イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

patético

首相在任中は原発推進派だった小泉純一郎元首相は退任後、反原発派として原発の撤廃を目指しているんだそう。なんでも、フィンランドオンカロという場所を視察したことが「脱原発」という真逆の考えへ舵を切るきっかけになったんだとか。

このオンカロとは地下400メートルに建設中の、人類史上初めてとなる核廃棄物の最終処理場のこと。今現在、原発から出た核のゴミを「仮置き場」に放りっぱなしにしている日本などの他国とは異なり、フィンランドでは長年議論がされてきて、国民の賛成を得た上で核のゴミ問題の解決策を現在実行に移しているんだそう。
核のゴミにはものすごい強さの放射能が付いているため、地上の人間にその影響が出ない地下深くに永久的に埋めて、人類に害を及ぼさない放射能レベルにまで弱まるのを待つというやり方だそうですが、それに要する時間はなんと10万年。

この向こう10万年という悠久の時間がもたらす問題はいくつかあり、まずこのオンカロをそんな長期間維持することが可能なのかという問題があります。現在、人類史上最古の建造物とされているトルコのギョペクリテペ遺跡でさえ1万数千年の歴史しかなく、これはつまり人類はまだ10万年もの間建造物を維持したことがないということ。技術が発展した現代とはいえ、人体に害を与える核廃棄物を封じ込めた巨大シェルターを10万年間も確実に管理できるかは誰にも分からないというのです。

さらに、小泉さんがインタビューで興味深いことを述べていました。
向こう10万年間、このオンカロが掘り起こされないように危険物が埋まってるということを警告しなければいけないのですが、果たして10万年後の人類に対してどの言語で警告文を書けばよいのかという議論もあるんだそう。我々はたかだか数千年前のピラミッドの文字でさえ完全に読めないのに、今の言葉が10万年後の人たちに読める保証はどこにもない、というのです。
それは確かにおっしゃる通りかなと。これに関して小泉さんは日本語を例に挙げていました。

10万年後の文字といったらね、われわれ今400~500年前の文字だって読めないですね。古文…。10万年後に「ここに近づいちゃいけない」「掘り出しちゃいけない」という文字をね、何語にしようかと考えている。日本語だって最近、私たちがついていけない若者たちの言葉がありますよ。われわれの若い頃は「あの人、切れるな」と言うと、頭良かった(という意味)。今そう言うと、ちょっとおかしい(の意味)なんだ。最近、また驚いたことあったなあ。この前、数人で食事していたらね、「やっばい」と言うんですよ。「何だ? 何か悪いもの入っていたのか」と…。「やばいほどうまい」と言うんですよ。われわれの世代から見るとね、「やばい」と言うと「まずいぞ、危ないぞ、なんか変なもの入っている」と思いますよ。「うまい」という表現が「やばい」になっちゃった。ほんとにやばい時代だなあ、と思いましたね。10万年後にも分かる言葉を考えていく。それが本当にできるのか。
(引用元 : 原発「即ゼロ」を 小泉純一郎元首相

たったの数十年で単語の使われ方が変化するし、数世紀経てば文法だって変化しますよね。となると、やっぱり10万年後の人類が話す言語なんて想像もできません。まさに「言語は生もの」ですね。

 

【きっかけ】

まだ留学前、映画やアニメをスペイン語で見ていると、相手を蔑むような場面で patético という単語がよく使われていることに気付きました。どういう意味なんだろうと思って西和辞典を引いてみると、そこに答えはありませんでした。。。
例えば、小学館の西和中辞典には次のように載っています ↓

(形)1 悲壮[哀れ, 悲痛]な. una escena patética 痛ましい光景. patética mirada 悲痛なまなざし. La Patética, la sexta sinfonía de Tchaikovski チャイコフスキー交響曲第六番『悲愴』(小学館西和中辞典[第2版])

特に軽蔑的な意味では載っていません。

おそらく、ぼくがこの単語を始めて聞いたのはスペイン語一年生か二年生の時にスペイン語吹替で観たアニメ「デスノート」の"よう"です。というのも、携帯のメモに「デスノート第2話 patético」とのみ記されていたからです。もう少しヒント残しとけよと過去の自分に思いながら、今回ネットフリックスで見返してみると、月がLに対して言った

間抜けすぎるぜ、L。もう少し賢ければ面白くなったかもしれないのに。

というセリフ。これがスペインのスペイン語吹替では

Eres tan patético, L y pensar lo emocionante que hubiera sido si fueras un poco más inteligente.

となっており、「間抜け」という日本語が patético と訳されているのです。おそらく当時のぼくは初めて聞いたこの形容詞の意味を調べようと西和辞典を引いたものの、辞書に載っている意味とここで使われている意味がかけ離れていたことに疑問を抱いて未来の自分に解決を託したのです。
ちなみに、ラテンアメリカスペイン語吹替は

Creo que eres muy torpe, L. ¡Qué pena! Esto podría haber sido más interesante si hubieras sido más inteligente.

となっており、こちらは調べるまでもないですよね。

あくまで一例に過ぎませんが、実際のところ、後にスペインで周りのスペイン人の友だちがよく冗談半分で似たようなニュアンスで "¡Qué patético!" と言っているのを聞きましたし、同様にメキシコでも西和中辞典には載っていない侮蔑的な意味で使用されているのを耳にします。
調べてみると興味深い歴史があったので、今回はこの"辞書に載っていない意味"で使用されている単語について迫っていきます。

 

【意味】

まずは定石通り、DRAE での定義を見てみましょう。

1. adj. Que conmueve profundamente o causa un gran dolor o tristeza.
2. adj. Penoso, lamentable o ridículo.(patético, ca)
訳)1. 形容詞. 心を深く動かす、または大きな痛みや悲しみを引き起こす.
2. 形容詞. 痛ましい、哀れな、情けない、愚かな.

西和中辞典に記載されていた意味は DRAE の1.の定義ですね。そして、2.の定義は西和中辞典には載っていないものの、ネイティヴたちが「軽蔑的」な意味で使っている意味であると捉えられます。この単語の意味に疑問を抱いた頃はまだ西西辞典の DRAE を使っておらず、西和辞典しか使っていなかったのでこの二つ目の意味に辿り着きませんでした。

一つ目の「悲しみを引き起こす」という意味から「情けなさを感じさせられるくらい愚かな」という意味へ発展したのでしょうか?もう少しこの形容詞が表す意味の核心を探るためにスペイン人の友だちに例文をちょうだいと頼むと次の二文をくれました ↓

Me parece patético que el rey de España esté implicado en casos de corrupción.

Yoshiro Mori hizo unas declaraciones patéticas sobre las mujeres.

自国のスペイン国王の汚職事件と、さらにスペインでも大きく報道されたらしい森元総理の女性蔑視発言というタイムリーな例文を二つ用意してくれました。そして、彼が言うにはこの patético とは「悲しさ、恥ずかしさ、怒りが混ざった感情」であると。確かにどちらのニュースもこの三つの感情が湧いてくるような話ですよね。

また、別のネイティヴの友だちにもどんな人が patético か聞いてみると「自分の評価を上げるために他人を悪く言ってその人の評判を落とそうとする人」。ずいぶんピンポイントな例だなと思ってると、実際こんな輩が同じ会社にいたらしく、周りから "Es un hombre patético" と言われてたそうな。

どの使い方も「情けない」という日本語でカバーできそうですが、そこにはこっちが恥ずかしくなるような行為から腹立たしさを感じた結果「情けない」という感情に達するという背景が隠れており、単なる「情けない」よりも軽蔑的なニュアンスが含まれているように思います。
実際、上の二人に patético を別の語で言い換えるなら?と聞くと despreciable「軽蔑に値する」という語を出していたので、やはりこの patético は軽蔑の意味で使用されているようです。

 

【歴史】

この形容詞について調べていると、どうやら軽蔑的な意味は比較的新しいようで、Fundéu に "patético (significado) (14/05/2015付)" というこの単語の意味について質問とその回答がありました ↓

(質問)
RAE によると、patético という語の定義は「特に痛み、悲しみ、憂鬱などの情緒を激しく抱かせながら気持ちを動かすことができるモノ・ヒト」となっています。«situación patética»や«alguien patético»などのように言いますが、私の理解では、この定義だと desagradable「不快な」やdespreciable「卑劣な」といった単語とは結び付かないと思います。

(回答)
DRAE の第23版にてこの patético という語の定義が修正されています。一つ目の定義はスペイン語におけるこの単語の伝統的な意味「大きく心を動かす、または大きな痛みや悲しみを引き起こす」です。二つ目の定義は英語の pathetic という語から意味を拝借された「痛ましい、哀れな、情けない、愚かな」で、この意味はスペイン語で定着しつつあり、元の意味と取り替えられつつあります。

実際、2007年に出版された小学館西和中辞典[第2版]には上で見た通り、軽蔑的な意味の方は記載されていません。しかし、現在の DRAE にはその意味も載っているということは、この軽蔑的な意味での使用が増えてきて辞書に登録されたと考えられます。

2021年4月現在の DRAE はバージョン23.4。第23版で定義が修正されたということなので一つ前の第22版での定義を確認してみたいところ。調べてみるとバージョン22 を発見しました!早速検索してみると、、、

1. adj. Que es capaz de mover y agitar el ánimo infundiéndole afectos vehementes, y con particularidad dolor, tristeza o melancolía.(patético, ca.)

上の Fundéu の記事引用ではぼくが日本語に訳しましたが、質問者が DRAE から引用した定義はまさにこの第22版でのものだったようです。そして調べてみると、第22版は2001年、第23版は2014年にそれぞれ出版されています。各版はそれぞれ数年に一度アップデートされているのですが、今現在オンラインで利用可能なのはバージョン22.0、つまり2001年に出版されたものであることから、軽蔑の意味は少なくとも2001年時点ではまだ記載されておらず、2014年時点ではすでに追加されていたということは明確になりました。

余談ですが、今回 DRAE のバージョンやアップデートについて調べる中で一つ衝撃的な事実を知りました。
ぼくは RAE の西西辞典を Diccionario de la Real Academia Española ということで今までずっと DRAE と呼んできました。しかし、どうやらその名称は第22版までのようで、2014年に出版された第23版からは正式名称は DLE (Diccionario de la Lengua Española) なんだそうです。
ぼくは学校やスペインでこの DRAE という名前を聞いてきたのでこのように呼んできましたが、なんとそれは過去の名称となっていた模様。正直なところ、RAE 関連について調べたり、ホームページを見たりする中で DRAE よりも DLE という呼び方の方がよく見るなと感じており薄々は気付いていましたが、二つの呼び方があるんだろうなと勝手に思っていました。しかし今回、事実として現在の第23版の正式名称は DLE ということが発覚しましたので、今後はこのブログでも DRAE ではなく、DLE で統一します。

 サヨナラ DRAE :'(
 ヨロシク DLE ;)


さて、本筋に戻って。
RAE は2014年に改定した DLE から patético に軽蔑的な意味を追加したわけですが、辞書に定義が載るということは、すでにその少し前からその意味での使用が広がっており、ある程度の市民権を得ていたはず。ところが、スペイン人とメキシコ人のネイティヴ複数に実際のところはどうかを聞いてみると、別に新しい意味というわけではなく、昔からこの強い軽蔑の意味でも使われていたんだとか。このうちの一人(メキシコ人・28歳・女性)からは「少なくとも私が物心ついた頃には一般的にその意味でも使われてた」という具体的な証言ももらいました。

さらに調査をしていると、EL PAÍS から非常に興味深い記事を見つけました ↓
"Las consultas al adjetivo patético se multiplican por 40 tras el debate (2015/02/26付)"
あることがきっかけでこの形容詞の検索数が急上昇したとのこと。早速、記事を見てみましょう。

ある形容詞が最新のスペイン国会討論会にて主役級の注目を受けた。火曜日、首相のマリアノ・ラホイがスペイン社会労働党の党首ペドロ・サンチェスに対して “No vuelva usted a aquí a hacer ni decir nada”「何かをしたり発言したりするためにあなたは二度とここに戻ってこないでください」と叱責した。この10単語を発した直後、首相はその反対政党の党首を次の3単語で形容した。“Ha sido patético”。それだけ。それで首相の発言は終了し、首相は書類をまとめて席へ戻った。そして、ペドロ・サンチェスの背中に向かってこの形容詞を言い放って彼の介入を終わらせた。この単語は聞き逃されることはなく、ネットユーザーたちはその意味を調べようと辞書に飛びついた。

このシーン、実はYouTubeに動画が載ってます(笑)
見るからにラホイは怒っており、ここでの patético は伝統的な「悲しみを誘う」という意味ではなく、明らかに軽蔑的な意味で使っていることが分かります。

RAE はこの日の午後に868件の patético という語の検索数を記録した。前週の火曜日の同じ時間帯と比べると約7倍多い数である。検索数は水曜日にはさらに増え、午前6時から午後7時の間で4430人もの人がこの単語を検索した。この数字は検索数が114人だった前週の水曜日よりも約40倍も多い。このデータを EL PAÍS に提供した RAE が説明するところでは、似たような現象が2014年の6月にも起きており、その時は国王フアン・カルロス1世の退位があり、abdicar という語が6月に最も検索された語になった。

スペイン首相の発言によってこの patético が一躍「時の単語」になったんですね。記事を読むと、ラホイが言い放った patético の使い方が正しいのかどうかが気になって多くの人が辞書で調べたというように理解できますが、加えておそらく国会という公式な場にあまりそぐわない単語が使われた点、または一国の首相が個人に対して攻撃的な単語を使った点なども国民の注目を引いたのかもしれませんね。

そして、前年の2014年の6月にも同様の現象が起きた模様。初めて見るこの abdicar という単語の意味を DLE で見てみると、(訳してます)

1. 他動詞:(君主が)自国の主権または王位を他者へ譲る、または辞する. Abdicó la corona. 自動詞としての方がより使用される. Abdicó EN su hijo.(abdicar)

色々と調べてみると、フアン・カルロス1世が「退位する」ニュースをきっかけに多くの人がこの動詞の意味や(特に前置詞の)使い方について調べたようで、どうやらあまり使われていない動詞だったことからみんな辞書で引いたようです。

ちなみに、2019年に日本で天皇・皇后両陛下が「生前退位」されましたが、これをスペイン語で何と言うか気になったので調べてみると、この abdicar (名詞は abdicación) だけで言い表せるようで、「生前」の部分はわざわざ訳出する必要なないようです。DLE の定義を見ただけでは気付きませんでしたが、「君主が譲る」とあるように、どうやらこの abdicar は基本的には君主が自分の意志で王位を退いてその位を後継者に譲るという意味のようです。つまり、今までの日本の天皇のように崩御されたら次の人が天皇になるといった場合は、自分の意志で皇位を退いているわけではないので abdicar には当たらないようです。

ところで、フアン・カルロス1世と言えば2007年のイベロアメリカ会議で、一方的な批判を繰り返して会議の進行を妨げていた当時のベネズエラ大統領ウゴ・チャベスに対して発した "¿Por qué no te callas?" というフレーズが有名ですよね。国王が怒りをあらわにしたことと、公式な場面で一国のトップに対して usted ではなく を用いて命令をしたことで騒がれたようですが、当時はこのフレーズが書かれたTシャツが飛ぶように売れるなど一種の社会現象になったんだとか。patético しかり、「政治」と「流行語」には切っても切れない関係が存在しているのかもしれませんね。

さて、この記事は次のような形で締められています ↓

しかし、2015年2月の話に戻って、果たして首相は patético という語を正しく使用したのだろうか?人々は疑問を解決したかった。なぜなら RAE はこの形容詞を「特に痛み、悲しみ、憂鬱などの情緒を激しく抱かせながら気持ちを動かすことができるモノ・ヒト」と定義しているからである。ラホイはそのような意味でこの単語を使ったわけではなかった。
首相は英国に屈した。Fundéu は「卑劣な、痛ましい、哀れなという意味での patético は英語的用法 (anglicismo) である。なぜなら英語の pathetic はそのような意味を持っているためである。」と説明しており、続けて「スペイン語の中で定着しつつある英語的用法であり、patético の伝統的な意味が押しのけられつつある」と述べている。

首相は英国に屈した。(原文: El presidente, realmente, cedió ante Inglaterra.)」は何とも厳しいですよね。そこまで言わんでも(笑)
しかし、アメリカと隣接するメキシコとは異なり、スペインは特に自分たちのスペイン語を英語や他の外国語に"犯されない"ようにする動きが強いのは事実です。実際、anglicismo をできるだけ避けようとする割合は他のスペイン語圏と比べてだいぶ高いんじゃないでしょうか?
この patético に関しても、スペイン語では軽蔑的な意味が元はなかったものの、英語の pathetic からの影響でその意味を表すようになったということはまさに anglicismo ですよね。元々は形は似てるけど意味は異なる falso amigo の関係だった二つの単語が時を経て "verdadero amigo" になったというわけですね :)


しかし、この Fundéu の見解に相対する意見を Vanguardia の記事 "La Vanguardia "Argumentos patéticos" (11/07/2017付)" の中に見つけました。

カタルーニャ語スペイン語の辞書には patético は感情を漏らす能力を有することとのみ記載されているが、一般的な用法ではこの patético という語は辞書にはまだ登録されていない、単純に軽蔑のみを示す意味を獲得している。現在 “argumento patético” と聞くと大抵「馬鹿げているため軽蔑に値する議論」という風に捉えられるものである。patético のこの意味はすでに以前から英語辞書には記載されており、いくつかの英語辞書ではその意味での使用に関する最古の根拠として、1937年に出版された Eric Partridge 編纂の Dictionary of Slang and Unconventional English を挙げている。これらの前例の存在が、この形容詞の単純な軽蔑的意味での使用が英語的用法であると断定するきっかけになっているのかもしれないが、おそらく辞書には登録されていないもののすでにこの使用法は存在していたはずである。

Fundéu の見解としては patético の軽蔑的使用は英語の pathetic からの影響であるとしていましたが、どうやら辞書に登録されていなかっただけでその意味での使用は以前から存在していたようです。これは上に書いた複数のネイティヴたちの「軽蔑的な意味は新しい意味だとは思わない」という内容に合致しますね。軽蔑的な意味は2001年出版の DRAE には記載されていなかったものの、2014年出版の DLE に新たに登録されたという事実からこの形容詞が近年獲得した新しい意味かと考えましたが、そういうわけではなかったようです。
もしかしたら、この軽蔑の意味での用法が辞書に掲載されていなかったのは(英語的用法として)新しく獲得された意味だからではなく、口語的度合いが高すぎたために記載が見送られていたのでしょうか?

最後に、現在のマドリードの若者が使うスラングを集めた Elena Cianca Aguilar, Emilio Gavilanes Franco 著の "Voces y expresiones del argot juvenil madrileño actual (2018/05/31承認)" というおもしろそうな単語帳を見つけました。ここには patético について以下のように説明されていました ↓

patético, patética. adj. Que se comporta de una manera ridícula o estúpida. La creación de este sentido es anterior a los jóvenes actuales, pero quizá sea con ellos cuando ha alcanzado su apogeo. Ha pasado ampliamente al habla general.
訳)形容詞. 愚かで嘲笑に値するように振る舞うこと・もの. この意味は現在(の若者)よりも前に誕生していたものの、おそらくこの意味での使用は現在の若者の間で頂点に達した. この意味は広く一般的な話しことばとなっている.

この内容から推測するに、一昔前に辞書に掲載されていなかったのは、単純にこの軽蔑的意味での使用の普及率がそこまで高くなかったからなのかもしれませんね。しかし、時が経つにつれて伝統的な意味を押しのけてしまうほどにこの軽蔑的な「情けない」という意味での使用が優勢になってきたことから2014年の DLE でついにその意味が掲載されたと考えられます。

 

【まとめ】

patético,a の本来の意味は「悲しみを引き起こす」であるが、「(悲しさ・恥ずかしさ・怒りなどから湧く)情けなさを引き起こす」という軽蔑的な意味でも使用されている。

● 軽蔑的な意味は英語の pathetic からの影響であるとする説もあるが、現在は DLE にもその定義が記載されており、正式なスペイン語として使用されている。


政治と流行語に関しては、日本でも2017年に新語・流行語大賞の一つに選ばれた「忖度」という言葉が流行りましたね。今では誰でも普通に使うような単語ですが、ぼくは「忖度」なんて言葉聞いたこともなければ、何て読むのかさえ知りませんでした。この騒動をきっかけにこの言葉を知った人も多いんじゃないでしょうか?上で見た abdicar のケースと似てますね。
このように、ちょっとしたきっかけで認知度を爆発的に上げる言葉もあるように、言語の栄枯盛衰はかなり激しいですね。オンカロでは10万年後の人類に対してどのように警告するのでしょうか?楽しみにしておきましょう ;)