明日やろうはバカヤロー
メキシコに来て約半年。ついに食中毒 (intoxicación alimentaria) に見舞われました。
大好きな Coctel de Camarón があったのですが、お値段据え置きで他の marisco も加えて「Coctel de Marisco にできるよ」という店員さんの言葉に甘えたが最後。おそらく牡蠣に大当たり。。。
お医者さんに症状の出る24時間前に何食べたか聞かれて Coctel に入ってたものを羅列していくと、笑いながら "¡Ostión!" って言ってました。
抗生物質の他に二つの薬を処方してもらい何とか。。。こんなに苦しいのかと。。。
しんどすぎて「四日に一記事」という自分の中の目標でありルールを無視し、「明日書こう」「明日書こう」の繰り返しで結局今日に。
「明日やろうはバカヤロー」
でも食中毒ですからね。ちゃんと苦しみましたから。
【きっかけ】
回復してオフィスに行くと procrastinar という単語を耳にしました。
英語との falso amigo でなければ「先延ばしにする・後回しにする」っていう意味だったっけと思いながら電子辞書を引くと、、、
あれっ、小学館西和中辞典[第2版]にも白水社現代スペイン語辞典改訂版にも載ってない!!
一応メキシコ人同僚に聞いてみると、aplazar, posponer, diferir とかと同じだよ、とのこと。
なんで辞書に載っていないのか不思議に思い調べてみました。
【考察】
さすがは RAE の Diccionario de la lengua española です。きちんと載っていました。
tr. Diferir, aplazar.(procrastinar)
やっぱり、英語と同じで「延期する」という意味でした。
De Chile.net の DEEL で語源を調べてみると、
「何かをすることを明日までやめる」という意味のラテン語の動詞 procrastinare に由来
この単語は、接頭辞 pro- (adelante) + cras (mañana) + 関係を示す接尾辞 -titus + 動詞接尾辞 -ar から成る(PROCRASTINAR)
語源的には「『明日』に先延ばしにする」なんですね。
「今日できることを明日に延ばすな」というフレーズは日本でも聞きますが、スペイン語でも "No dejes para mañana lo que puedas hacer hoy" と言っているのをよく耳にします。
しかし、もし "No procrastines para mañana lo que puedas hacer hoy" と言うと「明日」が重複になるのかなと思ったり :)
まあ、あくまで語源的にはラテン語で「明日」を意味する cras が含まれていますが、現代スペイン語での動詞 procrastinar はその意味はほとんど失っているでしょう。
さて、この procrastinar という単語ですが、調べていくと2018年 Fundéu の Palabra del año の最終12候補に選ばれていました!なんと偶然!!
ぼくはスペイン留学中にこの存在を知ったのですが、この Fundéu の Palabra del año とは日本の新語・流行語大賞のようなものです。しかし、そこまで俗っぽいものではなく、HPには次のように書いています。
La ganadora, que no tiene que ser necesariamente una voz nueva, ha de suscitar interés lingüístico por su origen, formación o uso y haber tenido un papel protagonista en el año de su elección.
新語である必要はなく、あくまでも Fundéu は RAE 関連の組織ということで「言語学的見地」に立って、その年に目立った単語を選出しているようです。
そして、その2018年の最終12候補に残った単語についての記事がこちら ↓
""Micromachismo", "procrastinar", "VAR" y "dataísmo", entre las candidatas a palabra del año 2018"
この記事内で procrastinar についてこうありました。
多くの人がこの単語を新語であると思っているが実際はスペイン語に取り入れられてから数世紀経過している
また、その発音上の特殊さから発音を間違えやすく、発音のしにくい単語となっている
これらについて Fundéu の "procrastinar, no procastinar" という記事内でも言及されていました。
procrastinar であり、procastinar でも procastrinar でもない
メディアでも «Procastinar está permitido en tiempos de coronavirus» や «Se dice que en estos momentos procastrinar no es una cuestión de holgazanería, sino de gestión y regulación de las emociones» のように間違った形で使用されることが頻繁にある
procrastinar という単語は18世紀のスペイン語の辞書にはすでに記載されていた
まず、この2018年に取り上げられた動詞は18世紀にはすでに辞書に記載されていたようです。辞書に載るということは、巷である程度認知されて使用されるようになってから記載されるものだと思うので、少なくとも300年ほどはスペイン語としての歴史があるはずですね。
そして、発音間違いに関してですが、一つ目の記事では「その発音上の特殊さ (sus peculiaridades fonéticas)」から、二つ目の記事では「La complejidad fonética(発音上の複雑さ)」から、この動詞は間違えて発音されていることが多々あるんだとか。
まあ、procrastinar がスペイン語としての歴史はある程度あれど、市民権を得たのが近年であることからまだ使われ慣れておらず、procastinar という風に r を抜かしてしまったり、procastrinar のように別の場所に入れて発音してしまう人が多いんだと思います。
でも、語源を知っていれば "cras = mañana" ということで間違えることもないですね。
【まとめ】
● 「明日 (cras: mañana) に先延ばし (pro-: adelante) にする」というラテン語の動詞 procrastinare に由来。
● procrastinar という単語自体は最近新しく生まれた言葉ではなく、すでに数世紀(少なくとも3世紀)の歴史は持っているが、"las 12 candidatas a palabra del año 2018 de la Fundéu" に選出されていることからも、その使用が近年増加しており、最近市民権を得た言葉であると考えられる。
西和辞書にこの動詞の記載がないと書きましたが、それはやはり近年になってようやく頻繁に使われるようになった単語だからかなと推測します。(DRAE には載っていますが。)繰り返しますが、以前から認知された言葉ではあったと思いますが、あくまで"より"親しみのある単語になったのだと思います。
そういう意味では、西和辞典に記載されるのも近いかもしれませんね。
そういえば昔、複合語に関する授業で cantamañanas というおもしろい単語を学びました。
中世、何かを人に頼まれたときに無責任でいい加減なやつは "¡Mañana!"「明日(するよ)!」と言っていたそうで、「あいつまたああ言ってるよ」という意味合いで "Ya cantó mañana." と周りの人が言っていたことから、先延ばしにするだらしない人のことを cantamañanas と言うようになったとか。
なんでも後回しにして "¡Cantamañanas!" って言われないように生きましょう。
ちなみに、いつものように記事の内容をメキシコ人の友だちに話してみると、
"Deja para mañana lo que puedas hacer hoy. Así es México. jajaja"
という金言を頂戴しました。やっぱり愛おしい国ですね(笑)
【追記 2019/05/19】
この記事を書いた翌週、仕事の関係で大学にセミナーのプレゼンターの一人として訪問したんですが、同僚のメキシコ人が「タイムマネジメント」について話している時になんと、、、
"procastinar" って言ってました!!
「おいっ!間違ってっぞ!R!アール!!」
プレゼン中だったので心の中で叫んでおきました ;)