イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

Hoy tenemos 0 grado.

日本語を話す我々にとって、ものの単数・複数ってあまり気にしませんよね?それ故、スペイン語とか外国語を話すときにいちいち気にしないといけないのが煩わしいし、この場合は単数かな?それとも複数かな?って迷うこともしばしば。。。

例えば、"La gente critica esta película" と "La gente critican esta película"。

主語の la gente は文法的には単数扱い、でも意味的には複数。だから、二つ目の例文みたいに critican っていうネイティヴも多数。。。なんやねんって感じです。。。
まあ、厳格すぎるよりかは許容範囲が広いほうがこちらとしてもありがたいですが。

でも、日本語にも不思議な現象はありますね。例えば「友だち」とか。よくよく考えたらこの形は複数形ですよね。それでも、一人だとしても「友だち」。

「子どもたち」なんて、「子」+「ども(複数)」+「たち(複数)」だから、日本語を勉強してる外国の人には、めっちゃ「子」がいるみたいに感じるんでしょうか??

日本語は日本語で難しいですね :)

 

【きっかけ】

今回のタイトルは "Hoy tenemos 0 grado."
「今日の気温は0度です」という文ですが、このスペイン語を見て違和感を覚えますか?

今回のテーマはスペイン語における数字の「0」です。
実は数字の「0」を名詞につける際、後続する名詞は単数形ではなく、複数形にならないといけないのです。つまり、表題は "Hoy tenemos 0 grados" とならないとダメなのです。

。。。

ナンデ?って思いませんか?
だって「0」はものが存在しないことを表すものなのに、複数形はおかしいだろ!って思いませんか?何もないってことだから単数形もよくよく考えればおかしいけど、複数形はもっとおかしいだろ!!って思いませんか??
今回はこの不可思議なルールについて探っていきます。

 

【考察】

今回は我らが RAE より Diccionario panhispánicas de dudas が初登場。
cardinales(基数詞)の項目の5.にこのように書かれていました ↓

基数詞が形容詞として用いられる場合、uno のみが単数名詞を表し、それ以外の数字は 「1」 より上の数量を表すので複数名詞を表す(cardinales. 5.)

言わずもがなです。「複数」は広辞苑にも「二つ以上の数」とあり、

   1=単数
   2以上=複数

というのは一般常識ですね。

しかし、言語変われば常識も変わるとでも言いましょうか。
ここからは完全な余談となりますが、アラビア語には「双数」という概念が存在します。これは「1」のみを表す単数形と同様に「2」のみを表す双数形という形であり、名詞、形容詞、果ては動詞までも双数形に活用されるのです。そして、複数形は「3以上」を表す際に用いられます。つまり、アラビア語では

   1=単数
   2=双数
   3以上=複数

という分け方になるのです。
世界にはいろんな言語学上の概念がありますね。ご参考まで ;)


さてさて、問題の「0」の扱いについてですが、続きにはこうあります。

cero は特例であり、ものが存在しないことを表すが、形容詞としては常に複数形に先行する
«De regreso a París, me encontré con [...] cero pesos en la cuenta bancaria» (Jodorowsky Danza [Chile 2001])(CARDINALES. 5.) 

我らが RAE も「0」については "un caso especial" ということにしていて、お手上げ感が否めません。
が、もはやこういう類のものに疑問を持っても "En español se dice así jaja" という魔法の言葉で片付けられる解決するということは既知の事実です。しかし、そういったニッチな文法の疑問に立ち向かうのがこのブログの意義なので、ここで引き下がるわけにはいきません。
ですので、こういう場合は「単数・複数」という区切りに関して逆転の発想をしてみたらどうでしょうか?

つまり、こういうことです。
単数形に -s を付けることで複数形になりますよね。この単数形というのは辞書に載っている形でもあるため、我々は勝手に単語の基本形が単数の形であると思い込んでいるだけかもしれません。
そもそもは、複数形が通常運行であり、「1」という数字だけが特例で単数形になる、という風に考えてみます。

すなわち、「複数形にするために単数形に -s を付ける」のではなく、「単数形にするために複数形から -s を取り除く」という順番である考えることで、複数形こそがノーマルな形であり、「1」にしか使われない単数形が特別な形であると捉えることも可能ではないでしょうか?
だって、無限に存在する数字の中で唯一「1」だけにしか使用されない単数形の方がよくよく考えてみたら特殊じゃないですか?

ちなみに、再びアラビア語の話になりますが、アラビア語の動詞には「不定詞」という形は存在しません。そこでアラビア語の辞書には動詞の「直説法・過去・三人称男性」で活用された形が見出し語として記載されているのです。
スペイン語でいうと、動詞 cantar という不定詞の形がなく、辞書に (él) cantó という形で載っているということです。
この理由は、不定詞というニュートラルな形が存在しないアラビア語の動詞の活用の中で「直説法・過去・三人称男性」の活用形が最もシンプルな形であるからなのです。

アラビア語の例を半ば無理やり出してまでここで言いたいことは、上で述べた通り、スペイン語において本来の単語の基本形というのは -s の付いた複数形であるものの、-s の付いた複数形よりも形がシンプルな単数形が辞書に載っているだけであり、そこから我々は単数形を基本に考えてしまっているが故に、「0」に複数形が続くことに違和感を覚えてしまうのかもしれない、というコペルニクス発想の転換です(笑)

要するに、「0」に複数形が後続する理由なんてものはなく、逆に「1」だけに特例として単数形が続くから「1以外の数字」である「0」には複数形が続く。

どうでしょう、納得できますか?¿論破 o 邪論?
正直、うーん。。。ですかね(笑)


いずれにせよ、数字「0」には複数形が続くというのがルールです。
なので、例えば「0歳の赤ちゃん用のおもちゃ」はスペイン語で "Juguetes para bebés de 0 años" ということになります。
ちなみに、años 0 となると「西暦1〜9」または1900~1909や2000~2009などのいわゆる「ゼロ年代」という意味になります。

また、「0 + 複数形」の実例を過去に読んだニュース記事の中で見つけていたので共有します。
2月頭のNFLの優勝決定戦スーパーボウルのニュースで "Brady, con "cero" posibilidades de retiro tras el Super Bowl LIII" というタイトルの中に使われています。
これはペイトリオッツクォーターバックのトム・ブレイディについての記事で、年齢的にもうムリだと散々言われていたブレイディですが、スーパーボウルを直前にしてまだまだ引退はしないという宣言をした記事です。結局、六度目の優勝リングを手に入れて「NFLの生ける伝説」として君臨し続けています。

「(引退の)可能性はゼロ」というのを cero posibilidades と複数形がきちんと用いられてますね。


最後に、cero の使用法について Nueva gramática に下のような記述がありました。

数量を表す cero の用法はあまりフォーマルではない(§21.1i)

確かに、名詞に「0」を付けて存在しないことを表すよりも、no を使って存在を否定する方が自然ですよね。
スペイン語一年目のとき、スペイン語は英語と違って "No tengo nada" という風に否定辞を二回使っても「二重否定(=肯定)」とはならない、というのが不思議でした。
しかし、cero の場合は否定辞 no とは使ません。

つまり、

 "Tengo cero euros" = "No tengo ni un euro"

という風になります。
また、cero に続く名詞が不可算名詞ならもちろん単数形のままとなります。

 "Tengo cero interés" = "No tengo ningún interés"

 

【今回の結論】

● 基数詞「0」はものが存在しないことを表すが、単数形は「1」にしか後続しないため、「0」には例外的に複数名詞が後続する。そのため、今回のタイトルは "Hoy tenemos 0 grados" とするのが正しい。


昔、スペイン人の友だちに今回のテーマの話をしたら、「確かに!今まで気づかなかった!改めて考えるとおかしいよね(笑)」って笑ってました(笑)
あと、その友だちは大学生だったんですが "Cero ganas de estudiar! jaja" って言ってました。

いや、勉強せえよ ( ˙-˙ )