel neutral en el proceso de descubrimiento de precios esta mañana"

ツイッターbroma neoyorquina をつぶやくと、

在ニューヨークのスイス領事館は

La Bolsa de Nueva York intentó darle un homenaje pero izó nuestra bandera. Sólo tomó 15 minutos para arreglar el error, pero no hay que preocuparse porque nuestros amigos nórdicos son humildes y nosotros neutrales, así que no habrá discusiones

とこちらは broma suiza をツイート。
これが粋でいなせなNYCのやり方なんでしょうか?

 

【今回の結論】

●   sueco,a → Sueciaスウェーデン
 suizo,a → Suiza(スイス)


今回は「正書法と発音の観点から二つの形容詞の類似性を考さっ...」なんて難しいものではなく、つまるところ「似てるから迷うよね」ということを頑張って小難しく述べてみただけです。今回改めて思ったのは、国名とその形容詞は覚えるしか道はなし!;)

最後に、国名とその形容詞の乖離が激しいものを集めてみましたので参考まで。

[国名から形容詞の想像が難しいもの]

    国名    形容詞        注釈
 Costa Rica

 costarricense
 costarriqueño,a 

 二つの言い方があります。
 Costa de Marfil   marfileño,a

 直訳だと「象牙の海岸」。
 "Costa" がなくなります。

 Etiopía  etíope  アクセントの位置の変更も厄介。
 Burkina Faso  burkinés,a  "Faso" は何処へ。。。
 Croacia  croata  男女ともに同形。
 Dominica  dominiqués, a  República Dominicana
 dominicano,a


[形容詞から国名の想像が難しいもの]

   形容詞     国名        注釈
 danés,a  Dinamarca 初見では想像できないです。
 húngaro,a  Hungría Hung"a"ría としないように注意です。
 congoleño,a  Congo leño,a とは何ぞや?
 belga  Bélgica 国名の方が形容詞っぽい。
 monegasco,a  Mónaco 「モネガスコ」強そうな響き。
 malgache  Madagascar 誰がそう呼び始めたんでしょうか?



今回は gentilicio(国名の形容詞)をテーマとしました。
関連として次回は topónoimo(地名(学))を主題として、「オランダ」という国のスペイン語での名称について調べてみようと思います。