イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

L M X J V S D

今回の表題、高IQ団体(という発音するだけで赤面必死な枕詞が付く)メンサの問題みたいですが(笑)
これは「一週間の曜日」です。

スペイン語一年目。
各曜日を略すとき、火曜 martes と水曜 miércoles がともに m から始まるため、区別するために水曜日が X で表されると学びました。その時になんで X なのかは歴史上の誰かが由来となっているみたいな話を聞いた気がしますが、どなただったかは記憶にございません。。。

今回のきっかけとなる出来事は、ひとつ前のテーマを調べている期間に起きたとてもタイムリーなものだったので「x 繋がり」ということで前回に続けて x という刺激的な文字の歴史に迫りたいと思います。

 

【きっかけ】

つい先日、オフィスで言われました。

"¿Por qué pusiste la x aquí?"

その週の予定をざっくり整理しようと月曜から金曜までを表題のように "L M X J V" と書いていたのですが、その X を見て言われました。

「え、、、?」

話を聞くと、文字の順番から水曜日というのは分かるけどなんで X を使うのか、とのこと。

「え、、、っ??」

水曜は X やろ?と言うと、初めて聞いたとのこと。

「えっ!!!、、、」

ぼくは "miércoles = X" という方程式を、ーその起源は知らないもののー 妄信していたため、まさに狐につままれた気分でした。
家に帰った時、そういえば!とふと思い出し、スペイン留学二日目に買った予定帳を開きました。
ぼくはそれを本来の用途ではなく、留学中毎日その日に知った単語や表現で1ページ埋めていきました。そして、みなさんと同じ三日坊主のぼくが「毎日欠かさずしよう!」と思ったものをおそらく初めて成し遂げた記念的メモ帳です。
ぼくにとって大切な一冊なのでメキシコにも持ってきて、たまに見返しては「あの頃大変だったなぁ」と郷愁に浸っているのですが(笑)

スペインで買ったその予定帳。そういえばと思い、よく見てみると、、、

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見えますかね。。。

水曜日はちゃんと X で表されています!!やはり、スペインでは使用されていましたね。
確認できてよかった!てか、自分は今まで間違って覚えてたのかと思ってビビってました(汗)

では、"miércoles = X" をスペインの予定帳で確認し、とりあえず一安心したところで起源を調べていきます。

 

【起源】

今回も例にもれず、RAE に依拠しようと思ったのですが、"miércoles" が如何にして X の文字で表されるようになったかについての記述はさすがに見つかりませんでした。
そりゃそうですよね、今回はもはや言語学ではないですもん。むしろ、慣習の由来ですかね。
なので、今回はネットからその起源と考えられている説を見ていこうと思います。

まずはこちらの記事から ↓
引用・参考 : "¿Por qué al miércoles se le abrevia con una X?"

スペイン語の)言語学正書法の規格化と、多数の省略形が用いられていた手稿の翻訳に多大な影響をもたらした el rey Alfonso X el Sabio に敬意を表して X をあてることを決めた。

どうやら、このアルフォンソ10世という王様はスペイン語学や正書法の体系化に貢献したようですね。また、「多数の省略形が用いられていた手稿」ってなんじゃそりゃ感がありますが、、、
スペイン語学への影響の大きさと「省略形」の件から、miércoles を Alfonso X の「10世」の部分である X を使おうとなった、ってことですかね。

それにしても、異名イカツくないですか? el Sabio ですよ。「賢者」?
ふと、自分の電子辞書で sabio を引いてみると、小学館西和中辞典[第2版]と白水社現代スペイン語辞典改訂版の両方になんと「賢王アルフォンソ10世」の文字が!
「賢王」!?やっぱイカツい。。。ごっつい賢者だったんですかね。。。


続いて、こちらの記事には3つの説が載ってました ↓
引用・参考 : "¿De dónde viene que abreviemos miércoles con una letra “X”?"

1) Alfonso X の影響
当時 RAE が存在していなかったため、誰かがなさなければならなったカスティーリャ語の洗浄・固定・興隆を推し進めた君主の熱意から、X を miércoles の代わりに使用するに至った。この王が「正書法の規格化」と「豊富な短縮形が用いられていた手稿の翻訳」に与えた影響からこの文字が使われるようになった。

2) ラテン語でのキリスト
中世の文書には翻訳者をかなりてこずらした省略形がかなり用いられていた。それらの文書では Cristo (Christi) はラテン語Xpi と略されていた。その x は「灰の水曜日」を表すのに使われ始め、そこからすべての水曜日に対して使われるようになった。

3) 曜日名の由来から
火曜日: 軍神 MARTEラテン語では Mars)に捧げられた曜日。Martis から Martes と名付けられた。
水曜日: 商売の神 MERCURIO に捧げられた曜日。Mercurius から Miércoles と名付けられた。Mercurius の名はラテン語mercancía という意味の MerX という単語に由来する。
MarsMarx をそれぞれ表す一文字を選ぶ際に、火曜日には M を、水曜日には X が割り当てられた。

1) Alfonso X の影響
また出てきました、この賢王。なるほど、やはりスペイン語という言語の基礎固めから発展までを推進したということで「賢王」なんですね。納得がいきますね。
そしてまた出てきました謎の「豊富な短縮形が用いられていた手稿」。これは一体どういう手稿なんでしょう?なんで短縮形が豊富に用いられてるんでしょうか?

2) ラテン語でのキリスト
キリストはラテン語Xpi と略されていたんですね。クリスマスの X'mas みたいですね。
ちなみに、「灰の水曜日」というものを調べたんですがなんかよくわかりませんでした。とりあえず、キリスト教内の一行事らしいです。キリスト教で大事(なんですかね?)な灰の水曜日を、ラテン語表記のキリストの X で表すようになったものが後に水曜日全般を示すようになった、という説です。

3) 曜日名の由来から
水曜日は MERCURIO に捧げられた曜日だそうです。「マーキュリー」って商売の神だったんですね。知りませんでした!
ラテン語では Mercurius と呼ぶそうで、商業に関する守護神なので mercancía にあたるラテン語 MerX から来たのではないかとする説です。

この3つ、なんだか全部そんな気がしますがいかがでしょうか?
むしろ、miércoles という単語の歴史の中から x という文字に関連する話を無理やり引き出してきたのかと思わされます。miércoles と x の間にこんなに結びつきがあるんですね。もうそれだけで、水曜日を X で表すのに事足りますと思い始めてます ;p


最後にこちらの記事 ↓
引用・参考 : "«x» la abreviatura de los miércoles"

その起源は Alfonso X の治世に由来する。その時期、後に王国の公用語となるカスティーリャ語の洗練 (pulimento)、固定・定着 (fijación)、規格化 (normalización) を目指した正書法改革を含む学芸の振興がなされた。翻訳者たちは省略形が必要以上に多用されていた手稿を丁寧に翻訳したが、二つの M による混同に頭を悩ませた。その際、彼らはその混同解決のために助言を求めに el rey Sabio のもとを訪れた。そして、学長 (=el rey Sabio) は即決で X の文字を水曜日の省略形とした。しかし、それは何故か?

1. 水曜日 (miércoles) は Mercurio(マーキュリー)の日であり、ラテン語では merx であったから。
2. el Miércoles de Ceniza のようなキリスト教関連の行事に言及するため。(ギリシャ語の "Χριστος")
3. マーキュリーの杖 (el caduceo de Mercurio) の二匹の対となっている蛇の図から。

いや、やから「省略形が必要以上に多用されていた手稿」ってなに!?

この記事によると、翻訳者たちが水曜日の省略形をどうするかを直接アルフォンソ10世のもとに相談に行ったんですね。相談を受けて、アルフォンソ10世は自分で「じゃあ、オレの10世の X にしよーぜ」って言ったんでしょうか?

こちらの記事でも「ラテン語merx」説と「灰の水曜日」説が載ってますね。
また三つ目の説の「マーキュリーの杖」というのがこちら ↓

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「眠っている人を目覚めさせ、目覚めている人を眠りに誘う」そうです

うーん、、、この説はないな(笑)

 

【Alfonso X el Sabio】

このアルフォンソ10世、現代のスペイン語にも通ずる多大な影響を与えた人物ということなので、スペイン語を学んでいる身として少し調べてみようと思います。

アルフォンソ10世 (1221-1284) はカスティーリャ王国の国王(在位: 1252-1284)でしたが、残念ながら政治的才覚は乏しかったらしいです。ただ、学問への関心が強く、文才には恵まれていたそうです。

彼の治世から200年ほど遡ったころ、レコンキスタ途上のカスティーリャ=レオン王国がトレドを奪還し、キリスト教を回復させた1085年に当時の王アルフォンソ6世はスペイン文化の中心地としてトレドに「トレド翻訳学派」を設立し、アラビア語文献のラテン語への翻訳が推進され、文明開化を促したそうです。

なるほど!上で散々出てきた「手稿の翻訳」ってこの人たちが行っていた翻訳のことだったんですか!?
もっと調べてみると、アラブ世界の文献だけでなく、(おそらくヨーロッパの)古典文献も当時のスペイン語への翻訳が行われていたとのこと。そして、その時代の文献には省略形が多く使われていたので、当時の翻訳者たちをてこずらすことも多々あったようです。

そして、アルフォンソ10世も同様に学者文人を指揮して法典、歴史書天文学書などの翻訳や執筆事業を促進しながら、13世紀当時のカスティーリャで支配的言語の地位にあったラテン語からの脱却を目指し、カスティーリャ語の使用を推進しました。この時代、ラテン語ギリシャ語からカスティーリャ語に語彙が輸入され、綴り字に原則が設けられ、その体系は不完全なものながら「アルフォンソ正書体」と総称され、後世のスペイン語正書法の基盤となったそうです。そのため、現在のスペイン語母語となったカスティーリャ語の確立者の一人と見なされて「カスティーリャ語散文の創始者」と呼ばれており、また学芸の振興に努めたため el Sabio(賢王)の別名を持つとのことです。
スペイン語への業績えげつない!そりゃ、「賢王」ってイカツい異名もらえますよね。

 

【まとめ】

● カスティーリャ語の洗浄・固定・興隆を目指して正書法の規格化を推し進め、短縮形が多用されていた手稿の翻訳にも携わっていた賢王アルフォンソ10世 (1221-1284) の Alfonso XX に由来する説。

● ラテン語でキリストを Xpi と省略されていたことからキリスト教行事の「灰の水曜日」が X で表すようになり、そこからすべての水曜日に対して使われるようになったという説。

● miércoles の由来である Mercurio(マーキュリー)がラテン語で merx であることに由来する説。


前回「未知数X」について書きましたが、そこで「アラビアで発達した数学などの学問書が11-12世紀に西洋に入り、翻訳され始めた」と知りましたが、もしかするとその翻訳作業というのはアルフォンソ10世も関わっていたのではないでしょうか?彼は13世紀の人物ではありますが、トレド翻訳学派は1085年(11世紀)に創設、つまり「未知数X」が生み出された時期と一致します!
すっごい偶然です!

前回 x という文字について書いたから、純粋に何となく続けて x に関する今回のテーマを選んで調べたら、まさかまさかの通ずる部分がありました!

まさに「邂逅」!こういうのをスペイン語では serendipia って言うんじゃないでしょうか!?
cf.

1. f. Hallazgo valioso que se produce de manera accidental o casual. El descubrimiento de la penicilina fue una serendipia.(serendipia)



最後に。
メキシコでメキシコの人と働いていると、大学でスペイン人の先生に習い、スペインで勉強した自分のスペイン語がこの国では通じない、もしくは伝わるけど使わないということに気付くことがよくあります。ちょうど昨日も majo,a がスペインでしか使われないということを知りました。

今回の「水曜日を X で表す」というのは、どうやらスペインのみの慣習っぽいです。
少なくともメキシコでは X で水曜日が省略されることはなく、メキシコ人の友人4人に聞きましたが全員「見たことも聞いたこともない」って言ってました!
同じスペイン語圏だけど、こんなに浸透してないのも不思議な気がしますが、、、

ちなみに、メキシコでは miércoles を X で省略しませんが、"no importa" という意味で equis と言います。X です!面白いですね。

今回のテーマの話を友だちにしたら、X を二つ並べて書いてこう言われました。
"XX¿Sabes qué significa esto? Es una (marca de) cerveza!! jaja"

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メキシコのビールです

ははっ。。。
これにて、前テーマからの謎多き文字 x についての流れはおしまいです。

 

【追記 2019/07/10】 

スタバで見つけて撮った写真です ↓

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D L M "M" J V S

メキシコですので「水曜日」がそのまま M で表されていました!
M が二つかぶっちゃってますが、ちっちゃいことは気にしないお国です :)