イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

"trabajar" は "拷問"??

毎日働いてるとたまにふと思います、「何のために働いてるんだろう」と。
生活のため?成長のため?

自分が選んだ道だから、、、かな?忘れかけた初心を思い出す良い機会です。

 

【きっかけ】

友人の多くがこの4月から新社会人として働き始めるということで、「働く」を意味する trabajar という言葉の語源に迫ろうと思います。
語源を知ることで、歴史を経る中でその単語に込められた本質が見えてくるのではないでしょうか?

 

【語源】

今回は RAE より Diccionario de la lengua española にお世話になります。
実はこの DRAE には単語の定義だけでなく、語源に関する記述も載せてくれてます。知っていましたか?

さて、早速 trabajar を引いてみると、、、

Del lat. vulg. *tripaliāre 'torturar', der. del lat. tardío tripalium 'instrumento de tortura compuesto de tres maderos'.(trabajar)

なになに、俗ラテン語の tripaliāre という単語から来ているようで、その意味は 'torturar' 。

、、、ん?「拷問」?

そして、その tripaliāre はどうやら tripalium という名前の「3本の木材からなる拷問道具」からの派生語とのこと。

、、、んん??「拷問道具」?


え、"はたらく"って"拷問"?


trabajar の語源が拷問道具の名前っ!?
いくら働くことが大変とはいえ、そこまでではないヨ。。。

ちなみに tripalium をGoogleで写真検索して出てきたのがこれ ↓

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tripalium

「3本の木材からなる拷問道具」って磔台ってことだったんですね。
一年前に買った「処刑の文化史」という本を思い出しました。ぜひご一読あれ。

処刑の文化史

処刑の文化史

 



さて、本題に戻って。
語源に関してもう少し詳細が欲しいところなので、De Chile.net というサイトの Diccionario Etimológico Español en Línea (DEEL) を活用してみます。

trabajarラテン語tripaliare に由来
tripaliare は、奴隷をはりつけて鞭で打つための3本 (tres > tri) の棒 (palos > palus) から成る台 tripalium から来ている
そのため、チリでは trabajo のことを pega と言う(TRABAJO)

なるほど、tripalium は tres palos ということだったんですね。そして、この道具は拷問もしくは処刑するために奴隷をはりつける (pegar) ためのものであったと。
その名残でしょうか?チリでは仕事のことを pega と言うそうです。
一応、DRAE で引いてみると載ってました ↓

10. f. Bol., Chile, Cuba y Ec. trabajo (‖ ocupación retribuida).(pega1)

ボリビアキューバエクアドルでも同じようですね。
残念ながら、ぼくはこれらの国の人に知り合いがいないので、実際どの程度仕事のことを pega と言っているか確認はできません。もし友人がいるよという人は、ぜひ聞いてみてください!

ところで、どのような経緯で「拷問」という意味から「働く」という意味になったのでしょうか?DEEL の続きにはこうありました ↓

実際のところ、trabajotripalium の関係は「はりつける (pegar)」ではなく「苦しむ (sufrir)」であり、身体に痛み生じさせるあらゆる活動を指していた
この trabajo という単語が生まれた時代、大多数の人は農作業などの肉体労働に従事しており、棒で殴られたかのような痛みを体中に感じていた
また、trabajo と痛みの関係はラテン語labor という単語にも反映されており、英語においては「働く」に加えて「陣痛」という意味を持つ(TRABAJO)

trabajo という単語は元は、その語源である「拷問(道具)」に近いニュアンスを維持しており、「苦しみや痛みを伴う行為」を表していたようです。そして、その当時の人々が従事していた「仕事」というのが身体的に辛く、痛みを伴うほどの重労働であったと。
ここでいつの時代を指しているのかは不明ですが、想像するに、当時の人々とは大地主から半ば奴隷のように労働を課せられ搾取されていた、いわゆる農奴と呼ばれるような人たちだったのではないかと思います。もしそうであれば、彼らにとって「働く」とは拷問に近いような「苦しみや痛みを伴う行為」だったのかもしれません。
このように考えると、拷問道具を意味する tripalium から trabajo という単語へのつながりも理解できるんじゃないでしょうか?


また、引用部最後の labor に関してですが、高校生の時に英語の labor に「陣痛」という意味もあるということを知った時、なんで一つの単語が全然違う二つの意味を持っているんだろうと不思議に思いました。その時のぼくは、子供を産むということが女性にとって大仕事であるから「仕事」と「陣痛」が同じ labor という単語で表されるのかなと考えていましたが、実際は語源的に「働く」とは「痛み」を伴うものであることから、女性の人生の中で最も痛い経験と言われる出産時の陣痛という意味も持つということだったんですね。
まさか7、8年の時を経て、しかもスペイン語を経由してその真実を知るとは!


ちなみに、DRAE の trabajo の項目に次のような定義もありました ↓

9. m. Penalidad, molestia, tormento o suceso infeliz. U. m. en pl.(trabajo)

この意味に関しては、ネガティヴな意味を持つ語源の名残を存分に留めていますね。
trabajo にこんなにネガティヴな意味があったなんて知りませんでした!

それにしても、trabajo =「仕事」=「不幸な出来事 (suceso infeliz)」なんていう方程式が成り立って良いんでしょうか?
働く身からしたら、なんだか複雑な気持ちになりませんか?(笑)

 

【まとめ】

trabajar の語源はラテン語で「3本の木材からなる拷問道具」を意味する tripalium である。「苦しみや痛みを伴う行為」を指していたことから、この単語が生まれた当時一般的であった重労働を意味するようになり、現在の「働く」という意味を持った。


まさかの展開でした。誰がこんな語源を想像できるでしょうか。
にしても、昔も今も「働く」って大変ですね。こんなの知ったら働く気失せまくりです。。。:(

ですが、切り替えていきましょう。
メキシコは5月1日が Día del Trabajo で国民の祝日です。数少ない祝日まであと1ヶ月。
明日からまた拷もn、、、仕事に行きましょう!

"Trabajar" literalmente cuesta mucho trabajo... jaja...