イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

¿Cómo te llamabas?

今回のタイトル、直訳したら「君は何て名前だったの?」とかでしょうか?
どういう状況で言うと思いますか?改名した人に対して?前世の名前について??

 

【きっかけ】 

スペイン留学中、ネイティヴの友だちと話しているうちにふと気付きました。

 「線過去は過去だけでなく他の時制にも言及できる」

あまり親しみのない国の人の名前って一度聞いただけじゃなかなか覚えられないし、そもそも聞き取れないことも多々。。。
Keisuke というぼくの名前はスペイン語圏の方々にとっても"難解な"名前らしく、留学中に何千回も聞かれたのが今回の表題。

 "¿Cómo te llamabas?"  -「なんて名前だったっけ?」

考えてみたら日本語も同じですよね。
別に昔と今で名前が変わったわけではなく、一回尋ねたけど「なんだったっけ?」の「ったっけ?」の部分を過去形を用いて表す。
このことに気付いたとき、「日本語と同じ考え方なんだな」と驚いたのと同時に、「自分は今までこんなこと(この用法に)気付かなかったのか。。。」と落胆したのを覚えています。

自分の力で驚天動地の大発見(ぼくの中ではですが。)をした自分を誇らしく思いながらも、常にスペイン語に対してアンテナを張っている、と思っていた自分が日本語と同じ用法(=過去形だけど現在のことに言及している)に気付くのにスペイン語を学び始めてから2年半かかったことがショックでした。。。(笑)

 

【考察】

RAENueva gramática から、いきなり今回のテーマの核心を突く記述を引用します ↓

imperfecto CITATIVO o DE CITA と呼ばれる線過去の用法がある
"¿Tú jugabas al fútbol, no es cierto?" という線過去が用いられたこの質問は、相手が過去にサッカーを趣味としていたかどうかを知るための質問と解釈することも可能だが、それと同時に、その相手の現在の特定の情報を確認する質問にもなりうる
後者の解釈の場合、上記の質問文はおおよそ "¿Es cierta la información (conocida) según la cual tú jugabas al fútbol?" という意味となり、conocida の代わりに、第三者によってその情報が発せられたという事実を言い換えることが可能な oída, leída, recibida のような他の分詞でも代替可能である(§23.11h)

線過去 (pretérito imperfecto) は「過去」を表す時制の一つですよね。しかし、imperfecto CITATIVO と呼ばれる用法では、既知情報の「現在の」状態を言及もしくは確認するために用いることができる、とあります。
つまり、引用内の "¿Tú jugabas al fútbol, no es cierto?" という質問文は

「君は(昔)サッカーをしていたんだよね?」でもあり、
「君は(今も)サッカーをしているんだったよね?」でもあると。

一つ目は線過去用法の王道である「過去の習慣」を表している一方で、二つ目の解釈では「サッカーをしている」という話を以前に聞いていたものの、そのことについての記憶が曖昧となり、再び言及または確認するに至ったという状況で発せられたものです。その場合は「君は(今も)サッカーをしているんだったよね?」のように過去形を用い、それがスペイン語では「線過去」が用いられる。それがこの imperfecto CITATIVO という用法です。

過去に言及した内容について「現在の発話時に」再び言及するという状況下で用いられる用法ということで、敢えて日本語にするならば「再言及の線過去」とかはどうでしょうか?


さて、ではこの「再言及の線過去」が生み出す効果は何なのでしょうか?

"¿Cómo se llamaba tu amigo?" という質問は必ずしも発話者の友人の名前が変わったということを示唆しているのではない
現在形 llama の使用も可能だが、ここで線過去を選択することによって、ある過去の瞬間の物事の状態を特定するだけでなく、言及されたその情報が発信された際の過去の状況を想起させることも可能にする(§23.11i)

ある過去の瞬間の物事の状態を特定するだけでなく、言及されたその情報が発信された際の過去の状況を想起させる」という部分が難解ですね。。。

おそらく、前半部分の「ある過去の瞬間の物事の状態を特定する」というのは線過去の「過去の習慣」のことで、上で見た "¿Tú jugabas al fútbol?" という質問することによって「過去に習慣的にサッカーをしていましたよね?」という過去の状態を知ることができる、ということだと思います。

そして、後半の「言及されたその情報が発信された際の過去の状況を想起させる」という部分が「再言及の線過去」のことであり、発話者がその用法を用いて "¿Cómo se llamaba tu amigo?" と質問することによって、この発話者がすでに同じ質問をしたことがあり、さらにその答えを聞いたことがあるという過去の事実を暗に示すということだと考えます。(もちろん、初めてこの質問をした際は "¿Cómo se llama tu amigo?" のように現在形を用いて質問したはずですが。)


実は前項(§23.11h)の最後に、次のように書いてありました ↓

imperfecto CITATIVO を用いることによって、話者は自らの発話内容の直接的な責任や、"¿Tú juegas al fútbol, no es cierto?" のように現在形を用いての質問によるぶしつけさを避けることができる(§23.11h) 

要するに「再言及の線過去」を用いることで、前に一回尋ねたことあるけどそれは分かってますよと、それは分かってますけど改めて聞きますね、というニュアンスになるということです。
前に質問したことがある内容を現在形を使って質問すると、「再言及」のニュアンスがなく、「なんだお前聞いてなかったのか」という有らぬ誤解を生みかねないので、発話者が過去に尋ねたことがあってもう一回尋ねるのであれば現在形を使うよりも「再言及の線過去 (imperfecto CITATIVO)」を使った方が適切ですよ、ということですね。

ここまで長々と述べてきましたが、日本語でも同じ現象が起きますよね。
過去形なのに現在を表すというこの用法は、人間の言語に普遍的なものなんでしょうかね?気になります。

最後に次の内容を引用します。

CITATIVO の用法は pretérito PROSPECTIVO(未来を表す過去時制)と密接に関係しており、予告・計画・予想された出来事を表す
"En principio, mi avión salía mañana a las 23.50" という文や "¿A qué hora empezaba la película de esta noche?" といった質問は、疑いの余地なく未来の事柄について言及しているが、予告もしくは予想される出来事についても言及しうる
この特徴的な解釈は上記の例のように predicados télicos(限界的事象を表す述部)の中で見られるが、'estaba previsto que hablara' という意味で "Esta tarde hablaba el Presidente por la televisión" の文のように predicados atélicos(非限界的事象を表す述部)の中でも見られる(§23.11j)

télico, atélicos という言葉が DRAE にすら載っていない"圧倒的言語学用語っっ‼"過ぎてめまいが。。。卒論を書いていたときに目にした気が。
卒倒する前に言っておくと、要するに時制は過去形なのに現在または未来の事柄について言及することがあるということですね。上で見てきた内容と同じです。


さてさて。
最後に気合を入れて書いておくと、、、

スペイン語の動詞には

 1. actividades(動作)
 2. realizaciones o efectuaciones(達成)
 3. consecuciones o logros(到達)
 4. estados(状態)

という4つの相(アスペクト)が存在していて、さらにそこから duración(継続性)、delimitación有界性=限界性)、dinamismo(動態性)の有無によって分類されて、、、とかなんとか。
頭爆発しそうになりながら、卒論のテーマに関係があったから勉強したなぁ。

とりあえず端的に言えば、"comer una manzana" のように具体的なものを「食べる」と言う場合は、リンゴを食べ始めてから「食べ終わる」という行為の終わり(=限界)があるということで télico有界)。
一方、目的語なしの comer という動作は漠然と抽象的に「食べる」という行為を表すだけであり、始まりもなければ終わりもない(=限界がない)ということで atélico(無界) に分類される、、、みたいな感じだったような。

この理解で正しければ、引用内で「predicados télicos(限界的事象を表す述部)」と述べられている動詞 salirempezar は「(飛行機が)出発する」「(映画が)始まる」のように、その行為が行われる=その行為の終了、つまり行為の限界がある有界的動詞 (verbos télicos) であると。
そして、「predicados atélicos(非限界的事象を表す述部)」であると述べられている "Esta tarde hablaba el Presidente por la televisión" という文内の hablar は上で出した例の目的語のない comer と同様に無界的動詞 (verbos atélicos) という解釈でよろしいと思います。

詳しくは Nueva gramática の §23.3 El aspecto léxico o modo de acción (I). Clases de situaciones y de propiedades に記載されていますので、気になる方はそちらへ。(ちなみに、ぼくは卒論で引用させて頂きました。)
これはもはやスペイン語じゃなくて一般言語学の話に入ってくるので、もう言及はしません ;)

 

【今回の結論】

● 「なんて名前だったっけ?」を意味する "¿Cómo te llamabas?" の線過去の用法は imperfecto CITATIVO o DE CITA と呼ばれ、線過去という本来過去の出来事について言及する時制であるにもかかわらず、現在もしくは未来の事象について言及することが可能である。


先週、翌日に営業を控えた前日にメキシコ人の同僚に "¿A qué hora ibas a salir el día de mañana?" と聞かれました。よく考えると「明日」は未来だけど「線過去」は過去。。。なんて思わないですよね(笑)
シンプルに「明日何時にオフィス出るんだったっけ?」ですね。


今回のテーマは「線過去」の用法ということで、Nueva gramática 内の線過去に関する記述を読み漁りました。
が、なんせ今回のテーマであった imperfecto CITATIVO o DE CITA という用法名なんてもちろん知る由もないので、線過去時制についての途方もない文量を一つずつ読むしか今回のテーマの答えに辿り着く方法はなく、徐々に気が滅入っていき、、、

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RAEのバカ!もう知らない!

と何度思ったことか。でも、その度にと自分を鼓舞し、初心を思い出しながら

¡Ah! ¡¡La nueva gramática era la Biblia para mí!!

「ああ!Nueva gramática はおれにとってバイブルだった!!」

線過去を用いましたが、もちろん過去の話ではなく、現在進行形の話です!これからもお世話になります ;)