イスパニア語ブログ

FILOLOGÍA ESPAÑOLA

Cara oculta de la Luna

今回の表題は「月の裏側」。
スペイン語ではこう呼ばれるそうです。「cara oculta = 隠れた秘密の面」でまさにその通りですね。

コイントスの "Cara o Cruz" のように cara は「表」なので「裏」である Cruz oculta の方が合っているんじゃないかと思いましたが、聞く話によると "Cara o Cruz" は硬貨のように肖像画があるものに用いられ、「人物(の顔)が描かれている面」= Cara =「表」となるんだそうです。なので Cara があっての Cruz があるということなので、cruz だけで裏側というわけではないようです。なので、ここでは単純に「面」という意味での cara だということですね。


今年の頭に中国の「嫦娥4号」が史上初めて月の裏側に着陸したというニュースがありましたが、今後月の裏側の解明が進んでいくと、この Cara oculta de la Luna という呼び方も変えないとですよね。もう「秘められた」面じゃなくなるんだから ;)

ちなみに、英語では「月の向こう側」ということで far side of the Moon と言うそうで。ただ、スペイン語でも英語でも同じように lado oscuro de la Luna, dark side of the Moon とも呼ばれているそうです。(そうはいうものの実際は太陽光が当たる時間帯もあるそうですが。)

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el lado oscuro

そして、ぼくがこっそり崇拝に近い敬意を抱いているイギリスのSF作家H.G.ウェルに The First Men in the Moon(日本語題『月世界最初の人間』)という作品があります。
読んだことはまだないので次日本に帰るときにAmazonで買おうと気持ちを高めているのですが、彼がこの作品を書いたのは1901年です。
ライト兄弟が世界初の有人動力飛行で空を羽ばたいたのが1903年ですよ?人間がまだ空すら飛んでいない頃にH.G.ウェルズは「反重力」を用いての月旅行について書いていたのです!個人的にこのH.G.ウェルズは未来から来たタイムトラベラーだと思っています!

その話は置いといて、、、
今回は、古来より人類を魅了し続け、現代でも人類が追い求めている存在「月」に関連するテーマを見ていこうと思います。(まさに "pedir la luna" ですね。)

 

【きっかけ】

今回の直接的なきっかけは lunático,a という単語です。

高校生の時、朝読書の時間に英和辞書を読んでいたんですが、そこで学んだ単語や得た(言語学的な)知識は現在まで覚えているものです。
そのひとつが lunatic という単語。その時は単純に「lunatic = 気が狂った」と覚えただけでしたが、スペイン語を学び始めて luna という単語を知ったとき、ビビビッと来ました!

でも、なんで「月」が「気が狂った」という単語に組み込まれているのか?単なる偶然かはたまた必然か?
確かに、満月の夜に狼男になるといったように「月=狂気」という方程式が想像つかないわけでもないですが。

そんなこんなで、今回もその語源から迫っていきたいと思います。

 

【語源】

まずは luna という単語の語源を探ります。
De Chile.netDEEL から。

ラテン語の文献には losna という古い形が見られ、louksna, leuksna という単語に由来し、lux, lucis (luz), lucere (brillar, lucir), lumen (lumbre, luz)などと同じ起源を持つ
leuk- はインド・ヨーロッパ語族の語根で、例えばギリシャ語の leukós は 'blanco brillante(輝く白)' を意味した
従って、元々 luna という単語は 'la luminosa, la que ilumina(光り輝くもの)' を表した
「月」は神格化され、敬意を表してローマでは神殿も建立されたギリシャ神話の Selene のように女性的な力強さを想起させるものでもある(LUNA)

ここで登場する Selene とはギリシャ神話の月の女神で、ローマ神話の月の女神 Luna に当たるそうです。
辞書を引いてみると selenología という単語を見つけました。「月学」という月の地質を研究する学問のことだそうです。
この Selene, selenología に共通する部分 selen(o)- については ↓

ギリシャ語に起源を持ち、「月」を意味する
この単語はカスティーリャ語としては成立した単語ではなく、主に合成語において用いられる (selenografía: 月面図, selenita: [月に住むとされる]月人)(SELENO)

カスティーリャ語としては成立した単語ではな」いというのはすなわち、seleno という単語はスペイン語に存在はしておらず、「月」に関する語彙を生み出す際にだけ使われるということです。

そして、先の引用で出てきたギリシャ神話での月の女神の Selene ですが、ローマ神話Luna と同じで、そのまま「月」を意味するようですね。

調べていてたまたま見つけたんですが、JAXAの月探査機「かぐや」ってありますよね?あの名前って実は愛称だそうで、正式には「セレーネ (SELenological and ENgineering Explorer)」らしいです!

脱線しますが、NASAのアポロはギリシャ神話の太陽神 Apoloアポロン)にちなんだとか。全く知りませんでした!
ただ、ここで疑問なのは月探査プロジェクトにどうして太陽神の名前が付けられたのか、です。調べてみたものの、あまりこれといった由来が見つかりませんでした。
スペイン語に関係ないのであまり深追いはしませんが、こちらの記事の内容をひとまず一説として紹介します ↓

"Cómo y porqué se escogió el nombre de un Dios para el Programa Apolo"

この記事によると「由来の歴史はとても思いがけないもの」であり「そこまで特別な理由はない」そうです。
それまでもNASAの宇宙開発事業において"マーキュリー"計画や"サターン"ロケットのように神話の神々の名前が使われており、新たな計画(後のアポロ計画)にも神の名前から付けようという流れがあったそうで。
そんな中で目星を付けられたのが「アポロ」。翼の生えた馬に牽かれた戦車に乗る神「アポロ」は弓兵として膨大な距離をものともせず標的を撃つことができるという話から、距離に関係なく目的に辿り着くという意味を込めて月到達プロジェクトにその神の名前「アポロ」が用いられた、という説があるそうです。


さて、前置きが長くなりましたがここからが本題です。

Lunático は断続的に「狂気 (loquera)」に苦しむ人を言及している
この単語はラテン語lunaticus から来ており、月の様相に関係がある
ローマ人の時代‹1›にはすでに犯罪・自殺・精神の錯乱した行為が満月の夜に頻繁に起きるということが知られていた (LUNÁTICO)

‹1› ローマ人の時代 ... 原文は "en el tiempo de los romanos" であるため、具体的にどの時代を指しているかは不確かです。ただ、「古代ローマ」と仮定するとそれは紀元前753年から紀元後476年のことです。

月が人間のバイオリズムに影響を与えているという話はよく聞きますが、古代ローマの時代にすでにそのことに気付いていて、人間に「狂気」を呼び起こさせるということを知っていたんですね!

また、ここで一つひっかかったのが、lunático の表す「狂気(loquera)」というのは常時的なものではなく、一時的なものであるという点。
上の【きっかけ】でも述べた通り、「月=狂気」という方程式を見るとやはり満月を見て変身する「狼男」の話が思い浮かびましたが、これってまさに一時的なものですよね?

ここで思い出した話が一つあります。
中学生くらいの時に見たテレビで千原せいじが話してたんですが、「狼男は狂犬病患者」という説があるらしく、医学も倫理も今ほど発展していなかった中世において、狂犬病の症状のひとつ「一時的な錯乱」というのが狼男伝説と混ざったとかなんとか。「狂犬病にかかり、人格が豹変する」という錯乱状態の狂気が、「満月の夜に狼男になり、凶暴な行動をとる」という話と繋がったんですかね。

lunático の語源と「狼男伝説」が交わった記述はネットで探してみたもののありませんでしたが、もしかしたらどこかでつながっているかもしれません!あくまで個人的な説ですが、みなさんはどう思いますか?


今回の「月」に関することを書くにあたって、ずっと気になっていたことも調べようと思っていました。それは、「ほくろ」がどうして「月」の形容詞 lunar と同じなのかということ。とても不思議で、絶対におもしろい話が裏にある!と思ってました。

が。

調べてみても特におもしろい内容がなかったので割愛します。
そもそもこの単語が「ほくろ」という意味を持つに至る起源がはっきりしていないらしく、これといった文献も見当たりませんでした。今回見つけた理由は「月と形が類似しているから」。

思てたんとちがあああう!

調べないで、ずっと不思議にしたままで想像に耽っていた方が良かったとさえ思っちゃいました。

 

【まとめ】

lunático,a という一見「月 (luna)」に関係あると思える単語は、実際はそれに関連する意味は持ち合わせていない。その起源は古代ローマまで遡り、満月の夜に「犯罪・自殺・精神の錯乱」などの loco とも言える行為が頻繁に起きることに基づいて「満月=狂気」という考えから生まれた。


今回の記事を書くためにいつも通りいろいろと調べたんですが、調べ始めたの7月19日のGoogleのトップロゴ(Doodleと言うらしいです)がこちらでした ↓

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50º aniversario de la llegada del hombre a la Luna

すごい偶然じゃないですか?
「月」に関して調べ始めた日が人類が月面着陸の50周年記念日だとは!

ただ、よくよく調べてみると、ちょうど50年前の「1969年7月19日」は厳密には月面着陸ではなくてアポロ11号が月の周回軌道に入った日付らしく、あのアームストロング船長が"人類にとって大きな一歩"を月面で踏みしめたのは翌日の「1969年7月20日」だそうです。
ちなみに、このことをネットで調べていると10年前の2009年の「月面着陸40周年」の Google Doodle を見つけました ↓

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40º aniversario de la llegada del hombre a la Luna

いや、"GOOGLE" の文字、もはやないやん。
イメージ先行しすぎて、本来のロゴとしての機能を忘れてもうてる。本末転倒。いや、これがアートってやつか。。。?


最後に。
ぼくが今いる México の国名はナワトル語から来ており、語源的には「月のへそ」という意味だそうです!これもオモシロイ!:)