イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

¡Mi cabeza va a explotar!

ネイティヴスペイン語学習者として、ぼくは常に idiomáticoスペイン語を話せるようになりたいと思っています。
つまり、ネイティヴが自然に使う慣用的な言い方ということです。「言いたいことが伝わる」だけじゃなくて、せっかく勉強するなら「ネイティヴのように話す」が一つの目標です。

勉強しすぎて「頭が爆発しそう!」と言う時、「頭爆発しそう!」のように助詞の「が」を省略することがあると思いますが、これは日本語における idiomático な言い方の一つだと考えています。

さて、今回はそんなスペイン語における idiomático な言い方についてです。
例えば、「頭爆発しそう!」をスペイン語で言いたい時、みなさんはどう言いますか?今回のタイトルのように "¡Mi cabeza va a explotar!" でしょうか?
これに違和感を覚えた方はセンス有りではないでしょうか。

 

【きっかけ】

スペイン留学中、カタルーニャ人の先生の授業で "Esta película cambió mi vida" というタイトルのプリントが配られたんですが、その時先生はタイトルを

"Esta película me cambió la vida"

と言いながら配っていました。その瞬間、この二つに何か違いがあるのか?あるならばどういったニュアンスの違いがあるんだろう?と疑問に思ったので調べてみました。

 

【考察】

まず、二つの文を文法的に見てみると次のようになります。

 ① 動詞 (cambió) + 所有詞 (mi) + 名詞 (vida)
 ② 目的格代名詞 (me) + 動詞 (cambió) + 定冠詞 (la) + 名詞 (vida)

正直言って②の言い方は思い付きませんでした。この言い方を自然に使っていたら相当なスペイン語センスの持ち主じゃないでしょうか?
実際ネイティヴの友だちに聞いてみても全員②の方が自然とのこと。

ここでの大きな違いは、所有詞を使っているか否かですね。
この「所有詞」に関して、我らが Real Academia Española の Nueva gramática には次のような記述がありました ↓

他の言語では所有詞が用いられる場面で、スペイン語では所有を表すために定冠詞が用いられることがある(§18.7a)

いつか、ニュージーランド人の友人がスペイン語の動詞活用が多すぎて "My head is exploding!" と騒いでました(笑)
確かに他の言語、少なくとも英語では "MY head" のように所有詞を用いますね。

では、スペイン語で所有詞の代わりに定冠詞が用いられるのはどういう場合なのでしょうか?

POSESIÓN INALIENABLE(他人に譲渡不可能なものの所有)を表す場合、所有詞より定冠詞が適していることが多い

Se metió la mano en el bolsillo / Metió su mano en su bolsillo
Se quitó la chaqueta / Se quitó su chaqueta
*Me duele mi cabeza / *Mi cabeza duele / Me duele la cabeza
*Sufre de su plumón / Sufre del plumón
(§18.7b)

スペイン語一年生で習う動詞 doler の "Me duele la cabeza" の構文は、習った当時はなんだか特殊に感じたものですが、実は POSESIÓN INALIENABLE が理由だったんですね。
「他人に譲渡不可能なものの所有」ということで身体の一部を表すようですが、それ以外にも使用されるようで、、、

定冠詞で表される所有物は常に他人に譲渡できないもの (inalienable) というわけではない
Olvidé el paraguasTengo mal estacionado el coche; Me robaron el reloj などのように、ある個人の所有物であると(文脈などから)当然のように解釈できるものは所有詞を用いる代わりに人称代名詞によって所有者を表すことができる(§14.7j)

すなわち、文脈からものの所有者が明確な場合は定冠詞で十分ということですね。
確かに、ここでの例文内の定冠詞はその文脈から主語や間接目的語の人物の所有を表していることが想像できますね。むしろ定冠詞の代わりに所有詞を使ったら重複な気がします。この感覚は日本語と同じですね。

これに加えて、他にも所有詞の代わりに定冠詞が使用される場合があるようで、、、

Por efecto del cansancio que me prodecu la claridad que entra por el ventanal, se me cierran los ojos (Montaño, Cenizas); Al oírse llamar Orlando, cosa muy extraña, no se le heló la sangre. Ni se le aceleró el pulso, ni empalideció (Chavarría, Roja); ¡Cómo se me abre la boca! -dice cada cinco minutos (Mihura, Memorias) のような MOVIMIENTOS NATURALES においても定冠詞が使用される
これらの場合は、*Se le heló su sangre; *Se me cierran mis ojos のように定冠詞の代わりに所有詞を用いることはできない(§18.7e)

MOVIMIENTOS NATURALES はつまり「身体の一部の動き」ということです。
先の POSESIÓN INALIENABLE は所有詞の代わりに定冠詞でも所有者を表せるとありましたが、MOVIMIENTOS NATURALES の場合はむしろ定冠詞しか認められないようです。

所有詞を使わなくても定冠詞で所有者を示すことが可能であることが分かりましたが、その形態は次のようです ↓

 所有者を表す定冠詞を含む文形態は以下である

≪主語 - 直接目的語≫ Carlota levantó la mano
≪間接補語 - 主語≫ Le duele la cabeza
≪間接補語 - 直接補語≫ Le curaron la herida

(§14.7ñ)

上でも述べた通り、定冠詞の付いた名詞の所有者は主語や目的語から明らかです。
カタルーニャ語の先生が言った "Esta película me cambió la vida" の文構造での me は言うまでもなく la vida の所有者を示していますが、これは引用内の三つ目の≪間接補語 - 直接補語≫の関係性ですね。


さて、ここまでは「① 動詞 (cambió) + 所有詞 (mi) + 名詞 (vida)」の「所有詞」側から見てきました。
では、次に「② 目的格代名詞 (me) + 動詞 (cambió) + 定冠詞 (la) + 名詞 (vida)」の「目的格代名詞」の側面についても探してみると、次の説明を見つけました ↓

DATIVO SIMPATÉTICO o POSESIVO は所有を表す間接目的語の役割を果たす
Se le hincharon los piesSe te nubló la vista; Me torcí el tobillo (Se me torció el tobillo) のように、スペイン語ではしばしば強勢のない与格‹1›代名詞によって定冠詞のついている名詞の所有者を示す(§35.7f)

‹1› 与格 (dativo) ... 間接目的語。日本語の「〜に」を表す格。

下線部の le, te, me のように所有者を表わす間接目的語のことを DATIVO SIMPATÉTICO o POSESIVO という言うようですね。日本語では何と言うんでしょうか?とりあえず、ここでは「所有の与格」としておきます。

この間接目的語が持つ用法の一つである「所有の与格」の用法こそが、カタルーニャ語の授業で先生が言った "Esta película me cambió la vida" の me ですね。

しかし、動詞 doler と異なり、cambiar は "Esta película cambió mi vida" と "Esta película me cambió la vida" の二種類で同じ内容を表せます。
この点に関しては、次の引用部で言及されていました ↓

Pagó {su ~ la} vida; Recobrará {sus ~ las} fuerzas のように、所有詞と定冠詞のどちらの選択肢も許容する他動詞と直接目的語は多い
Le brillaban los ojos en la oscuridad と Sus ojos brillaban en la oscuridad の二文は同じ内容を表すが、所有詞を用いると、「他の誰でもなく、ある個人の所有」ということを強調する(§18.7i)

ニュートラルに所有を示す、すなわち、所有者をわざわざ強調しないのであれば、所有詞ではなく、「所有の与格」の用法を持つ間接目的格人称代名詞を使用する方が自然ということです。
この点もまた日本語と同様ですね。日本語でもわざわざ「『おれの』頭が爆発しそう!」とは言わないですよね。
これはつまり、今回の表題のように "¡Mi cabeza va a explotar!" と言うと、「他のだれの頭でもなく、"MI cabeza" が爆発しそう」と強調していることになります。
これを「所有の与格」を用いて "¡Me va a explotar la cabeza!" と言うことによって、変に所有者を強調することなく、ニュートラルに言い表せるということになります。

ちなみに、ネイティヴの友人複数に尋ねてみましたが、全員 "¡Me va a explotar la cabeza!" の方が idiomático だと言っていました!答えが出ましたね。


最後に、参考として次の記述を引用しておきます。

Abrió sus grandes ojos; Movió su pesada cabeza a uno y otro lado; Su pierna dolorida le impedía caminar のように、所有物に形容詞が付く場合は所有詞を使用する方が好まれる(§18.7c)

このような傾向もあることを頭に入れておきましょう。

 

 【今回の結論】

● 身体の一部など他人に譲渡することのできないもの、または文脈からその所有者が明確なものの場合は、所有詞の代わりに定冠詞を用いてその所有を表すことができる。(例: Me duele la cabeza; Me robaron el reloj, etc.)

● 間接目的語が持つ「所有の与格 (DATIVO SIMPATÉTICO o POSESIVO)」の用法によって、所有詞を用いずにその所有を表すことができる。(例: Se le hincharon los piesSe te nubló la vista, etc.

● 所有詞を用いるとその所有者を強調することがあり、「所有の与格」を用いることで強調を避け、ニュートラルにその所有者を示すことができる。

→ "Esta película cambió mi vida" よりも "Esta película me cambió la vida"、"¡Mi cabeza va a explotar!" よりも "¡Me va a explotar la cabeza!" とする方がネイティヴにとって自然な言い方である。


スペイン語一年生で習った "Me duele la cabeza" の文構造が、まさか "¡Me va a explotar la cabeza!" の文構造に通ずるなんて。
ぼくは上で書いたきっかけに出逢うまで、「頭爆発する!」に "Me duele la cabeza" の文構造が応用されるとは想像もしてませんでした。まだまだでしたね ;)


Casi me explota la cabeza escribiendo este artículo... Pero, de todos modos, espero que os haya sido de ayuda :)